ウォーターサファイア7話の続き。ポにょ不在双子編。
=============================
私室エリアに設置された洋服ダンスの前で、どこか浮き立った様子のサガが、カノンに話しかけている。
「カノン、この服などどうだろうか」
「…何でもいいんじゃね?」
「そうはいかない。女性と出かけるのだ。男の側がいい加減な格好をして、相手に恥をかかせるわけにはゆかぬ」
「女性って…中身はポセイドンだろ…それにその服オレのだろ」
結局双子はポセイドンに押し切られる形で、共に地上へ外出する運びとなっていた。
聖域への乱入を諦めるかわりに、地上観光という妥協案を飲まされたわけだが、カノンの方は既にやる気がない。
「性別は肉体に付随するもの。身体が女性であれば女性扱いが当然であろう。お前の服を借りることはすまないと思うが、わたしは世俗用の私服を持っていないのだ」
「何でそんなにやる気に満ちているんだよ」
「女性とデートなのだぞ」
敢然と言い切った兄の発言に、カノンは果てしなく脱力してしまう。
「オレも一緒なんだが」
「Wデートだな」
「お前はWデートの意味を判っているのか」
「わたしとセラフィナ、わたしとカノンで2組のダブルだろう」
「……思考回路の基準がお前中心なのは理解した」
兄の発言で精神力を削られているカノンをよそに、サガは服選びに余念がない。ソファーに寝転がってそれを眺めていたカノンは、呆れの色を隠さず語りかけた。
「お前はモテるのだから、今更デートなどで喜ぶこともあるまいに」
何気ない一言であったのだが、サガは手を止めて苦笑した。
「モテたりなどしない。それに、女性とのデートも初めてだ…そのような余裕も機会も、1度たりとてなかったのでな」
「え、」
思わずカノンは身を起こす。『女性との』という前置きが気になるが、それは敢えて流した。
「しかし、女と手を握ったことくらいはあるだろう」
「さすがに、それくらいはある」
サガが拗ねたような顔で言い返す。
「ほう、いつのことだ。相手は?」
安心したような妬けるような気持ちが沸き起こるのを押さえ、カノンはサガの隣へ移動し顔を覗き込む。
「アテナに黄金の短剣をお渡ししたとき」
「………」
「他にもあるぞ。13年前のロドリオ村で、皆に囲まれているとき少女の一人から…。あ、あの時は別の少女から花も貰った。少年からも貰ったが」
「………もう何も言うな、サガ」
考えてみれば、幼少時から黄金聖闘士として厳しい修行や任務に明け暮れていたサガだ。陰の身分にあかせて遊びまわり、悪事に手を染めていた自分とは違う。そして13年前の反逆時以降、サガは老教皇シオンに化けて暮らしていたという。デートどころか私的な遊興時間もなかっただろうし、そんな事のためにリスクを冒す事など出来よう筈もない。
そしてすったもんだの末、いち聖闘士に戻ったサガの記念すべき最初のデート相手が娘ポセイドン(と弟)。
あまりの哀れさにカノンは涙が出そうになる。そもそもそれはデートと呼べるのか。
兄に向けてこれほど生暖かい同情の視線を向ける日が来ようとは、スペア扱いだった13年前の自分には思いもよらない事ではあった。
せめて楽しい思い出となるよう、フォローしてやらねばとカノンは決意する。
「サガよ」
「なんだ」
「お前の高スペックの半分は無駄だ」
しみじみ呟いたカノンの両頬は兄によって掴まれ、左右に極限まで引き伸ばされた。
=============================
原作サガの「まるで神のように多くの人々から慕われていた」シーンで、女の子と一緒に花を渡してる少年は、大きくなってもきっと花持参でサガを口説いてくれると信じてますよ。
今日もぱちぱち有難う御座います。心の栄養剤です!
ここのところ風邪気味なので今夜は早寝します。(>ω<)メールのお返事&バトン等明日以降にさせて下さい(ぺこぺこ)