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カノンが海将軍として復帰して以降、サガはしばしば海界へと降りる。
弟の仕事が終わるのを待つ間、ヒマな海闘士が物珍しさからか集まってきて、話し相手になるのが常だ。
海将軍筆頭の双子の兄でありながら敵の黄金聖闘士でもあり、しかも女神に反逆した過去を持ちつつも未だ聖域で皆の信頼を集めている人物となれば、海闘士の興味を引くのも無理はない。また、サガを通して謎めいていたシードラゴンの話を聞きたがる者も多かった。
海将軍ともなると、雑兵のようなあからさまな野次馬的態度はとらない。こちらは純粋な好意と礼儀から挨拶をするために顔を見せた。若くて才能のある伸び盛りの海将軍たちを見ていると、つい指導をしたくなるサガだったが、流石にそれは僭越と控え、助言のみに留めている。彼らを鍛える務めも権利も、聖域の人間ではなく筆頭であるカノンや彼ら自身のものであるからだ。
今日のサガの話相手はバイアンだった。彼は折り目の正しい海将軍の中でも真面目な性質で、多少自信家ではあるものの、それは海将軍の実力と誇りに相応しく、サガにも丁寧に接してくる。真面目なだけに、過去のカノンが都合よくこの海将軍を利用していたであろうことが会話の端々に読み取れて、サガはこっそり心の中で頭を下げた。
「聖域は居づらくないだろうか?もしそうであれば、海界へ来てしまえばいい」
真面目だが、バイアンは言葉を飾りはしなかった。
相手が黄金聖闘士であれ、率直にものを言う。
「ありがたい言葉だが、それは出来ないのだ」
「何故?」
サガはまだ若い年下の海将軍にニコリと笑う。
「では、例えば私がカノンに…シードラゴンに『海界が居にくければ、贖罪などやめて聖域へ来てしまえばいい』と言ったならば、君はどう思う」
諭された海将軍は、はっとしたように顔色を変えて、それからすまなそうに謝った。素直なところも海千山千の黄金聖闘士たちとは違うなとサガは思いながら、顔を上げてくれるよう頼む。
「心配してくれてありがとう。だが私は実のところ、聖域にそう居にくい訳でもない…と最近は思う。そして私の弟もきっと、海界に対してそう思っている」
目を見開いたバイアンが、その言葉の最後で一瞬嬉しそうな表情を走らせたのを見て、やはりまだまだ海将軍は他界の闘士に比べ経験値が足りないなと思うサガだった。彼が外交上の駆け引きをこなせるようになるまでには、もう少し時間がかかるだろう。
だが、その純粋な心持ちを無くさないで欲しいものだとも、サガは思った。
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また例のごとく推敲の間もなく出社時間に(汗)
嬉しい拍手へのお返事は夜にでもさせてくださいね(^^)