星矢関連二次創作サイト「アクマイザー」のMEMO&御礼用ブログ
前回SS「海水浴」の続き。
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一面に広がる海と白い砂浜のまぶしさに、サガは目を細めた。
一緒に来た星矢や瞬は、準備運動もそこそこに駆け出して、既に海へ足をつけている。
カノンが水辺から少しだけ離れた木陰にシートを敷いたので、サガは昼食の入ったバスケットやタオルをそこへ置いた。
「ガキどもは元気だなあ」
「まだ若いからな」
「おいサガ。その言い方、年寄り臭いぞ」
自分の言い草を棚に上げ、呆れたようにカノンが言うのでサガは笑った。
いかにも『面倒臭いが付き合ってやっているのだ』という表情のカノンだが、本当に面倒であったならさっさと逃げて、この場にはいないであろうことをサガは良く知っている。
「若いおまえも早く泳いでくればいい」
そう返してサガはシートへ腰を下ろした。日陰ではあるが、好天の浜辺だ。日焼けするだろうなと内心でひとりごちる。
「おまえは泳がないのか?」
「ああ、水着を持ってきていない」
「やっぱりな。おまえが水着を持ってるわけないと思った」
返答を予測していたのか、カノンは頷く。
サガとしては、訓練用の水着でも聖域の倉庫から貰ってこようと軽く思っていたのだ。
聖闘士候補生たちは海での戦闘も学ぶ。カノンの前では言いにくいが、主に海界との戦闘を想定してのものだ。泳ぎや潜水の修行も当然ある。その際に使われる水着を購入させて欲しいと頼んだサガへ、しかし、倉庫番の返事は「水着などありません」のひとことであった。
いざ戦闘となれば、わざわざ水着に着替えられるわけでもない。よって、水場の訓練もすべて通常訓練着で行われるとのことらしい。そもそも聖域は現代水着などない時代から同じ修行法でやってきているのである。考えてみれば、別口で海水浴に出かけたカミュや氷河たちも水着を持っていったようには見えなかった。
競技とは違うので、泳ぎの効率などは考えなくて良いのかもしれないが、どうりで訓練中の水難事故が多いはずだとサガは頭を抱える。
改善せねばとの決意は横に置き、そんなわけで水着は入手できなかったのだ。
カノンが肩をすくめて兄へ言った。
「少し待ってろ。この島の詰め所に予備の新品海パンがあったはず」
「詰め所?」
「ここは海闘士の拠点の1つだと言ったろ。海界は旧態依然とした聖域よりも合理的なんだぜ」
「……ありがとう」
それは13年前におまえが手を入れて、一から新しく稼動させたからだろうと思いつつも、言葉には出さないでおく。何もないところからたった十数年で、聖域とやりあえるほど組織をまとめあげるのは並大抵の苦労ではなかったろうが、今は厭味を言う場面でも褒める場面でもない。
過去の感慨を押さえ込むサガに対して、カノンはドライだ。
「礼は言わなくていい。もう一人のおまえが出てきたとき、あいつは水着なくても平気で海に入りそうだからな。一種の保険だ」
「……」
「おまえも脱ぐなよ?」
「……」
言い返せないでいるうちに、カノンは詰め所とやらへテレポートしてしまった。
サガは視線を海に戻す。きらきらと波が光を反射させている。
波際で遊んでいた星矢と瞬が、本格的に泳ぐため服を脱ぎにサガのところへ戻ってきた。
「あれっ?カノンは?」
「カノンがいませんね」
二人はすぐにカノンの不在に気づいて、きょろきょろ辺りを見回している。
「今、海闘士の拠点とやらへ水着をとりに行っている。すぐに戻る」
「そうなんだ、海闘士の拠点って見てみたかったな」
「だめだよ星矢、聖闘士に見せてくれるわけないよ」
子供らしい会話にサガは和む。
「わたしたちを入れてくれるような場所だ。そう重要な拠点でもないのだろう」
「それも、そうですね」
「海将軍の連中ともそのうち一緒に泳ぎたいよな。なかなか会えないけど」
「そういえば、おまえたち、水泳は得意なのか?」
ふと尋ねると、星矢は胸をはった。
「魔鈴さんに数え切れないほど海へ突き落とされたからな。荒海の岩場も泳ぎぬけられないと陸へ戻れないし。というか本当に死んじまうし」
「僕はアンドロメダ聖衣の取得条件がサクリファイスでしたから、自然と潜水は鍛えられました」
ちなみにサクリファイスとは、波間の岩にアンドロメダの鎖で縛られ、その岩が満潮で沈む前に小宇宙で脱出するという聖衣取得最終試験である。試験前の模擬ではただの鎖で代用するであろうものの、成功するまでは幾度と無く海に沈んだに違いない。
(聖域への水着導入は必要ないのだろうか…)
遠い目で青銅の話を聞いていたサガは、星矢によって服を脱がされ始めたことに気づいて慌てる。
「ま、まて。話を聞いていなかったのか。カノンがいま水着を取りにいっていると」
「いいじゃん、着てから履けば。早く泳ごうぜ!」
「星矢!サガが困ってるよ」
隣では瞬が恐縮したように諌めながらも、仲の良いじゃれあいと見て本気で止める気はないようだ。
最後の一線を争っての28歳と13歳の攻防は、戻ってきたカノンが二人の頭に拳骨を落とすまで続いた。
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一面に広がる海と白い砂浜のまぶしさに、サガは目を細めた。
一緒に来た星矢や瞬は、準備運動もそこそこに駆け出して、既に海へ足をつけている。
カノンが水辺から少しだけ離れた木陰にシートを敷いたので、サガは昼食の入ったバスケットやタオルをそこへ置いた。
「ガキどもは元気だなあ」
「まだ若いからな」
「おいサガ。その言い方、年寄り臭いぞ」
自分の言い草を棚に上げ、呆れたようにカノンが言うのでサガは笑った。
いかにも『面倒臭いが付き合ってやっているのだ』という表情のカノンだが、本当に面倒であったならさっさと逃げて、この場にはいないであろうことをサガは良く知っている。
「若いおまえも早く泳いでくればいい」
そう返してサガはシートへ腰を下ろした。日陰ではあるが、好天の浜辺だ。日焼けするだろうなと内心でひとりごちる。
「おまえは泳がないのか?」
「ああ、水着を持ってきていない」
「やっぱりな。おまえが水着を持ってるわけないと思った」
返答を予測していたのか、カノンは頷く。
サガとしては、訓練用の水着でも聖域の倉庫から貰ってこようと軽く思っていたのだ。
聖闘士候補生たちは海での戦闘も学ぶ。カノンの前では言いにくいが、主に海界との戦闘を想定してのものだ。泳ぎや潜水の修行も当然ある。その際に使われる水着を購入させて欲しいと頼んだサガへ、しかし、倉庫番の返事は「水着などありません」のひとことであった。
いざ戦闘となれば、わざわざ水着に着替えられるわけでもない。よって、水場の訓練もすべて通常訓練着で行われるとのことらしい。そもそも聖域は現代水着などない時代から同じ修行法でやってきているのである。考えてみれば、別口で海水浴に出かけたカミュや氷河たちも水着を持っていったようには見えなかった。
競技とは違うので、泳ぎの効率などは考えなくて良いのかもしれないが、どうりで訓練中の水難事故が多いはずだとサガは頭を抱える。
改善せねばとの決意は横に置き、そんなわけで水着は入手できなかったのだ。
カノンが肩をすくめて兄へ言った。
「少し待ってろ。この島の詰め所に予備の新品海パンがあったはず」
「詰め所?」
「ここは海闘士の拠点の1つだと言ったろ。海界は旧態依然とした聖域よりも合理的なんだぜ」
「……ありがとう」
それは13年前におまえが手を入れて、一から新しく稼動させたからだろうと思いつつも、言葉には出さないでおく。何もないところからたった十数年で、聖域とやりあえるほど組織をまとめあげるのは並大抵の苦労ではなかったろうが、今は厭味を言う場面でも褒める場面でもない。
過去の感慨を押さえ込むサガに対して、カノンはドライだ。
「礼は言わなくていい。もう一人のおまえが出てきたとき、あいつは水着なくても平気で海に入りそうだからな。一種の保険だ」
「……」
「おまえも脱ぐなよ?」
「……」
言い返せないでいるうちに、カノンは詰め所とやらへテレポートしてしまった。
サガは視線を海に戻す。きらきらと波が光を反射させている。
波際で遊んでいた星矢と瞬が、本格的に泳ぐため服を脱ぎにサガのところへ戻ってきた。
「あれっ?カノンは?」
「カノンがいませんね」
二人はすぐにカノンの不在に気づいて、きょろきょろ辺りを見回している。
「今、海闘士の拠点とやらへ水着をとりに行っている。すぐに戻る」
「そうなんだ、海闘士の拠点って見てみたかったな」
「だめだよ星矢、聖闘士に見せてくれるわけないよ」
子供らしい会話にサガは和む。
「わたしたちを入れてくれるような場所だ。そう重要な拠点でもないのだろう」
「それも、そうですね」
「海将軍の連中ともそのうち一緒に泳ぎたいよな。なかなか会えないけど」
「そういえば、おまえたち、水泳は得意なのか?」
ふと尋ねると、星矢は胸をはった。
「魔鈴さんに数え切れないほど海へ突き落とされたからな。荒海の岩場も泳ぎぬけられないと陸へ戻れないし。というか本当に死んじまうし」
「僕はアンドロメダ聖衣の取得条件がサクリファイスでしたから、自然と潜水は鍛えられました」
ちなみにサクリファイスとは、波間の岩にアンドロメダの鎖で縛られ、その岩が満潮で沈む前に小宇宙で脱出するという聖衣取得最終試験である。試験前の模擬ではただの鎖で代用するであろうものの、成功するまでは幾度と無く海に沈んだに違いない。
(聖域への水着導入は必要ないのだろうか…)
遠い目で青銅の話を聞いていたサガは、星矢によって服を脱がされ始めたことに気づいて慌てる。
「ま、まて。話を聞いていなかったのか。カノンがいま水着を取りにいっていると」
「いいじゃん、着てから履けば。早く泳ごうぜ!」
「星矢!サガが困ってるよ」
隣では瞬が恐縮したように諌めながらも、仲の良いじゃれあいと見て本気で止める気はないようだ。
最後の一線を争っての28歳と13歳の攻防は、戻ってきたカノンが二人の頭に拳骨を落とすまで続いた。