星矢関連二次創作サイト「アクマイザー」のMEMO&御礼用ブログ
エリシオンの蟹と黒サガ
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野には美しい花々が咲き乱れ、甘やかな香りが大気に溶け込んでは消えていく。なだらかな曲線をえがく丘稜には、見渡すかぎり淡い緑が衣をなしている。
「は~、ここが黄泉比良坂と同じ『死』だとは思えねえなあ」
デスマスクの声は感嘆のかたちをとりながらも、半分呆れているように聞こえた。エリシオンへ足を踏み入れての第一声だ。
「地上とて均一の世界ではなかろう。死後とて同じこと」
答えたのは紅い邪眼を持つ黒髪の男、ジェミニのサガ。
不遜かつ倣岸なまなざしには、この美しい世界も、ここまでの道中に通り抜けた冥府も大差なく映っているようだった。
「そりゃそうだよな。俺だって死を操る黄金聖闘士だ。極楽浄土だの天国だのの存在は知ってたわけよ。ただ、なんつーか…俺の慣れ親しんだ死は、やっぱ黄泉比良坂なんだよなあ」
「あそこは入り口であって、まだ死ではない」
「一般人にはそうじゃねーよ」
黒髪のサガの冷静な言い分に、デスマスクは思わず笑った。
「ああ、でも俺はまだまだ死を判ってなかったのかもしれねえな…ここは死の世界だが、まあ悪くねえ」
眼を向けたその先には、ひらひらと紋白蝶がはばたいて、新しい花を探している。常春の暖かな陽気が眠気を誘うかのようだ。
「選ばれた者だけが来ることを許された楽園。ここもまた一般人にとっての死ではないが」
先ほどのデスマスクの言葉尻をとらえ、サガが肩を竦める。
「それでもさ、死という終わりに、地獄以外の場所があるってんなら、俺が巻き添えに殺したガキどももそっちへ行ってるかもしれねえし」
軽口めいた言い方をしたデスマスクへ、サガは一瞬視線を流し、それから空を見上げた。青く爽やかに広がっているそこには太陽がない。冥王は太陽を嫌うからだ。
「サジタリアスが言っていたのだが」
射手座の話題がこちらのサガの口からこぼれたことに、デスマスクは内心驚く。しかし顔にはおくびにも出さない。
「死は終わりではないのだと」
「へえ」
一体どんな話をしたのだろうかと興味を持って先を待つも、一向に続けられる気配は無く、しびれを切らしたデスマスクは自分から話を振ってみた。
「それで?」
「それだけだ」
「じゃあ死の先に何があるんです」
「新しい生、ではないか?」
サガは足元に咲く白い花を一輪摘んだ。可憐な鈴蘭は、摘み取られて更に涼やかと香りを増したようだ。
「お前が巻き添えにした者たちも、わたしが殺した者たちも、彼岸を越えてそろそろ新しい生を得ているかもしれん」
らしくない言葉の連続にデスマスクは苦笑する。
「アンタもしかして、慰めてるつもりなんスか」
「可能性の話をしただけだ」
「素直じゃないですね」
「では素直に言わせてもらうが、お前が悪くないといったこの世界、わたしにはどうにも退屈だ。地獄のほうがまだマシだぞ」
「いやまあ俺にも居心地は悪いっつか、上質すぎる椅子に座らされた気分ですけどね?アンタがそんな事をいうとは」
「こんな辺鄙で長閑な場所を好むのは、もう一人のわたしだけだ」
「辺鄙で長閑でも、神酒(さけ)と妖精(おんな)は不自由しないらしいっすよ」
「俗物め」
サガが完全に呆れの色を見せる。
「お前が誕生日にエリシオンへ行きたいなどというから一緒に来てみたが、本当はそれらが目的であったのだろう」
聖戦時に1度エリシオンは崩壊している。以前は神の道を越えねばたどり着けなかった至岸の世界だが、現在は復興中の冥界の片隅に仮設置されているため、八識を持つものならば潜り込むことは出来るのだ。
「誤解だサガ。エリシオンの酒も女も上等すぎて俺には合わねえ」
「では何が目的だったのだ」
「まあ、自分の力の立ち位置の再確認つうか…心の整理っすけど、アンタとのデートという副産物まで付いて来てラッキーというか」
「一緒に来てくれと言ったではないか」
「本当に来てくれるとは思ってなかったんですよ」
デスマスクがそう伝えると、黒サガは大きなため息をついた。
「貴様は阿呆だ」
「ずいぶんな言われようなんですケド」
「阿呆は阿呆だ。お前が誘い、わたしがそれに応える。それは幸運とは言わぬ。わたしは出来る限りお前に応えたいと思っているからな」
「へ?」
ポカンとした表情は、聖闘士としてでなく、完全に24歳の青年の素だ。
「…何でですか」
「だから貴様は阿呆だというのだ!」
サガは先ほどから弄んでいた手の中の鈴蘭を、デスマスクの鼻先に突きつける。
とても毒をもつとは思えぬ可憐な花からは、涼やかな香りが漂ってきた。
デスマスクがそれを受け取ると、サガは花むらの中へ腰を下ろした。デスマスクもつられるように腰を下ろす。どこか遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。
幸福を感じたのは、ここがエリシオンだからでは断じてないとデスマスクは思った。
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1日遅れましたけれども、デっちゃん誕生日おめでとう!(>▽<)
このあと「やはり退屈な場所だ。お前といるのでなければ帰っている」「場所はそうですけど俺は退屈じゃないですよ」みたいな会話をしていると、タナトスがぷんすかやってきて「貴様ら無断侵入しておいてその言い草は万死に値する!」とか言うんです。
でも、蟹は自分(死)の眷属のようなものだし、蟹は誕生日だから特別に許してやるとか言いだすんですけどね!
デスマスクは聖闘士の中でも特殊な位置にいるように思います。冥闘士に積尸気冥界波はあんまり意味ないということは、NDの蟹座デストールとガルーダの一件を見ての通りなんですが、じゃあなんで人類存続の戦いに備えて、黄金聖闘士の一人がそういう技を選択してるのかってことですよね。LC蟹じゃないですけど、他にも色々技のバリエーション持ってるか、何か他に意味があるのかもしれないなあとか妄想が広がります。
今日もぱちぱち有難うございます!日々の癒しです。
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野には美しい花々が咲き乱れ、甘やかな香りが大気に溶け込んでは消えていく。なだらかな曲線をえがく丘稜には、見渡すかぎり淡い緑が衣をなしている。
「は~、ここが黄泉比良坂と同じ『死』だとは思えねえなあ」
デスマスクの声は感嘆のかたちをとりながらも、半分呆れているように聞こえた。エリシオンへ足を踏み入れての第一声だ。
「地上とて均一の世界ではなかろう。死後とて同じこと」
答えたのは紅い邪眼を持つ黒髪の男、ジェミニのサガ。
不遜かつ倣岸なまなざしには、この美しい世界も、ここまでの道中に通り抜けた冥府も大差なく映っているようだった。
「そりゃそうだよな。俺だって死を操る黄金聖闘士だ。極楽浄土だの天国だのの存在は知ってたわけよ。ただ、なんつーか…俺の慣れ親しんだ死は、やっぱ黄泉比良坂なんだよなあ」
「あそこは入り口であって、まだ死ではない」
「一般人にはそうじゃねーよ」
黒髪のサガの冷静な言い分に、デスマスクは思わず笑った。
「ああ、でも俺はまだまだ死を判ってなかったのかもしれねえな…ここは死の世界だが、まあ悪くねえ」
眼を向けたその先には、ひらひらと紋白蝶がはばたいて、新しい花を探している。常春の暖かな陽気が眠気を誘うかのようだ。
「選ばれた者だけが来ることを許された楽園。ここもまた一般人にとっての死ではないが」
先ほどのデスマスクの言葉尻をとらえ、サガが肩を竦める。
「それでもさ、死という終わりに、地獄以外の場所があるってんなら、俺が巻き添えに殺したガキどももそっちへ行ってるかもしれねえし」
軽口めいた言い方をしたデスマスクへ、サガは一瞬視線を流し、それから空を見上げた。青く爽やかに広がっているそこには太陽がない。冥王は太陽を嫌うからだ。
「サジタリアスが言っていたのだが」
射手座の話題がこちらのサガの口からこぼれたことに、デスマスクは内心驚く。しかし顔にはおくびにも出さない。
「死は終わりではないのだと」
「へえ」
一体どんな話をしたのだろうかと興味を持って先を待つも、一向に続けられる気配は無く、しびれを切らしたデスマスクは自分から話を振ってみた。
「それで?」
「それだけだ」
「じゃあ死の先に何があるんです」
「新しい生、ではないか?」
サガは足元に咲く白い花を一輪摘んだ。可憐な鈴蘭は、摘み取られて更に涼やかと香りを増したようだ。
「お前が巻き添えにした者たちも、わたしが殺した者たちも、彼岸を越えてそろそろ新しい生を得ているかもしれん」
らしくない言葉の連続にデスマスクは苦笑する。
「アンタもしかして、慰めてるつもりなんスか」
「可能性の話をしただけだ」
「素直じゃないですね」
「では素直に言わせてもらうが、お前が悪くないといったこの世界、わたしにはどうにも退屈だ。地獄のほうがまだマシだぞ」
「いやまあ俺にも居心地は悪いっつか、上質すぎる椅子に座らされた気分ですけどね?アンタがそんな事をいうとは」
「こんな辺鄙で長閑な場所を好むのは、もう一人のわたしだけだ」
「辺鄙で長閑でも、神酒(さけ)と妖精(おんな)は不自由しないらしいっすよ」
「俗物め」
サガが完全に呆れの色を見せる。
「お前が誕生日にエリシオンへ行きたいなどというから一緒に来てみたが、本当はそれらが目的であったのだろう」
聖戦時に1度エリシオンは崩壊している。以前は神の道を越えねばたどり着けなかった至岸の世界だが、現在は復興中の冥界の片隅に仮設置されているため、八識を持つものならば潜り込むことは出来るのだ。
「誤解だサガ。エリシオンの酒も女も上等すぎて俺には合わねえ」
「では何が目的だったのだ」
「まあ、自分の力の立ち位置の再確認つうか…心の整理っすけど、アンタとのデートという副産物まで付いて来てラッキーというか」
「一緒に来てくれと言ったではないか」
「本当に来てくれるとは思ってなかったんですよ」
デスマスクがそう伝えると、黒サガは大きなため息をついた。
「貴様は阿呆だ」
「ずいぶんな言われようなんですケド」
「阿呆は阿呆だ。お前が誘い、わたしがそれに応える。それは幸運とは言わぬ。わたしは出来る限りお前に応えたいと思っているからな」
「へ?」
ポカンとした表情は、聖闘士としてでなく、完全に24歳の青年の素だ。
「…何でですか」
「だから貴様は阿呆だというのだ!」
サガは先ほどから弄んでいた手の中の鈴蘭を、デスマスクの鼻先に突きつける。
とても毒をもつとは思えぬ可憐な花からは、涼やかな香りが漂ってきた。
デスマスクがそれを受け取ると、サガは花むらの中へ腰を下ろした。デスマスクもつられるように腰を下ろす。どこか遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。
幸福を感じたのは、ここがエリシオンだからでは断じてないとデスマスクは思った。
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1日遅れましたけれども、デっちゃん誕生日おめでとう!(>▽<)
このあと「やはり退屈な場所だ。お前といるのでなければ帰っている」「場所はそうですけど俺は退屈じゃないですよ」みたいな会話をしていると、タナトスがぷんすかやってきて「貴様ら無断侵入しておいてその言い草は万死に値する!」とか言うんです。
でも、蟹は自分(死)の眷属のようなものだし、蟹は誕生日だから特別に許してやるとか言いだすんですけどね!
デスマスクは聖闘士の中でも特殊な位置にいるように思います。冥闘士に積尸気冥界波はあんまり意味ないということは、NDの蟹座デストールとガルーダの一件を見ての通りなんですが、じゃあなんで人類存続の戦いに備えて、黄金聖闘士の一人がそういう技を選択してるのかってことですよね。LC蟹じゃないですけど、他にも色々技のバリエーション持ってるか、何か他に意味があるのかもしれないなあとか妄想が広がります。
今日もぱちぱち有難うございます!日々の癒しです。