黒サガも不精ではあるものの、目をかけている相手に対しての面倒見は比較的良いのではないかと思うのです(希望)。
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星矢がテキストを相手に睨めっこをしている。
隣では黒サガがソファーに寝転がっている。
聖域では聖闘士も教養を身に付けるべく、勉学は推奨される。星矢もまた魔鈴に訓練時代に色々教えられてはいたのだが、聖闘士となった今は自分で学ぶしかない。
星矢は座学があまり得意ではなかったので、手っ取り早く頼られたのが黄金聖闘士たち…中でもサガだったというわけだ。
仕事から帰宅したカノンもそれは分かっていて、今夜は三人分メシの支度をしてやるかと腕をまくる。
台所へ行きかけてふと、一体どのようなテキストが用意されたのか興味が沸いた。うっかり流しかけたが今の兄は黒い方だ。一体どんな事を教えているのか気になったのだ。
星矢の邪魔をせぬよう、ひょいと覗くと『枕草子』の文字が見える。
(何だ、普通だな)
拍子抜けしながらもサガに声を掛ける。
「日本人の星矢に合わせたテキストを用意したのか」
黒サガは鷹揚に顔をあげ、ゆっくりと頷いた。
「それもあるが、これは入浴に関しても大変含蓄のある内容なのだ」
カノンの目が点になる。
東洋の古いエッセイゆえに詳しくは覚えていないが、そんな内容ではなかった気がする。
「…どこがだ?」
思わず尋ねると、サガは寝そべっていたソファーから起き上がり、滔々と語り始めた。
「春はあけぼの…から始まる一文は、移り変わる季節のなかでも特に良いと思われる時間帯を著わしているが、これは入浴時間にも当てはまる」
「………は?」
「ギリシアの春は四季の中でも一番素晴らしいとされる。中でもあけぼのの時刻に浸かる湯はこの上も無い。早朝鍛錬のあと、陽がまだ昇らぬ山際が徐々に白んでゆくのを眺めながらの露天風呂は至福としか良いようが無いのではなかろうか。風には花の香がひそみ、木々の新緑がみずみずしく空気を潤わせる。命の入浴とはまさにこのこと。そして夏の入浴ときたら夜だ。暑さの和らいだ月の頃に汗を落すべく熱めの風呂に…」
サガは趣味が風呂なのではと思えるほどの男だが、それは黒サガにも当てはまる。いや、白サガにはまだ遠慮があるので風呂時間は限られるのだが、黒サガは自分が入りたいとなれば、遠慮なく朝風呂だろうが昼風呂だろうが浸かりだす。戦士のくせに肌が綺麗になるわけだ。
延々と止まらない黒サガの風呂語りにカノンが遠い目になっていると、星矢から救いの声がかかった。
「おなか減った…」
サガは星矢には甘い。一瞬声が止まり、そしてその隙を見逃すカノンではない。
「よし、すぐに夕飯にするな!」
そのままダッシュで台所へ飛び込む。
(あとで星矢用のテキストが偏っていないかチェックしてやらんと)
そんな風に考えるカノンも、とても面倒見の良い男なのだった。
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黄金聖闘士たちは皆頭良さげな印象です。ミロは数学でカミュは物理学とか勝手に得意科目を妄想したりしています。
そしてパチパチとコメントの数々、ありがとうございます!
アットホームでありつつ排他的でない海界話が良かったというコメントを沢山頂き(沢山といっても拙宅にしてはです(>ω<;))、嬉しい驚きでした。
そ、そこまでご大層なお話ではないのですが、皆が仲良くしているのが好きなので、今後も拙宅ではあんな感じだと思います。個別返信は夜でもにさせて下さい(^^)