星矢関連二次創作サイト「アクマイザー」のMEMO&御礼用ブログ
カノンはだらしなく寝台に転がったまま天井を見上げていた。
気温の低い日などは身体の節々が痛む。彼の身体はもうボロボロで、念動力による補助がなければ、日常生活もおぼつかない。
それも当然だろうと彼は思う。
聖戦時、ワイバーンとの戦闘を相撃ちに持ち込んだのち、崩壊する冥界から地上へと聖衣なしで戻れたのは奇跡に近い。おそらくは女神による力添えもあったのだ。
気が付いたときには病院にいて、それから後はどういう連絡ルートがあったものか、数日後には聖域へと搬送された。それ以来、医療用の施設で丁寧な治療とリハビリを行ってはいるが、四肢は次第に弱っている。
もともと死ぬ覚悟でいた彼は、さっさと聖域から抜け出そうとした。おのれは大罪人であり、贖罪のため身を粉にする義務があったからこそ、女神のもとへ身を寄せていたのだ。足手まといにしかならないのなら、生きていても仕方がない。野垂れ死にがふさわしい。
ところが、そんなカノンのもとに、死んだはずのサガがやってきたのだった。
もっと言えば、サガだけでなく、嘆きの壁で散った黄金聖闘士12人が聖域に戻ってきた。オリンポスにおわす神々の恩寵によるものらしいが、カノンにとって理由の方はどうでも良かった。
サガは毎日見舞いにくる。聖戦時と同じ18歳の肉体で蘇った彼は、相変わらずきらきらとした何かを周囲に振りまいている。若く、五体満足な兄に対して、意外とカノンにみじめな気持ちはない。不公平との不満もない。むしろ、神々によって創り直された身体より、生身のオレのほうがマシだという思いがある(もちろん蘇生された面々に言わないだけの節度はあった)。
そんなカノンへ、サガは真顔でこんなことを言だした。
「お前さえよければ、この身体を二人で使わないか」
最初にその申し出を聞いたとき、カノンの顔には『何言ってるんだこいつ』という思いがありありと表れていた。
サガは弟の真顔など気にも留めず、さらに続けた。
「気兼ねがあるのならば、おまえ専用にしてもいい」
「もっとおかしいだろ」
思わず突っ込むも、サガは引く様子がない。
「べつにおかしくはない。わたしはかつて13年間の長きにわたり、ほとんど肉体の主導権を持っていなかった。押し込められるのは慣れているし、相手がお前ならば不服はないぞ」
断固たる口調で主張する姿を見ながら、カノンは『こいつ無駄にまつ毛長いよな』と、思考を逃避させかける。
「わたしとともに、生きればいい」
サガとっては、宮の同居も身体の同居も大差ないかのようだった。
シェスタの時間が近づく。今日もサガが面会にやってくる。
「そろそろ、わたしの中にくる決心はついたろうか?」
ベッド脇の小さなテーブルへ土産の花を活けながら、世間話のようにサガは問いかける。
「オレはこのままでいい」
「しかし、そのままでは遠からずおまえは死んでしまう」
「天命だろう、かまうな」
憎まれ口とは裏腹に、ベッドへ横たわるカノンの口調はかすれていた。肉体の衰えと並行して、気力体力のすべてが弱まりつつあった。
カノンとて考えてはみたのだ。兄との共存の可能性を。
しかし、どうにもその気が起こらない。
じっと兄へ視線を向を向けると、サガは『なにか?』と首をかしげる。
「おまえは本物のサガか?」
カノンの問いは、唐突だった。サガは目をぱちりとさせる。
「なぜ、そのようなことを」
「オレがサガに誘われて、断れるわけがないからだ。おまえは肉体だけではなく、中身も神の創りものではないのか」
小さいけれども、低く張りの通る声が病室に響く。
サガは作業の手を止め、カノンの傍らに屈みこんで、膝をついた。
視線の高さをあわせてから、同じくらい小さな声で返す。
「もしそうであるのなら、尚更お前にはこの身体が必要だろう?」
何故なら、創られたのはこのサガだけではないから、と。
密やかに告げられる、蘇生の秘密。
神々による尖兵として、聖域に送り込まれた黄金聖闘士の複製がわたしたちなのだと、サガの姿をした似姿が言う。
「だが本物ではなかろうと、わたしはサガで出来ている。サガであるかぎり、神々の指図どおりに動くことなどごめん被りたいのだ。しかし、わたしだけでは創造主に逆らう事が叶わぬ、それゆえ」
『お前がわたしの身体で神々の目論見を阻止してくれないか』
最後は言葉でなく、小宇宙でもなく、視線だけで伝えられた意思であった。
カノンは呆れの色を隠さずに答える。
「本物のサガなら、何があろうと全部自分でやるぞ」
「本物のわたしであれば、おまえを死なせぬ目的でも、手段を選ばないのではないかと思う」
複製を自覚するサガは、全く反省のない様子で笑った。
気温の低い日などは身体の節々が痛む。彼の身体はもうボロボロで、念動力による補助がなければ、日常生活もおぼつかない。
それも当然だろうと彼は思う。
聖戦時、ワイバーンとの戦闘を相撃ちに持ち込んだのち、崩壊する冥界から地上へと聖衣なしで戻れたのは奇跡に近い。おそらくは女神による力添えもあったのだ。
気が付いたときには病院にいて、それから後はどういう連絡ルートがあったものか、数日後には聖域へと搬送された。それ以来、医療用の施設で丁寧な治療とリハビリを行ってはいるが、四肢は次第に弱っている。
もともと死ぬ覚悟でいた彼は、さっさと聖域から抜け出そうとした。おのれは大罪人であり、贖罪のため身を粉にする義務があったからこそ、女神のもとへ身を寄せていたのだ。足手まといにしかならないのなら、生きていても仕方がない。野垂れ死にがふさわしい。
ところが、そんなカノンのもとに、死んだはずのサガがやってきたのだった。
もっと言えば、サガだけでなく、嘆きの壁で散った黄金聖闘士12人が聖域に戻ってきた。オリンポスにおわす神々の恩寵によるものらしいが、カノンにとって理由の方はどうでも良かった。
サガは毎日見舞いにくる。聖戦時と同じ18歳の肉体で蘇った彼は、相変わらずきらきらとした何かを周囲に振りまいている。若く、五体満足な兄に対して、意外とカノンにみじめな気持ちはない。不公平との不満もない。むしろ、神々によって創り直された身体より、生身のオレのほうがマシだという思いがある(もちろん蘇生された面々に言わないだけの節度はあった)。
そんなカノンへ、サガは真顔でこんなことを言だした。
「お前さえよければ、この身体を二人で使わないか」
最初にその申し出を聞いたとき、カノンの顔には『何言ってるんだこいつ』という思いがありありと表れていた。
サガは弟の真顔など気にも留めず、さらに続けた。
「気兼ねがあるのならば、おまえ専用にしてもいい」
「もっとおかしいだろ」
思わず突っ込むも、サガは引く様子がない。
「べつにおかしくはない。わたしはかつて13年間の長きにわたり、ほとんど肉体の主導権を持っていなかった。押し込められるのは慣れているし、相手がお前ならば不服はないぞ」
断固たる口調で主張する姿を見ながら、カノンは『こいつ無駄にまつ毛長いよな』と、思考を逃避させかける。
「わたしとともに、生きればいい」
サガとっては、宮の同居も身体の同居も大差ないかのようだった。
シェスタの時間が近づく。今日もサガが面会にやってくる。
「そろそろ、わたしの中にくる決心はついたろうか?」
ベッド脇の小さなテーブルへ土産の花を活けながら、世間話のようにサガは問いかける。
「オレはこのままでいい」
「しかし、そのままでは遠からずおまえは死んでしまう」
「天命だろう、かまうな」
憎まれ口とは裏腹に、ベッドへ横たわるカノンの口調はかすれていた。肉体の衰えと並行して、気力体力のすべてが弱まりつつあった。
カノンとて考えてはみたのだ。兄との共存の可能性を。
しかし、どうにもその気が起こらない。
じっと兄へ視線を向を向けると、サガは『なにか?』と首をかしげる。
「おまえは本物のサガか?」
カノンの問いは、唐突だった。サガは目をぱちりとさせる。
「なぜ、そのようなことを」
「オレがサガに誘われて、断れるわけがないからだ。おまえは肉体だけではなく、中身も神の創りものではないのか」
小さいけれども、低く張りの通る声が病室に響く。
サガは作業の手を止め、カノンの傍らに屈みこんで、膝をついた。
視線の高さをあわせてから、同じくらい小さな声で返す。
「もしそうであるのなら、尚更お前にはこの身体が必要だろう?」
何故なら、創られたのはこのサガだけではないから、と。
密やかに告げられる、蘇生の秘密。
神々による尖兵として、聖域に送り込まれた黄金聖闘士の複製がわたしたちなのだと、サガの姿をした似姿が言う。
「だが本物ではなかろうと、わたしはサガで出来ている。サガであるかぎり、神々の指図どおりに動くことなどごめん被りたいのだ。しかし、わたしだけでは創造主に逆らう事が叶わぬ、それゆえ」
『お前がわたしの身体で神々の目論見を阻止してくれないか』
最後は言葉でなく、小宇宙でもなく、視線だけで伝えられた意思であった。
カノンは呆れの色を隠さずに答える。
「本物のサガなら、何があろうと全部自分でやるぞ」
「本物のわたしであれば、おまえを死なせぬ目的でも、手段を選ばないのではないかと思う」
複製を自覚するサガは、全く反省のない様子で笑った。