いつものアレなタナサガ+黒サガでロスサガっぽい妄想を、この間のキューピッドの矢ネタで…
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その日、突如として巨蟹宮に巨大な神気が沸いた。
黄金聖闘士たちの多くは、その神気に覚えがある。かつて敵対していたハーデスの配下である双子神の片割れ、死の神タナトスの小宇宙だ。
巨蟹宮から通じている黄泉比良坂への道を、タナトスは神の力をもって、強引に冥界側から押し開いたのだ。宮の守人であるデスマスクがいれば、アテナの結界の敷かれた聖域でそのような真似は許さなかっただろうが、あいにくと彼は別の勅命で留守にしている。そしてまた女神は遠く日本へと出かけている。
停戦条例が結ばれているとはいえ、冥界の神が聖域を訪れたとなれば、聖闘士たちが警戒するのは当然のことだった。
即時にかけつけ、取り囲んだ黄金聖闘士たちを一瞥し、しかしタナトスは怯むようすなど全くない。神聖衣を着用した者でなければ、己の相手には全くならぬことを理解しているからだった。
「サガを呼べ」
人間が神に従うのは当然との意識もあらわに、タナトスは命じた。
「わたしならば、ここにいる」
すぐさま応えが返る。双児宮は巨蟹宮の隣宮だ。サガは真っ先に駆けていたものの、様子をみるために気配を潜めていた。サガとタナトスは私的な交流を持っていたが、それでも聖闘士としての用心を怠っているわけではない。先触れもなく聖域へと訪れたタナトスを、最も警戒しているのは死の神の恐ろしさをよく知るサガなのだ。
しかし、タナトスの目的が聖域ではなく自分にあるというのならば、それを確かめるためにもとサガは前へと進み出る。一方タナトスもまた、周囲の聖闘士たちなどまるで存在などしないかのようにサガへと近づいた。
「今日、用があるのは、おまえではない」
名を呼んでおいての言い草に、サガが怪訝そうな顔をする。
タナトスは近づきながら、ローブに隠れていた右手を取り出した。
手には黄金のやじりが握られている。もちろん射手座の矢ではない。矢座のものでもない。
「もうひとりのお前を出せ」
はっとサガが構えをとる間もなく、タナトスの小宇宙がサガを包み込む。
白い紙に果汁で描かれた文字が炎で炙り出されるかのように、サガの中から強制的に黒髪の彼が表面へと押し出される。サガにとっては屈辱的なことだったろう。
もちろんタナトスの動きに対して、周りの黄金聖闘士たちも黙って従うつもりなどなかった。しかし、サガを含め誰一人動くことが敵わなかったのだ。黄金聖衣を瞬時に砕く神の力が、その場の全員を金縛りにして、地に縫い付けているのだ。
血の紅に染まった瞳が鋭くタナトスを睨み返すと、タナトスはそれすらも楽しむかのように笑った。
「何の用だ」
低く端的に問う黒髪のサガへ、タナトスはゆるりと手にした矢をみせる。
「これは、エリシオンに暮らすキューピッドより借り受けたもの」
別名エロスの矢…それが意味するところはひとつしかない。黒サガの表情がすっと消える。最悪の想定からはじき出される結果に対しての嫌悪と、冷静な計算が彼の中で交じり合う。
タナトスはまた一歩サガへと近づいた。
「常にオレに従おうとせぬ半魂よ、お前がオレに跪いて愛を請う姿を見せてもらおう」
ねずみを嬲る猫のように、タナトスは黄金の矢じりをサガの心臓へと向ける。かつてサガが自ら貫いたそこは、死の神と今でも繋がっている。白のサガの精神的な弱点である心臓へ、タナトスは容赦なくエロスの矢を突きたてた。
「サガ!」
動けぬなかで叫んだのはアイオロスだ。
黒のサガは矢を埋め込まれながらもちらりとアイオロスを一瞥し、それから視線を戻してタナトスへと宣言した。
「貴様にくれてやる愛などない」
そして次の瞬間、黒サガは自分の頭に向けて幻朧魔皇拳を放ったのだった。
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つづく。
今日は早めに帰れたので、今からLCのDVDを見ます(>▽<)