セージとまだ幼い頃のアスプロスの交流場面も見てみたかったなあ…黄金聖衣を与えられて喜ぶアスぷーに、しっかり励めと厳しくも暖かい訓示を垂れるようなセージを書いてみたいココロ。
でもその頃にはもうアスぷはマーブル君なんですよね…(´・ω・`)
============================
「二番目ごときが!」
言葉とともに、セージ教皇の似姿・ロストキャンバスを拳で叩き潰す。
それは海の泡のように脆く崩れ、消えていった。
しかし、いくら恨みをぶつけたところで、それは所詮絵の具のかたまりでしかない。
相手は既にこの世になく、妄執と怨念はただ昏く重く自分の中で淀むばかりだ。
生前には蒼銀であった長髪も、呪いと闇を吸い漆黒に染まった。
選ばれるべき相手に教皇の座を与えなかった愚かさを、いつか思い知らせてやるのだと、その一念で肉体持つ怨霊となりこの世に蘇ってきたというのに、憎しみの言葉は矛先を失い、ただむなしく火星宮に響く。
『いつか』などという刻はなかったのだ。
その場で思い知らせてやれなかった時点で、永久に敗北が定められてしまったのだ。
行き場を失った悔しさも未練も、昇華されることなく汚泥のように溜まり続ける。
「何故貴方を殺すのが俺ではなかったのだ、セージ様」
そのとき、アナザーディメンションの中へと、半身が飛び込んだのを感じた。
「…デフテロス、か」
二番目を表すその名前が、希望のように心を照らす。
そうだ、まだ牙を突き立てる相手がいる。この怨念を晴らす相手は、まだいるのだ。
口元にゆっくりと笑みが浮かぶ。
「待っていたぞ」
それは二番目などではない。誰よりも一番この世で憎い弟の名前。
============================
そして今週のLCはとても感動的な回なのですが、それだけに双子座が亡くなった黄金聖闘士の集合シーンからも生者仲間のシーンからも仲間はずれにされていてションボリ(>ω<。)
生死不明な上、シオンと交流なさげなので仕方がないのですが…
早くアスぷにも黄金聖闘士らしい、最有力教皇候補という設定にも納得のいく精神の真っ直ぐな部分をみせて欲しいココロ………0.005%くらいの期待値で…OTZ…
============================
「お前は野望など持ちそうにないな」
アスプロスがふと呟いたその言葉は、デフテロスには『覇気がないな』と同義であるかのように聞こえた。多分それは彼の引け目からそのように聞こえてしまうだけであって、アスプロスからすれば己の過去を鑑みた上での褒め言葉なのだろう。
デフテロスは少し躊躇したあと、ぼそりと答えた。
「俺も野望はあるのだが…」
「ほお?」
とたんにアスプロスが興味を持ってデフテロスを見た。それだけでなく近寄ってきて顔を覗き込む。
「どのような野望なのだ?」
「その、兄さんを…」
「俺を?」
アスプロスは楽しそうに聞いているが、デフテロス側としては本当のことなど言える筈もなく、語尾が小さくなる。
それはまだ口に出せぬ、兄への行き過ぎた想いだからだ。
「……」
「何だ、言ってみろ」
弟の葛藤など知る由もなく、アスプロスが言い募る。
「その…その…兄さんを…超えたい」
仕方なく誤魔化したデフテロスへ、アスプロスは目を丸くしてから笑い出した。
「お前は言葉を知らないな!『野望』とは身の丈にそぐわぬ高望みのことだ。何であれお前に負けるつもりはないが、それならば『目標』で良かろう」
「目標でいいのだろうか」
「お前は俺と同等の力と可能性を持っている。何を卑屈になっているのだ」
デフテロスはちらりとアスプロスの顔を見て、それから赤くなって下を見た。
「それならば、目標ということにする」
「そうか。それは楽しみだ。正直、野望などと言われると寝首をかかれるような気がするのでな」
楽しそうに笑っているアスプロスの声を聞きながら、デフテロスは拳を強く握り締める。
そうして彼は胸のうちの熟れた野望を、『兄を振り向かせる』という心焦がす目標へ、そっと置き換えた。
============================
============================
とつぜん俺は表の世界に立つこととなった。
アスプロスのものだった黄金聖衣を与えられ、自由まで手に入れた。誇りある聖闘士として存分に高みを目指す事だって出来る。かつて影から羨望した全てがいま、この手にあるのだ。
反逆者となった兄の死と引き換えに。
願い叶って考える。俺が望んだのはこんな世界だったのだろうか。
『君たち二人には初めから光も影もない』
アスミタは幻朧魔皇拳を受けていた俺にそう言った。
それは影の立場にあった俺には光明のような言葉に聞こえた。
だが、影であることを止めた今になって、己のなかで囁く声がある。
本当にそうだろうか?と。
アスプロスは遠からず邪悪として蘇るだろう。俺は無意識下の望みを叶えるために、アスプロスを殺して闇を押し付けただけではないのか?
「アスプロス…」
呟いても振り向く者はいない。
そうして気づく。
俺の世界は兄が死んだときに終わっていたのだと。
死んだ兄と再び合間見えるその時を待ちわびながら、俺は自我を磨き続ける。終わってしまったこの世界を、再び終わらせるために。
そうして兄と二人の世界を再生するために。
============================
============================
「お前は俺から色々なものを奪った」
アスプロスがぼそりと呟いた。デフテロスは黙ってそれを聞いている。
「安息の日々も、双子座の聖衣も、命さえもだ」
うつむいたデフテロスの顔が、少しだけ泣きそうに歪む。
(…すまない。全部返すから)
答えようとして、言葉に詰まる。
聖衣と命は何とか返すことができた…と思うけれども、安息の日々とやらはどうか。奪ってしまった過去は戻らないのだ。
アスプロスはフンと鼻であしらう。
「返してもらうのは当然。もともと俺のものなのだからな。悪いと思っているのなら、俺のものを返すだけでなく、お前のものを差し出して謝意をみせろ」
デフテロスは考えこむ。差し出せるようなものなどあったろうか。
考えても、何も思い浮かばない。
「渡せるようなものを、俺は持っていない」
しかしアスプロスはそんな言い分を聞き入れなかった。
「いいや、あるだろう。俺の死んだあと手に入れたものが」
弟へ視線を合わせぬまま、自分の髪を指先に巻いてくるりくるりと弄んでは、ほどくことを繰り返している
「火星宮の戦いで、お前は『俺はもう、ただ俺だ』と叫んだな。このアスプロスの影でも付属物でも所有物でもないというのならば、お前自身のお前を寄越せ」
傲岸不遜なアスプロスの言い分に、デフテロスは先ほどまでよりも何倍も泣きそうな、困ったような顔をして兄を見上げた。
============================
お題は「LC双子同盟」様から頂きました!