春のロスサガ
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アイオロスがいなくなった。
次期教皇としてロドリオ村へ慰問に出かけたまま、時間を過ぎても帰って来ないという門番の報告を受け、シュラが教皇宮へ足を運んだところ『少年達よ君らにアテナを託す』って教皇宮の壁に彫ってあったらしい。
一緒に付いていったはずのサガも戻ってこない。任務の遅れでサガが連絡すらしないなんて考えにくいし(慰問が長引くというのも考えにくいし)、二人で出奔したってことかな。
シオンは「あやつらは黄金聖闘士の地位を剥奪し、脱走者扱いとする」とかなんとか怒ったように言っていたけど、そのわりに追っ手をかけるわけでもなかったから、黙認するつもりなんじゃないかなと俺は思っている。
本気で怒っていたのはカノンで、呆然としていたのはアイオリアだ。
無理もないよ。血を分けた兄弟にくらいは、ちゃんと話して行けばいいのに。
カノンは一発殴らなきゃ気がすまんと言って、追いかける気満々でいる。それでもって、アイオリアは自失のうちにいつの間にか同行することにされてる。毎度ながら巻き込まれ体質だなあ。
そうなると黄金聖闘士が4人も聖域に不在てことになるけど、その穴は俺たち青銅聖闘士や一部の白銀聖闘士が埋めることになるんだろうか。
でもいいや。俺も実はシオンと同じような気持ちだし。
アイオロスとサガが聖域を離れるなんて、余程の決意なんだろうし。
今までの分も幸せになってほしいって思う。たとえそれが聖域ではなくとも。
射手座の聖衣は正直まだ俺には荷が重いけど、精一杯頑張るよ。
それにしても、どこへ行っちゃったんだろうなあ。
「なあ、今から花見に行かないか」
アイオロスが振り返ってサガを見た。次期教皇に相応しい上質な白法衣の裾は、軽快な足取りにあわせてひらひらと翻っている。サガは従者兼引継ぎサポート役として、一歩下がった位置から冷静に返した。
「そのような予定は本日のスケジュールにない」
「仕事として誘っているんじゃないんだけど」
アイオロスは空を見上げた。よく晴れた空には、刷毛ではいたような雲が一筋流れている。
「午後は特に重要な仕事もないだろ?」
「それはそうだが…」
「たまには後輩に任せても罰は当たらないさ。俺たち二人がいなくても、今のあいつらなら大丈夫。聖域の守りは磐石だ。それにね、実はもう書置き残してきちゃったんだよね。あとよろしくって」
「何だそれは、午後からサボる気満々ではないか」
「というわけで、駄目?」
「まったく…」
サガは苦笑しながらも、それ以上の否定はしない。アイオロスは無計画なようにみえて、ちゃんと組織に支障のない日時を選んでいる。ならば、多少の息抜きで上司の心身をメンテナンスするのも補佐の役目だろう。
「正式にお前が教皇となったあかつきには、このような我侭をわたしが許すと思うな?」
「俺は教皇になったあとも、君をデートに誘うつもりだけど」
『デート』の単語に、サガが目を丸くする。
爽やかな春風が髪をふわりとなびかせた。
花見のあとに戻った聖域で、シオンの『ふざけるな小僧』により二人が宙に舞うまであと数時間。ギリシアの春は今が盛りだ。
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はた迷惑年長組2名。お花見妄想は春の定番ですよね!
今日もぱちぱち有難うございます。毎日のエネルギー源です(^-^)