星矢関連二次創作サイト「アクマイザー」のMEMO&御礼用ブログ
エリシオン暮らしのタナトスは、人間にまったく価値を見出せぬと主張するわりに、人間社会の移ろいについて聞きたがる。ヒュプノス曰く『以前は本当に見向きもしていなかった』とのことなので、聖戦後に心境の変化でもあったのだろう。
その日は、祭祀についての問いがあった。神や自然への敬意をともなう贄事が、商業主義に彩られていく変遷の一例として、ちょうど時期の近いハロウィンを説明したように思う。意外なことに、タナトスは行事自体についてはわたしよりも詳しかった。
「ずっと封印されていらしたのに、よくご存知だ」
「オレにもかかわり合いのある日ゆえな。それよりサガよ」
死の神の銀色の瞳が、きらりと輝く。
「その日、オレはお前の元へ訪れる。供物がなければお前を連れ去るゆえ、現代ハロウィンに沿って支度をしておくがいい」
「それはつまり、菓子を用意しておけばよいのだろうか?」
「菓子で構わぬ」
「わかった、お待ちしよう」
請求などせずとも、茶菓子ならば来訪のたび用意しているのだが、タナトスがそのように言うので、エリシオンからの帰り道に町へ立ち寄り、飴玉にくわえて常よりも高級な菓子を買い求めた。
このところの聖域は、日本育ちの女神の影響をうけて世俗文化に緩やかなため、タナトス以外にも行事を楽しむ者が出ぬとも限らない。備えておくに越したことはないし、そのような者がいなければまだ幼い訓練生たちに分けてやればよいので、無駄にはならないだろう。
菓子の詰まった袋をもって十二宮まで戻ってくると、女神にすれ違った。袋を脇へ置き、膝をついて礼をとる。彼女は軽やかに微笑んだあと、じっとわたしを見た。
「ねえサガ、あなたは何か神と約定を交わしましたね?」
「は…約定というほどでもないのですが、タナトスが明日わたしを訪ねてくると」
聖戦後の協定があるとはいえ、女神の領域へ勝手に他神をいれるわけだから、隠すわけにもいかない。正直に明かしたわたしへ、女神は城戸邸の執事(タツミといったか)に持たせていた荷物から、小さな包みを取り出した。少女らしい包装紙でラッピングされ、品の良いリボンで結ばれている。
「私が焼いたクッキーです。貴方にも差し上げましょう」
「あ、ありがとうございます」
「タナトスにも困ったものね。でも付け込ませる貴方も悪いのですよ」
やはりタナトスを双児宮へ入れるのはケジメがなさすぎたろうか。女神は日本へ出かけるのだといい、執事とともに旅立っていった。
翌日、予告通りタナトスがやってきた。
考えてみると、双児宮へ来るには金牛宮や白羊宮を通らねばならないはずなのだが、騒ぎの起こった様子もない。彼らがわけもなく異神に通行を許すわけもないので、どうやって此処へ来たのかと尋ねると、物理的な道は通ってきていないと答えが返ってきた。
「この地上に、死の訪いを妨げることの出来る場所などない。相手の了承があればなおさら」
聖戦と職務とでは理の働き方が違うそうだ。そのようなものなのだろうか。
そこでわたしは思い出して、タナトスへ用意した菓子を渡そうとした。
しかし、見れば色とりどりであった飴も、見目良いデザインのチョコボンボンも、黒く消し炭のように腐食している。驚いて宮へ常備している茶菓子や果物の類も確認してみたが、すべて萎び腐り落ちているではないか。
タナトスの神力に触れたせいに違いない。
「供物がないのならば、お前を連れてゆくぞ」
死の神がニヤリと笑った。
畏れよりもさきに、己の迂闊さを思う。馴れ合いの日々が続いていたが、この存在は神なのだ。神は気まぐれであり、我侭なものでもある。
このまま連れて行かれてしまうのだろうかと思ったそのとき、卓上に置かれていた包みのリボンがひとりでに解けた。女神から頂戴した焼き菓子の包みだ。
中から花の形をしたジンジャークッキーが零れ落ち、タナトスの足元まで転がっていく。
タナトスは忌々しそうにその菓子を摘みあげた。
「小娘め」
その瞬間にタナトスの姿は消え、静寂のみが宮を支配する。
助かったことに安堵しつつも、なんだかタナトスにすまない気もして、そう考えてしまったことに今度は罪悪感が沸く。
焼き菓子を口に放り込むと、ピリ…となかなかに刺激的なアクセントのある味わいであった。
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タナトスとサガでハロウィン!
その日は、祭祀についての問いがあった。神や自然への敬意をともなう贄事が、商業主義に彩られていく変遷の一例として、ちょうど時期の近いハロウィンを説明したように思う。意外なことに、タナトスは行事自体についてはわたしよりも詳しかった。
「ずっと封印されていらしたのに、よくご存知だ」
「オレにもかかわり合いのある日ゆえな。それよりサガよ」
死の神の銀色の瞳が、きらりと輝く。
「その日、オレはお前の元へ訪れる。供物がなければお前を連れ去るゆえ、現代ハロウィンに沿って支度をしておくがいい」
「それはつまり、菓子を用意しておけばよいのだろうか?」
「菓子で構わぬ」
「わかった、お待ちしよう」
請求などせずとも、茶菓子ならば来訪のたび用意しているのだが、タナトスがそのように言うので、エリシオンからの帰り道に町へ立ち寄り、飴玉にくわえて常よりも高級な菓子を買い求めた。
このところの聖域は、日本育ちの女神の影響をうけて世俗文化に緩やかなため、タナトス以外にも行事を楽しむ者が出ぬとも限らない。備えておくに越したことはないし、そのような者がいなければまだ幼い訓練生たちに分けてやればよいので、無駄にはならないだろう。
菓子の詰まった袋をもって十二宮まで戻ってくると、女神にすれ違った。袋を脇へ置き、膝をついて礼をとる。彼女は軽やかに微笑んだあと、じっとわたしを見た。
「ねえサガ、あなたは何か神と約定を交わしましたね?」
「は…約定というほどでもないのですが、タナトスが明日わたしを訪ねてくると」
聖戦後の協定があるとはいえ、女神の領域へ勝手に他神をいれるわけだから、隠すわけにもいかない。正直に明かしたわたしへ、女神は城戸邸の執事(タツミといったか)に持たせていた荷物から、小さな包みを取り出した。少女らしい包装紙でラッピングされ、品の良いリボンで結ばれている。
「私が焼いたクッキーです。貴方にも差し上げましょう」
「あ、ありがとうございます」
「タナトスにも困ったものね。でも付け込ませる貴方も悪いのですよ」
やはりタナトスを双児宮へ入れるのはケジメがなさすぎたろうか。女神は日本へ出かけるのだといい、執事とともに旅立っていった。
翌日、予告通りタナトスがやってきた。
考えてみると、双児宮へ来るには金牛宮や白羊宮を通らねばならないはずなのだが、騒ぎの起こった様子もない。彼らがわけもなく異神に通行を許すわけもないので、どうやって此処へ来たのかと尋ねると、物理的な道は通ってきていないと答えが返ってきた。
「この地上に、死の訪いを妨げることの出来る場所などない。相手の了承があればなおさら」
聖戦と職務とでは理の働き方が違うそうだ。そのようなものなのだろうか。
そこでわたしは思い出して、タナトスへ用意した菓子を渡そうとした。
しかし、見れば色とりどりであった飴も、見目良いデザインのチョコボンボンも、黒く消し炭のように腐食している。驚いて宮へ常備している茶菓子や果物の類も確認してみたが、すべて萎び腐り落ちているではないか。
タナトスの神力に触れたせいに違いない。
「供物がないのならば、お前を連れてゆくぞ」
死の神がニヤリと笑った。
畏れよりもさきに、己の迂闊さを思う。馴れ合いの日々が続いていたが、この存在は神なのだ。神は気まぐれであり、我侭なものでもある。
このまま連れて行かれてしまうのだろうかと思ったそのとき、卓上に置かれていた包みのリボンがひとりでに解けた。女神から頂戴した焼き菓子の包みだ。
中から花の形をしたジンジャークッキーが零れ落ち、タナトスの足元まで転がっていく。
タナトスは忌々しそうにその菓子を摘みあげた。
「小娘め」
その瞬間にタナトスの姿は消え、静寂のみが宮を支配する。
助かったことに安堵しつつも、なんだかタナトスにすまない気もして、そう考えてしまったことに今度は罪悪感が沸く。
焼き菓子を口に放り込むと、ピリ…となかなかに刺激的なアクセントのある味わいであった。
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タナトスとサガでハロウィン!