星矢関連二次創作サイト「アクマイザー」のMEMO&御礼用ブログ
女神とサガ
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サガは書類の最後にサインをすると、ペンを置いて一息ついた。執務机につまれていた書類もこれでしまいだ。
石窓からはうららかな陽光が射し込んでいる。まだ午後を少しまわった程度の時刻だが、聖闘士のデスクワークとしては長いくらいだ。聖域では、貴重な聖闘士に書類仕事で身体を鈍らせるような無駄はさせない。元教皇かつ現教皇補佐という立場の彼だからこそ、書類が集まってくるのだ(サガがそうした仕事を好むせいもある)。
机まわりを片付け、双児宮へ戻ろうとしたタイミングで、女神が見計らったように現れた。跪いて礼をとろうとしたサガを制し、アテナはにこりと微笑む。
「明日は貴方の誕生日ですね、サガ」
「は…」
「これは、私が焼いたのです。口に合うか分かりませんが、カノンと一緒に食べてください」
小奇麗な紙袋に入れて渡されたのは、かすかに漂う香りからして、焼き菓子の類だろう。
ごく普通の少女らしい贈り物に、サガは思わず顔をほころばせた。
「大罪を犯した私どもに過分なご好意…ありがたく存じます」
「もう、サガったら、堅苦しいんだから」
「いいえ、我らはともに、貴女へ返しきれぬ恩と借りがございます。殊にわたしは…今のこのサガがあるのは、貴女のおかげですから」
「私はあなたの野望を打ち砕いた小娘ですのに?」
悪戯っぽく笑うアテナは厭味を言ったわけではないが、明らかにサガの反応を見ようと楽しんでいる。サガは苦笑いをしながらも否定した。
「いまはそのように思っておりませぬ。確かにわたしの誕生日は明日でございますが…わたしがわたしであれるようになったのは、アテナ、貴女があの言葉を下された日だと思っておりますから」
「あの言葉?」
「『信じます』と。『本当のあなたは正義だったということを』…目の前で手をついたわたしに、貴女はそうおっしゃって下さいました」
それはサガが自害した日でもあった。
「わたしはそれまで、自分を信じることが出来なかった。いえ、自分とは何かすら定めることが出来なかった。皆はわたしを『神のようだ』と言いましたし、この世でたった一人の弟は『本当のお前は悪だ』と言いました。けれどもわたしは『他人がどう言おうと、わたしはわたしだ』という事ができなかったのです…このサガにはもうひとつの人格がありましたゆえ」
たったいま自分が何かを白だと断じたとしても、その直後には同じ何かを黒と断ずる自分がいる。その判断を下したもうひとつの意志を同じ自分だとは思えないけれども、その意志は自分もサガだという。
サガは正義のために尽くしたいと強く思っていたけれども、その思いは信用に値するのか、という反証は常に胸のうちにあった。現に、相反する自分は、女神に反旗を翻してしまったではないか。
魂の相方ともいえる双子座の聖衣ですら、サガに問うた。WHO ARE YOU?と。
「貴女が信じてくださって初めて、わたしは自分を肯定することができたのです…あの言葉があったから、死んだのち逆賊とののしられようと、貴女が信じたわたしを信じて、十二宮を貴女のもとまで駆け上がることができた」
そう語るサガの瞳は、深く静かに澄んだ湖を思わせた。今のサガは自分の言葉を疑いながらではなく、信じて紡ぐことが出来るのだ。
それは安定と強さを生み、結果的に己のなかの黒のサガを見詰めなおす余裕を育んだ。
綺麗な瞳だと、神でもあるアテナはそう思った。
「ふふ、ではその日を、サガと私だけが知っているヒミツの誕生日ってことにしましょうか」
アテナがそう言ってにっこり瞳を覗き込むと、サガは赤くなって視線を泳がせている。
どちらが小娘か分からないわ…とこっそり女神は思ったものの、サガの反応自体はとても嬉しいものであったので、その感想は胸の奥へ封印することにした。
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焼き菓子は普通のクッキー詰め合わせです。最初沙織さんはカップケーキにしようと思ったのですが、カノン+白サガ+黒サガ分で焼くとサガが2個食べることになるので、融通の利くクッキーにしましたというどうでもいい裏設定付き。
今日もぱちぱちありがとうございます!毎日癒しを頂いております(^-^)
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サガは書類の最後にサインをすると、ペンを置いて一息ついた。執務机につまれていた書類もこれでしまいだ。
石窓からはうららかな陽光が射し込んでいる。まだ午後を少しまわった程度の時刻だが、聖闘士のデスクワークとしては長いくらいだ。聖域では、貴重な聖闘士に書類仕事で身体を鈍らせるような無駄はさせない。元教皇かつ現教皇補佐という立場の彼だからこそ、書類が集まってくるのだ(サガがそうした仕事を好むせいもある)。
机まわりを片付け、双児宮へ戻ろうとしたタイミングで、女神が見計らったように現れた。跪いて礼をとろうとしたサガを制し、アテナはにこりと微笑む。
「明日は貴方の誕生日ですね、サガ」
「は…」
「これは、私が焼いたのです。口に合うか分かりませんが、カノンと一緒に食べてください」
小奇麗な紙袋に入れて渡されたのは、かすかに漂う香りからして、焼き菓子の類だろう。
ごく普通の少女らしい贈り物に、サガは思わず顔をほころばせた。
「大罪を犯した私どもに過分なご好意…ありがたく存じます」
「もう、サガったら、堅苦しいんだから」
「いいえ、我らはともに、貴女へ返しきれぬ恩と借りがございます。殊にわたしは…今のこのサガがあるのは、貴女のおかげですから」
「私はあなたの野望を打ち砕いた小娘ですのに?」
悪戯っぽく笑うアテナは厭味を言ったわけではないが、明らかにサガの反応を見ようと楽しんでいる。サガは苦笑いをしながらも否定した。
「いまはそのように思っておりませぬ。確かにわたしの誕生日は明日でございますが…わたしがわたしであれるようになったのは、アテナ、貴女があの言葉を下された日だと思っておりますから」
「あの言葉?」
「『信じます』と。『本当のあなたは正義だったということを』…目の前で手をついたわたしに、貴女はそうおっしゃって下さいました」
それはサガが自害した日でもあった。
「わたしはそれまで、自分を信じることが出来なかった。いえ、自分とは何かすら定めることが出来なかった。皆はわたしを『神のようだ』と言いましたし、この世でたった一人の弟は『本当のお前は悪だ』と言いました。けれどもわたしは『他人がどう言おうと、わたしはわたしだ』という事ができなかったのです…このサガにはもうひとつの人格がありましたゆえ」
たったいま自分が何かを白だと断じたとしても、その直後には同じ何かを黒と断ずる自分がいる。その判断を下したもうひとつの意志を同じ自分だとは思えないけれども、その意志は自分もサガだという。
サガは正義のために尽くしたいと強く思っていたけれども、その思いは信用に値するのか、という反証は常に胸のうちにあった。現に、相反する自分は、女神に反旗を翻してしまったではないか。
魂の相方ともいえる双子座の聖衣ですら、サガに問うた。WHO ARE YOU?と。
「貴女が信じてくださって初めて、わたしは自分を肯定することができたのです…あの言葉があったから、死んだのち逆賊とののしられようと、貴女が信じたわたしを信じて、十二宮を貴女のもとまで駆け上がることができた」
そう語るサガの瞳は、深く静かに澄んだ湖を思わせた。今のサガは自分の言葉を疑いながらではなく、信じて紡ぐことが出来るのだ。
それは安定と強さを生み、結果的に己のなかの黒のサガを見詰めなおす余裕を育んだ。
綺麗な瞳だと、神でもあるアテナはそう思った。
「ふふ、ではその日を、サガと私だけが知っているヒミツの誕生日ってことにしましょうか」
アテナがそう言ってにっこり瞳を覗き込むと、サガは赤くなって視線を泳がせている。
どちらが小娘か分からないわ…とこっそり女神は思ったものの、サガの反応自体はとても嬉しいものであったので、その感想は胸の奥へ封印することにした。
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焼き菓子は普通のクッキー詰め合わせです。最初沙織さんはカップケーキにしようと思ったのですが、カノン+白サガ+黒サガ分で焼くとサガが2個食べることになるので、融通の利くクッキーにしましたというどうでもいい裏設定付き。
今日もぱちぱちありがとうございます!毎日癒しを頂いております(^-^)