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「そんなのラブラブを選ぶに決まっているだろう」
「……。」
寸分の迷いもみせず小瓶を奪い取ったカノンを前にして、ヒュプノスが何とも言えない微妙な顔をした。
「それを選ぶことに対して、何か躊躇はないのか」
「どこに躊躇する要素があるのだ」
しっかりと握った小瓶を片手に、カノンは力強く言い切る。
突っ込むことを諦め、ヒュプノスは使い方を説明し始めた。
「その小瓶の中にはサガの感情の一部に私の力を混ぜたものが入っている。使うときに蓋を取り、中身を開放するだけで良い」
「それだけでいいのか」
「効果は数時間ゆえ…あっ」
ヒュプノスの目の前で、カノンは早速蓋を開けている。
「使うときに開けろと言ったであろうが!」
「待ちきれなかったのだ。今からオレがサガの処へ向かえば問題ないしな」
よく言えばマイペース・悪く言えばゴーイングマイウェイなのがカノンである。
今日のサガはアイオロスの補佐として教皇宮に詰めていた。
さっそく客を放置して出かける気満々のカノンだった(一応カノンはヒュプノスを客とみなした)。
仕事中であろうサガに使用したのはわざとだ。平和な昨今、緊急に教皇裁定が必要なレベルの案件などほとんど無い。どうせ大した仕事はなく、時間的にもそろそろ落ち着いているだろう。
ようするに、見せ付けるための目算だ。具体的には、サガと仕事をしている約1名に。
「…私は構わぬが…」
こめかみを押さえながら眠りの神は続ける。
「開けた瞬間から発動するぞ。目の前の人間に対して」
「何だと!オレにではないのか!?」
カノンの顔が一瞬にして面白いほど青くなった。ヒュプノスは自業自得だと冷たい視線を返すばかりだ。
「いつ対象限定の効果だなどと話した」
カノンの額にダラダラとイヤな汗が流れる。すると今頃教皇宮では。
「その効果、取り消せないのか」
「私の力をその者から引きあげれば効果は消えるが、目の前に本人が居ないことにはな」
直後、カノンはヒュプノスの手を掴んだまま最短時間での12宮突破記録を更新した。
正気に戻ったサガは「こともあろうに別界の神を聖域の最深部まで連れてくるとは何事だ」と盛大に説教を始めたが、理由を説明出来ないカノンには言訳のしようもない。
アイオロスの方は流石に聡く何かを感づいている様子で、帰り際この上も無く晴れやかに「もう少し遅く来ても良かったのに」などと言ったものだから、カノンは更に落ち込んだ。カノン達が駆けつけるまでの間に何があったのかは聞きたくもなかった。
気の毒になったのか、ヒュプノスは帰り際にもう1本オマケで『デレデレの小瓶』をくれた。
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サガとカノンはそんな薬がなくとも、端からみるとラブラブだと思います。