ビスケット1枚あったら二人ではんぶんこ
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『カノン、星矢がケーキを1個置いていってくれたので、半分にして一緒に食べないか』
双児宮へ帰る途中だったオレの脳裏に、サガからの小宇宙通信が届いた。
またあの小僧が遊びに来ていたのかと思うと同時に、半分にしようというサガの言葉で昔を思い出す。
今でこそサガと並び立ち、もうひとりの双子座の聖闘士として表の世界にいるが、昔のオレはジェミニの隠されたスペアであり、この名と存在を知るものはサガ以外ほぼ皆無だった。
だから今日のような誕生日であっても、祝われたのはサガ一人。
サガは受け取った品物や菓子を必ずオレの元へ持ち帰り、『半分にしよう』と言ったものだった。
聖域では貴重な嗜好品である一片のケーキを、絶対に一人では食べようとしなかったサガが、救いでもあり疎ましくもあったあの頃。サガのおこぼれを貰うかのような気分になり、渡された半分を払い捨てた事もある。
(サガもオレと同じ歳の子供にすぎなかったのにな)
兄にある意味、甘えていたのかもしれないと今なら思う。
大人になった今なら、サガの好意を素直に受け止める事が出来る。それに、他の奴がサガにくれたものだとしても、サガからオレに分けた時点で、それはサガからの贈り物だ。
「ただいま」
そう言って双児宮の居住区へ足を踏み入れたオレは、テーブルの上にある物体に目を丸くした。
そこにあったのは結婚式の二次会に出てくるような、15人分は確実にある長方形巨大ケーキ。
「待っていたぞカノン。二人で半分こしよう」
皿を既に用意しているサガが、フォークを片手に待ちきれぬといった風情でニコニコしている。
「ちょ、待て!お前、ケーキは1個だと…!」
「見てのとおり1個だぞ。星矢がお前と私の二人にプレゼントしてくれたのだ」
「食いきれるかー!!!甘党のお前と一緒にするな!」
現実はオレの予想を大きく外れてのしかかってくる。
「食べ切れなかったら、皆にお裾分けすればいい。私は一人で食べきれる自信があるが」
「何者だよお前…」
昔、サガ一人が貰ったケーキは、オレとサガの二人で分けることが出来た。
それは半分が二倍になった二人分の幸せ。
そういう二人だけの世界も悪くないが、仲間がいる今、サガとオレの二人で貰ったケーキは、同じ半分でも、皆にまでお裾分けをすることが出来る。
半分が何倍にもなる幸せがどうにも照れくさく、つい乱暴な口を利いてしまうオレを、サガは軽く受け流して楽しそうにケーキを切り分けていく。
前言撤回、オレはまだまだ子供だと思いつつ、早速サガの取り分けたケーキをパクついたのだった。
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