ぬるめですがロスサガ
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教皇宮で瞑想の修練を課せられていたアイオロスは顔をあげた。聖域へ侵入しようとしている一隊の気配を感じたためだ。まがまがしい敵意と小宇宙からして、友好的な部隊であるはずがない。
女神は現在日本へ出かけていて不在であり、シオンはムウとともにジャミールで聖衣の修復を手がけている。
(さて、どうしたものか)
思いをめぐらせたのは、敵襲に対してではない。
指令系統および、現状の聖域の勢力図についてだ。
己は教皇となる身であるとはいえ、まだ候補の身である。しかも蘇生後は死亡時年齢でよみがえっているため、熟練の黄金聖闘士に采配を振るうには未熟であることは自覚していた。
迷ったのは一瞬で、アイオロスはすぐに聖域中に聞こえるほどの大音声の小宇宙念話でサガへ部隊の殲滅を命じる。双子座の攻撃的な小宇宙が高まり、敵軍の小宇宙が途絶えたのは、そのすぐ後のことだった。
黄金聖衣を着用した黒髪のサガが教皇宮へ上り、アイオロスの前で跪き任務完了の報告をしたのを、大勢の仕官たちは感慨をもって眺めた。
それは本来13年前にあるべき姿であり、反逆者が未来の教皇へ恭順を示した瞬間でもあった。
さすがアイオロスよとの声が広がり、その光景はまたたくまに十二宮下の面々に伝えられていく。
雑兵たちが教皇の間を去って行き、その場にアイオロスとサガの二人だけとなると、黒サガは今までの丁寧な態度をやめて立ち上がり、アイオロスを睨んだ。
「命令が遅い!」
「ごめん、ちょっとは遠慮したんだよ」
「敵襲の際に遠慮もなにもあるか」
「君ならすぐに倒せる敵だと思ったからね」
アイオロスも不敬を叱るどころか、逆に言い訳めいたことを口にしながら、サガの機嫌をとっている。もっとも媚びているのではない。あくまで上に立つものとしての態度は崩さない。
黒のサガは、は!と吐き出すように宣告した。
「わかっていようが、今回はサービスだ」
「ああ、パフォーマンスにご協力感謝する」
教皇補佐と、偽であったとはいえ13年の実績のある元教皇では、有事の際、咄嗟にサガの判断や指示を仰ぐものが出てもおかしくないのだ。もちろんサガはそつなく完璧に対処するだろうが、それではアイオロスを軽んじるものが出る。また、再びサガを御輿に乗せようとする勢力が出てくる可能性もある。
聖域を二つに割るわけにはいかないのだ。
アイオロスもサガもそれはわかっていて、それゆえにサガは敢えて黒サガの姿でアイオロスに従うところを聖域に見せたのだった。
「お礼に何か奢るけど?」
「勅命に礼をいう馬鹿がいるか」
「じゃあ個人的にデートしてくれ」
「そういうことは、わたしではなくアレに言え」
文句を言いながらも、中へ引っ込んでもう一人のサガを表に押し出してきた双子座を見て、アイオロスはこれまでの長かった道のりと幸せをかみ締めた。
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今日もぱちぱち有難うございます!毎日癒されております(^▽^)