タナトス様(マイス)が届きました!わーい。まだ開封はしておりませんが、早速サガの箱の上に置きました。今日は七夕です。
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「のうサガ、星が綺麗であろう」
「…はあ」
夜分に突然シオンが双児宮を訪れ、暫し付き合えというのでどこへ行くのかと思えば、やってきたのはスターヒル。
月と満天の星明りのみがこの地を照らし、街灯りも聖域の最奥までは届かない。遠くにちらちらと松明らしき火が動いて見えるのは、夜勤番の者たちだろう。
ギリシアの日の入りは遅く、なかなか暗くならない事を思えば、もう随分と夜もふけた時刻の筈だった。
星空を見上げていたシオンが、手にしていた皮袋から酒瓶を取り出した。
「星見酒も良いものだとは思わんか」
「…風流ですね」
先ほどからサガが気の抜けたような返事しかしていないのは、自省に沈んでいるためだった。サガにしてみればスターヒルは13年間の悪夢の始まりの地であり、シオンを殺した己の罪を強く思い起こさせる場所であった。
「もっと喜ばんか。この地には童虎ですら足を踏み入れさせたことはないのだぞ」
教皇以外、立ち入ることの許されぬ聖なる場所なのだから当然だ。禁を破った過去を思い返し、ますますサガは落ち込んでいる。
そんなサガへ、シオンは用意してきたらしい杯を投げて寄越す。落とさぬように慌ててサガが受け取ると、シオンは早速その杯へと酒を注いだ。そのあとに自分の杯へも手酌で酒を満たす。
サガは杯を覗き込んだ。なみなみと注がれた琥珀色に、月が映ってゆらりと揺れていた。
「13年間、よく頑張って聖域を守り通したな」
サガははっと顔を上げた。シオンはもう酒に口をつけている。
「わ、私は…そのような言葉を頂くことは何も…」
杯を持つ手が震える。過去の自分の驕慢によって多くの仲間が苦しみ、死に追いやられたのだ。そのせいで、生きてハーデスとの聖戦を迎えることの叶わなかった聖闘士たちの無念を思えば、労りの言葉など申し訳なさすぎて受けることが出来ない。
「やれやれ、相変わらず真面目な男だの。まあ良い、お前も飲め」
シオンはその反応すら予測していたかのように、最初の杯を軽く飲み干してサガにも酒を促す。サガも仕方がなく杯をぐっと空けた。
「お主は神になろうとしたが、それすらも大いなる運命の流れにすぎなかった。それはもう一人のお主にとって充分な罰であろうよ。」
空いた杯に、すかさずまた新しい酒が注がれる。
「罰だけでなく、たまには儂に後進を褒める機会を与えさせよ。儂にとっては直接の弟子だけでなく、この聖域にいる聖闘士の全てが可愛い孫のようなものなのだ」
「…孫、ですか」
正規の聖闘士から雑兵にいたるまで、教皇は聖域の全ての者にとっての父であり、厳しくも等しく慈愛を与える存在であった。それゆえに誰からも畏敬の念で慕われるのだ。
「サガよ、お前は出来が良いほうだ。もう少し胸を張るが良い…なんじゃ、泣く事はなかろう」
ほたほたと涙を零して下を向いてしまった双子座を、苦笑しながらもシオンはそれすら酒の肴にした。
「お主とはゆっくり話をしてみたかった。時間も酒もたっぷりあるゆえ、今夜は覚悟せよ」
「………御意にございます」
泣きながらも丁寧に返すサガを見て、やはりこの男は真面目だとシオンは感心した。
数時間後。
「流石にお主を抱えて此処を降りるのは、厳しいのだが」
すっかり酔いつぶされて転がっているサガを、『どこまでも手のかかる男だ』と自分が飲ませたことは棚に上げて、どうしたものかと溜息をつくシオンがいたのだった。
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たまにはサガに優しいシオン。七夕なので星の下で酒盛りです。