星矢関連二次創作サイト「アクマイザー」のMEMO&御礼用ブログ
[1793]  [1792]  [1791]  [1790]  [1789]  [1788]  [1787]  [1786]  [1785]  [1784]  [1783
恒例の双児宮大掃除SS
=============================

刺すように冷たい朝の空気が、吐く息を白ませる。けれども空には雲ひとつなく上天気だ。高く昇りゆく太陽が大気を緩ませていく。
 
好の掃除日和だった。
カノンは大きく伸びをしたあと、髪をあげて縛った。今日は手伝いの雑兵たちも来てくれる。年に1度の大掃除の日なのだ。サガは既に宮の表広間の方へ出向き、雑兵たちに掃除場所やゴミの分別についての采配をふるっているはずだ。カノンの役目は宮内施設の修繕チェックと、出向いてくれた雑兵たちへお礼代わりに振舞う食事の準備である。
皆が集合しているはずの広間へ、カノンは自分も足を向けた。下ごしらえを始めるにあたり、食事の必要な人間を確認するためだ。小宇宙と気配で人数は判るが、巨漢が多い場合には食材の微調整も行わねばならない。
そこに居たのは見慣れた顔ぶれではあった。大掃除にかこつけて双児宮の中を堪能したいサガファンの雑兵たち、カノンの手料理目当ての雑兵たち、そして正規に手配された本来の雑務要員たち。双児宮は左右のニ宮に分かれているため意外と広く、常に小奇麗にはしているものの、掃除には手間がかかる。
想定していたよりも多くの人員が集まっているなか、確認中のカノンの視線が一角で止まった。この場に居てはならないはずの人間がいたのだ。それも何人も。
聖域に居るはずの無いその者らは、海界の雑兵たちだった。
思わず反射的にサガの顔を確認してしまう。兄が気づいていない筈はない。何せ堂々と海界の支給服を着ているのだ。当人達はカノンの焦りなど気づきもせず、平気な顔をしてサガの説明に耳を傾けている。
「おい、何故お前らがここにいるのだ」
詰問口調になったのは仕方がない。聖域の雑兵が十二宮へ入ることとて特別扱いなのである。他界の兵士が入って許される場所ではない。
丁度サガの説明の区切りだったこともあり、全員がカノンの方をみた。
「カノン、入宮の許可はわたしが出した」
サガが穏やかな声で口を挟む。
「サガよ、海将軍を兼任しているオレが言うのも説得力がないだろうが、こいつら海闘士だぞ。いいのか」
「白羊宮と金牛宮には話を通してある。地形を覚えられぬよう五感を絶った上でここへ連れてきた。双児宮の内部は知られてしまうが、知られたところでここは幻惑の宮。戦時の際には通れるものではない」
一応、最低限の対処はした上での融通らしい。
「それにしてもこんな堂々と。衣服とて海界のもののままではないか。せめて聖域の服を貸してやるとか…」
「カノン。わたしは彼らを信じているが、衆目の集まる方が、不都合あるまい」
聖域の雑兵服にさせて区別付かずにしてしまうほうが、万が一の際によろしくない。常に誰かから見られているという状況のほうが悪さもしにくいだろうということだ。
それでも微妙な顔をしているカノンへ、海闘士たちが次々と訴えた。
「カノン様あんまりではないですか」
「そうですよ、聖域の者ばかりずるいです」
「俺たちとて貴方様に仕える身だというのに」
訴えられたカノンは、何のことか分からず戸惑う。
海闘士たちは続けた。
「聖域ではカノン様の私室を掃除できるだけでなく手料理まで振舞ってもらえるとか」
「いらなくなった備品や私物を下げ渡してもらえると聞きました。北大西洋宮の掃除は本当にただの仕事場の掃除で、そもそもカノン様の私物なんてほとんど無いじゃないですか」
「だからサガ様にお願いして、大掃除に参加させてもらったのです」
集まった海闘士たちは海界でのカノンファン一同だ。聖域でのカノンの住居を見学し掃除を手伝い、その上でカノンの私物が払い下げられるのであれば是非とも入手したい…そんなディープなファン達なのだ。
聞いたカノンは頭を抱えた。そんな理由で他界の中枢へ入れろなどと、雑兵ごときが図々しく頼み込んだのかと思うと、海界責任者の筆頭として非常に恥ずかしい。海界の教育体制はどうなっているのかと思われても仕方がない上、原因は自分だ。
叱っておかないと聖域に対して示しがつかない…そう口を開きかけたとき、サガの気配が変わった。
「カノン、わたしが許可を出したと言った」
よくとおる玲瓏な美声はそのままに、髪の色が黒く染まっていく。もうひとりの、闇のサガだ。
海闘士たちを庇うかのように出てきたサガに、カノンは目を丸くする。
「その者たちが頼んだというよりも、話を聞いてアレが招待したのだ。常日頃、お前の兄であるとはいえ黄金聖闘士であるこのサガを、海界の中枢で自由にさせている海界への感謝としてな」
実際にはきちんと監視がついているし、なにより海神が目を離さない。それでも海界への出入りは自由なうえ、黄金聖闘士としてではなくカノンの兄として扱われる。
サガが海界へと訪れることを許しているのに、ここで手順を踏んだ雑兵の聖域入りを叱るのは矛盾するし、体面についてはサガが「海界の懐の広さ」としてフォローしたので問題ない。
カノンは肩の力を抜き、仕方ないという面持ちでサガに答えた。
「おまえな、感謝の気持ちで呼ぶ連中に掃除させるなよ…昼飯を豪華にしなきゃならなくなったろ」
「そうだな、すまぬ」
口元だけで笑っている黒サガの顔には、詫びの色などまったく見えない。食事が良くなる発言により、周囲では歓声が沸いた。
「そういやサガ、お前は掃除のことまで海界で話してるのか?」
「いや、わたしは話しておらぬ。既に知っていたようだったゆえ、お前が話したのかと思っていたが」
二人が顔を見合わせてから海闘士たちの方をみると、今度は聖域の雑兵たちから声が上がった。
「あ、それは俺たちが話しました」
「なに」
「海界でのカノン様の情報と引き換えに、聖域でのカノン様の様子を伝えてます」
「……」
声を上げた雑兵たちは、聖域のカノンファングループである。一歩間違えば機密漏洩っぽくも聞こえるが、これはいわゆるファンネットワークという物に違いない。
互いの界の諜報部隊より情報の早そうなファン情報に、そして和平を結んでいるとはいえ知らぬところで進んでいる聖域と海界の雑兵交流に、双子も苦笑するしかなかった。
「では、始めるとするか」
黒髪のサガの合図とともに、一同は担当の場所へ散っていく。
昼食メニューの変更を余儀なくされたカノンは、聖域の食料倉庫へ向かうことにした。双児宮の食材だけでは足りそうにない。だが足どりは軽かった。
風はまだ冷たかったけれども、陽射しは暖かい。
(いい日だな)
とカノンは思った。

=============================
黒サガは自分目当ての雑兵たちがいることも知っているので、大掃除の時には出てきてくれますよ!
今日もぱちぱち有難うございます(>▽<)ご返信は後ほどさせて下さい。
<<< オリーブ漬け HOME 年の瀬 >>>
ブログ内検索
フリーエリア

photo byAnghel. 
◎ Template by hanamaru.