無理やり18世紀ギリシア聖域に節分を持ち込む。
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「鬼を払う…だと?」
アスプロスの瞳がすうっと細められ、空色の瞳はコキュートスを思わせる蒼氷色へと変わった。常の者であれば、その視線だけで凍りつきそうなところなのだが、会話をしているレグルスはそれを流せる数少ない人間のひとりだ。
「テンマから聞いたんだ!セツブンというのは東洋の行事で、豆を撒いて鬼を追い払うんだって。ギリシアにも似たような風習があったよね。だから、十二宮でも撒いてみようと思って」
小さな麻袋を開き、中から炒り豆を取り出してみせると、アスプロスは首を振った。
「ほお…だが双児宮には必要ない」
「どうして」
「この双児宮で豆を撒きたければ、せめてお前も鬼と呼ばれてみろ」
「あらゆる意味で、言ってることが理解出来ないぞ」
二人が言い合っていると、騒ぎが聞こえたのか、奥の間からデフテロスが顔を出した。レグルスはデフテロスにも訴える。
「聞いてくれデフテロス。アスプロスが豆を撒かせてくれないんだ」
「撒けばよかろう」
即答をもらい、笑顔を向けたレグルスであったが、デフテロスの言葉はまだ続けられた。
「ただし、簡単に逃走する鬼ばかりだと思うな」
「ええっ?」
「異次元に飛ばされる覚悟があるのならば、撒くがいい」
双子の反応にハテナマークを浮かべていたレグルスであったが、「あ」と気づいて声を上げる。
「そっか、二人とも鬼兄弟だから?」
何の遠慮もなく感心したように言うレグルスへ、アスプロスが一瞬目を丸くしてから噴出し、いつもの穏やかさを取り戻した顔で肩をすくめる。
「俺はともかく、デフテロスが鬼だとは思っておらん。本物の鬼は、教皇宮に住んでいる奴や、かつてデフテロスを虐げた連中だろうよ」
「俺も兄さんが鬼だとは思っていない」
デフテロスが隣から口を挟む。
レグルスは二人の顔を交互にみてから、にこりと豆を皮袋に戻して口を閉じた。
「鬼はいないのか。なら豆は要らないな…鬼が来ても二人がいれば、それこそ逃げていきそうだし。あ、でも今日は豆を年齢分食べるといいんだって!」
レグルスが置いていった炒り豆は52粒で、双子は顔を見合わせ、それからほろ苦い笑みを浮かべた。
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復活後、いつもはカノン島に住んでる双子ですが、ちょっと双児宮に里帰りしました。豆は25粒+27粒です。
今日もぱちぱち有難うございます!元気の素です。