今日のSSは、ポにょ話ウォーターサファイア6話の続きになりました。
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突然の招集に馳せ参じた海将軍たちは、緊張を隠せずに居た。
海神の呼び出しとあらば、何を置いても駆けつける彼らではあるが、聖戦後にこのような先触れのない呼び出しは例がない。
また、『日常服で来ること』などという指定もかつて無いことである。海将軍が揃う神託会議の折には、鱗衣が当然の礼装であったからだ。
時刻は夕暮れを過ぎたあたりで、太陽を持たぬ海底では既に夜の燭台が神殿内を灯している。筆頭のカノンがいないのは、一足先にポセイドンを出迎え、神の意向に従い招集の準備を整えているかららしい。通信兵を通さず直接小宇宙で連絡が来たことや、服指定の件から考えても、何か極秘の通達があるにちがいないと海将軍たちは予測していた。
指定の時間が近づくと、ポセイドンの小宇宙が雄大に広がり周囲に満ちた。海将軍たちは慌てて玉座前を開けるようにして左右へと並び、平伏して神の訪れを待つ。
程なくして扉が開き、衣擦れの音とともに進んでくるポセイドンを前にした海将軍は、例外なく固まり言葉を失った。
カノンに手を引かれながら付き添われ、後ろにテティスとサガを従えたセラフィナ姿のポセイドンが、皆へ輝かんばかりの微笑みを向けたのだ。
唖然としている海将軍達へ向かい、筆頭のカノンがどこか棒読みに告げる。
「ポセイドン様は此のたびの降臨においてセラフィナという女性の御姿をとられている。これはあくまで臨時のことであり、普段はソロ家の長子に降りる決まりに変わりはない。言うまでもないが、姿の如何に関わらずお仕え申し上げるように」
その声も聞こえているのかいないのか、海将軍たちはポカンとしたまま目の前の海神に目を奪われていた。最年少のアイザックが1番冷静という有様だ。
ポセイドンの小宇宙は力強く男らしいものであったが、美しく装ったセラフィナの容姿はその正反対のたおやかさである。エスコートしてきたカノンと並ぶと、まるで一対の芸術品だ。身体に沿ったラインのドレスは艶やかさを引き立て、それでいて優しい微笑みは春を告げる可憐な花を思わせる。
見た目だけは、聖域のアテナにも比肩する神々しい乙女っぷりであった。
そのポセイドンが口を開く。
『お前達が今日もつつがなくあることを嬉しく思う』
口調はいつもと変わらぬことに、何となく安心する海将軍一同である。
ソレントが恐々と口を挟んだ。
「畏れながらポセイドン様、そのお姿は何ゆえに…」
『うむ、そのことだが』
頷いたポセイドンの眼差しには、よくぞ聞いてくれたという満足感が溢れている
『答える前にまず海馬へ尋ねたい。この姿をどう思う』
「凄く…お綺麗です」
指名されたシーホースの目はうっとりと輝いていた。
彼を除く海将軍メンバーが、その返答に遠い目で同僚を眺める。どうやら、先程から皆が動揺で固まっている中、バイアンだけは感激で動けずにいたらしい。カノンなどは胸中で“こいつはサガの同類か”とこっそり零しているものの、ポセイドンはますます満足げだ。
『そうか、では女主人に仕える状況を存分に味わうが良い』
はっと表情を赤らめて、バイアンが問う。
「まさか、そのお姿はわたしのために」
『まあ、お前のためだけではないがな。此度の招集はほかでもない。そなた達の日ごろの働きを、労いたいと思うたからだ』
海の主たるポセイドンからの思わぬ言葉によって、海将軍一同の顔が引き締まった。
「我らがポセイドン様の御為に働くのは当然のことでございます」
「勿体無きお言葉…」
カーサやクリシュナまでが感激の色を顔にのぼらせている。
先ほどまでとは別の意味で言葉数の少なくなった一同を、ポセイドンは目を細めて見つめた。カノンの策謀であったとはいえ、中途半端な覚醒での戦を強いたのは、己の責任であったという思いはある。苦労をかけたという気持ちは本物で、だからこそ何かの形でねぎらう機会を待ってはいたのだ。
娘姿のポセイドンは、自分の胸の前で祈るように指を組み、可愛らしく告げた。
『感謝を込めて宴を用意した。本来であれば海闘士全員に振舞うべきであるとは承知している。しかし急なことゆえ材料が整わぬ。よって正式な宴は後日とりおこなうが、今宵は我が軍の要であるお前たちをそれに先立ち招いたのだ』
海将軍一同の顔へ言葉にならない何かが浮かんでいる。イオなどはちょっぴり涙ぐんですらいる。
しんみりした雰囲気を打ち破るように、テティスが続いて可愛らしく宣言した。
「そんなわけで、今からケーキバイキングです!」
その場の空気が固まった。
もう夕飯時間なんですが…
おそらく海将軍の皆が同じ感想を浮かべる中、ポセイドンが天使の笑みを浮かべる。
『最上級のスイーツを用意した。休息時間の茶請けと言わず、存分に食べるが良い』
ポセイドンの後ろで、お相伴に預かれる甘党・テティスとサガが、控えめながら嬉しそうにしている。カノンが先ほどから皆と視線を合わせようとしないのは、計画を修正出来なかったすまなさからなのだろう。
海将軍たちは顔を見合わせ、空きっ腹を甘味で埋め尽くす覚悟をきめる。それから誰とも言わずに大声で笑い出した。
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女性の身体に入ったポセイドンは、何故この身体だとスイーツを沢山食べられるのか不思議に思いながら、ケーキを食いまくるというどうでもいい横ネタあり。
皆がもう甘いものを見たくない状態に陥ったあたりで、カノンがこっそりデリバリーで普通の食べ物も頼んでくれるという、さらにどうでもいい横ネタもあり。