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「偽教皇をやっていた頃は、何度も『あの瞬間に戻れたら』と思った」
目前にエーゲ海の碧が広がる堤防の上で、サガと俺は二人で立っていた。
「あの瞬間って?」
彼のクセのある銀青の毛先が潮風に揺れる。それを目で追いながら俺は聞き返す。
「シオン様を殺したあの時…もしくは、女神に刃を向けたあの時」
サガは穏やかな声で答えた。
「戻れたら、君はどうしていた?」
「そうだな。自分を殺したろうね」
人生にIFなど無いけれど、取り返しの付かない過去の修正が出来たらと何度望んだ事か…そう彼は言った。
「でも、もしも本当に戻れたら、今ならそうはしないだろう」
サガが遠くを見ながら笑う。
「今だったら、君はどうするの?」
鸚鵡返しのように、俺はまたサガに問う。
「過去の私に、女神を信じても大丈夫だからと伝えると思う」
「それだけ?」
「ああ」
「過去の君は判ってくれるかな」
「多分聞き入れはしないだろう。同じように私は女神を狙い、君を殺してしまう」
「最初と変わらないね」
「変わらないな。そして大勢の人に迷惑をかけて、最後には死ぬ」
俺は手を伸ばして、サガの髪に絡めてみた。手入れされて滑りの良い銀糸はサラリと指先でほどけていく。
「どう取り繕っても、私の愚かな過去は変わらない。皆が歩んできた茨の道を、私の罪を、簡単に無かった事にしてはならないと今は思う」
「そっか」
「それでも、嘆きの壁でお前に会えなかったら、そう思えなかったかもしれない」
サガもまた指を伸ばして、俺の額上の前髪をくるりと巻いた。
「ずっと聖域を見守っていてくれてありがとう、アイオロス。私はお前が好きだよ」
俺はずっとサガの爪を見ていたので、ごく自然に紡がれた告白に気づいたのは二人で聖域に戻った後だった。
もしも戻れる瞬間があるのなら、あのとき間をおかずサガへキスをしたのになと思った。
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「なあサガ」
「なんだ愚弟」
穏やかなシェスタの昼下がり、今日も傲慢な態度を崩さない黒髪の兄へ、カノンはボソリと尋ねた。
「お前、星矢が十二宮に攻めてきたときアンダー無しで聖衣つけたんだって?」
「その通りだが」
「女神の前でもそのまんま自決したんだって?」
「私ではなくアレがな」
カノンは大きく溜息をつき、黒サガに突っ込んだ。
「女神が矢に倒れてたからいいようなものの、星矢たちと一緒に乗り込んできていたらどうするつもりだったのだ」
「どうもせぬだろう」
「アホか!お見苦しいモノを女神の目にも晒す事になってたんだぞ!」
「私の裸は見苦しくなど無い。そもそもアテナは古代からギリシアの文化になじんでいる。当事のごとく男が全員全裸でいても気にすまい」
「アテナは気にせずとも、サオリは気にするに決まってるだろ!ていうか古代ギリシアでも女性には裸を見せねえよ!」
「私は眉一つ動かさないと思うがな。賭けてみようか」
「何をだ」
「あの小娘の前で私が全裸になって驚くかどうか試し…」
「この愚兄がーーー!!!」
本気の鉄拳が黒サガに飛び、その後珍しく弟の勢いに負けた黒サガが延々と説教を食らう羽目になった。
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<拍手御礼お返事>
6/2 22時ごろR様>(>▽<)!!!!!!拝見いたしました!激しく眼福でした!アイオロスランスと奴隷サガ!絶対服従の魔法かけられてしまうんですね!(wikiで覚えました)鼻血ものです!うわーサガにあんなことやこんな事をさせて下さい!やりたい放題の中にもサガにはこっそり優しいアイオロスですね!(wikiで略)ロスサガでもそんな18禁ゲームがあれば…がすがす冥界や海界にも攻め入っちゃいますよ!こちらこそ更なる萌えにゴロゴロ転がっております。ありがとうございました(^^)
そして、日々ぱちりと拍手を下さる皆様に心より御礼申し上げます!
色塗りツールをちいとも使いこなせないので、簡単な絵でも塗りだすと凄く時間がかかってしまいます。上手いかたは下絵も色塗りもサラサラとこなすんだろうなあ…下手っぴは時間をかけても汚くしか仕上がらないってどゆことですか!(>◇<)
そんな気持ちをSSに込めてみる。
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「デスマスク、何故お前が双児宮に居るのだ」
大きな紙袋を片手に押しかけてきた隣宮の主へ、黒サガは怪訝そうな目を向けた。
闖入者はテーブルの上へどさりと荷物を置くと、その中から次々に何やら食材を取り出している。
「アンタの弟に頼まれたんだよ」
「今日の食事作成をか?」
黒サガにとっては見たこともない粉類や調味料が卓上へ並べられていく。
デスマスクへ問い返した形は疑問系だが、その声色には作るのが当然であるかのようなニュアンスが含まれていた。
「違う!調理指南をだ。聞けばアンタ、食事当番をサボってばかりいるんだって?」
「………」
サガは料理が下手だった。それでも白サガの時は努力して食べられるものを何とか取り揃えるのだが、黒サガの時は調理自体をしようとしない。従者に押し付けるか、出来合いを調達してくるか、それが出来ないときには当番を放棄するかだ。
そして放棄されたばあい、カノンが根負けして食事を作らないとその日は何も食べられないのだ。
「アンタらの師匠は食事を作らせたりしなかったのかよ」
「…それはアレとカノンが何とかしていた」
「まあ、アンタの方は習う機会も無かったんだろうがな。今日はアンタでも出来そうな簡単なパン作りを叩き込むからそのつもりで。混ぜてこねて焼くだけだから、仕上がりと焼き加減さえ気にしなければ普通に食えるものが出来るはずだ」
「何故私がそんな事をせねばならんのだ」
「そのメモに材料名と、それぞれの分量が書いてあるから順番に量れ」
いつもは黒サガに対して下手に出るデスマスクも、こと料理に関しては強気だった。
仕方なく…というよりは半分気まぐれで、黒サガはとりあえず言われたとおりメモの上から順番に量ってはボールに入れていく。
「…ってアンタ!!!何でいきなり全部一緒のボールに入れるんだよ!」
「どうせ混ぜるのだろう」
「手順があるんだよ!しかも何でドライイーストをそんなに大量に混ぜようとしてるんだ!7.0グラムって書いてあっただろ」
「70グラムの書き間違いかと思ったのだ」
「誤字を疑う前に、自分の料理能力を疑えよ!」
「強力粉は400グラムなのに、そんなに少ないわけがない」
「あああああ、言ってるそばからバターを固形のまま入れたな!それは室温に!」
「温めれば良いのか」
「混ぜた後で小宇宙で熱するな!他の材料も温まるだろう!」
「細かいことをうるさい奴だな」
「室温にって言ってるのに、何で卵が固まり始めてるんだよ!」
「最終的に混ざれば良かろう」
「そのワインは土産に持ってきたやつで材料じゃないから混ぜるなー!!」
結局パンは作成できず、その日以降はいくらカノンが頼んでもデスマスクは黒サガに料理を教えようとはしてくれませんでした。
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黒サガの場合は、出来ないというよりヤル気がないだけの気がしないでもない。
他所様サイトでゼオライマーの文字を見かけ、懐かしいなとぐぐってみたら、スーパーロ ボット大戦に出たり月刊COMICリュウで読みきり連載したりしてるんすね!見たいなあ!ありがちですが、私も昔同人誌で星矢ゼオライマーパロもさせて頂きました。大好きなんですあの設定。
そんなわけで当事のパロを適当に配役を変えてSSに直してみました(←手抜きか!)以下、ゼオライマーのネタばれも微妙に含みますのでご注意下さい。
13年前は兄のことを生真面目すぎで肉親への情の薄い偽善者だと思っていた。
カノンは目の前で紅茶をいれているサガを見た。
こうして蘇生してみると、改心した自分へのサガの態度はかなり丸くなっていて、何だか落ち着かない。
いや、丸くなったというよりもこれが本来の兄なのだろう。昔は怒られてばかりいたし、距離が近すぎて客観的に互いを捉えることが出来なかったから判らなかったのだ。
サガがそっとカップを差し出してきた。強めのダージリンの香りが漂ってくる。
「アフロディーテが紅茶を土産に持ってきてくれたのだ…味はどうかな」
「ああ、悪くない」
一口含んでそう答えた。
料理の下手なサガだが、紅茶だけはそれなりに美味しく淹れる。
サガは「そうか」と言うと静かに微笑んだ。
昔のサガのような、不自然なほどの曇りない慈愛の微笑み(オレにはそう見えた)には耐性があるが、今のサガのこういう顔は反則だろと思う。昔の方がまだ良かった。
サガは昔のようには笑わなくなった。常に遠慮がちな憂いに満ちた面差しで、どこかこの世を見ていない笑み方をする。
蘇生したとはいえ一度死んだオレ達は、もう生者ではないのかもしれない。しかし、黄金聖闘士の中でもサガからは特に生きている人間の匂いがしないのだ。
今のサガは贖罪と女神のためだけに存在する人形のようだった。
「なあサガ、オレと寝てみないか?」
唐突に言葉が口をついた。
考えるより先に口にしてしまうのはオレの悪い癖で、昔はそれでスニオン岬へ送られたのだが、サガは昔のように怒ったりもしなかった。
サガは手にしていたカップをソーサーへと置き、指先でその縁を弄んでいる。
答える気が無いのかと思ったら、しばらくして
「それも良いかもしれないな」
とつぶやいた。
今なら判る。あの神のようなとまで言われた笑顔は、奇跡のような一瞬だったのだと。
悪心を身に秘めつつもそれに負けずに生きようとした兄を、過去のオレは哂ったのだ。
砕けてしまった宝石を手にしたオレは、どうしていいか判らず黙って紅茶を飲み干した。
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