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「サガって真っ直ぐなんだよな」
アイオロスがジェラードをスプーンで行儀悪く突付きながら呟いた。
ジェラードはアイオロスが弟である獅子宮の主に持ち帰った土産だ。
木製の粗末なテーブルを挟んで、アイオリアとアイオロスは氷菓を口に運んでいる。
兄がサガのことを語るのを、アイオリアは複雑そうな面持ちで聞いていた。
「人格が白い方へ傾いても、黒い方へ傾いても、ベクトルが逆なだけで、どっちも自分の気持ちにとても真っ直ぐで純粋だ。純粋であるために二つに分かれているのかもしれないけれど」
「…黒い方は野望に正直なだけな気もするが」
「正直だね。正直すぎて不器用なタイプだ」
「まあ、二重人格なだけで、個々では裏表の無い人だとは思う…」
二重人格を心の弱さであるかのように思うのは、うつ病が心の弱さによる甘えだという誤解と同じであることをアイオリアは知っている。
確かにサガは心身ともに強く、真っ直ぐだ。
だが、流石にアイオリアは、黒サガに対して兄のようには論ずる事が出来ない。
それは、過去の黒サガの仕打ちを振り返れば無理もないことだった。兄が汚名をきせられた事による被害は、全て弟であるアイオリアが被ったと言っても良いのだから。
「お前には苦労をかけた」
スプーンを持ったまま、アイオロスがニコリと笑う。
この笑顔が曲者なのだとカノンがその場に居たら言うだろう。全ての闇を洗い流すような太陽の笑み。
その微笑も、ある意味で神のような笑顔であるわけだが、アイオロスは別にその笑顔で誤魔化そうとしているわけではない。サガと同様に心からのものだ。
ただ、どちらもそれを見た弟が、その笑顔に負けてしまうだけで。
「兄さんが帰ってきてくれたから、もういい」
アイオリアはぶっきらぼうに答えると、自分もジェラードを黙々と口に運んだ。
アイオロスが目を細める。
「お前は素直で嬉しいよ。サガの弟くんは素直でも正直でもないからなあ」
そこが可愛いんだけどねと平然と言う兄に、アイオリアは口に入れたばかりの氷菓を盛大に噴出しそうになる。
「それ…本人の前で言わない方がいいと思う」
弟の心配をよそに、こともなげにアイオロスは続けていく。
「カノンのあれは、偽るのが習いになってるんだろうね。海神を騙していたという頃は自分の心すらも騙していたのだろう」
ポセイドンとの戦いを経験しているアイオリアは、その言葉には頷いた。
直接は戦いに参加していないものの、その時の海将軍たちとのやり取りは、星矢たちから話を聞いていた。
13年間を憎しみで生きるなどという事は、自分を騙さなければ無理だろう。
(俺が同じだけの期間、逆賊と言われた兄さんを心から消そうとしても、最後までは憎みきれなかったように)
アイオリアは海の底でのカノンを想像した。
13年前に兄を亡くした自分とは違い、13年たってから兄の死が訪れたカノンでは、兄に対する憎しみの昇華の仕方も、気持ちの区切りも、また異なったに違いないとアイオリアは思った。
ただ、それも想像でしかないが。
「しかし、今のカノンは真っ直ぐだと思うよ兄さん。それに強い」
「そうだな、特にサガの前では。サガや女神の事になると素を見せてくる。あれが本来のカノンなのだろう」
アイオロスは残りのジェラードをひとくちで口に放り込んだ。
そしてまた笑みを浮かべて弟を見る。
「お前も、実はカノンと同じくらい兄想いだよな」
予期せぬ言葉に、今度こそアイオリアは食べていたジェラードを噴出した。
「おっ、俺はブラコンじゃない…あそこまでは」
反論するも、最後はごにょごにょと小さく付け加え。
今は弟よりも年下であるアイオロスは、にこにこと『それこそカノンの前で言わない方が良い』と返し、サガと同じ兄としての顔を見せるのだった。
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年の差ロスサガ?
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「その奥のいちごとラムレーズンのジェラードを1つずつ。ドライアイスは1時間分ほどでお願いする」
聖域用の買出しで共に街へ降りたサガが、横で珍しく自分用の買物をした。
あんまり嬉しそうに氷菓を頼んでいるので、つい俺は尋ねる。
「サガってそんなにアイス好きだっけ?」
「私ではなくカノンが…」
言いかけてサガは俺の顔を見た。そして店の奥へ再度声をかける。
「すまない、チェリーブランデーと白桃のを1つずつ別箱で追加してこの男に」
「えっ、いや別に請求したわけじゃないぞ」
慌てて横から口を挟むが、サガはこちらを見て笑いながら片目を瞑った。
「たまにはお前も、弟のアイオリアへ土産を持って帰ってやれ。それに私もお前の目の前で、自分達の分だけ買うのは気が引けるのだ」
こういうときのサガはすっかり兄の顔をしている。
いやでもサガとカノンは双子で同い年なんだけどな。
そんな俺の内面を知ってか知らずか、サガがニコニコしたまま話しかけてくる。
「なあ、アイオロス」
「何だ?」
「二人分買えるというのは、いいな」
それを聞いて、一瞬言葉が詰まった。
何かを買うときに、当たり前のように兄弟分を買ってきた俺達と違い、双子であることを隠してきたサガとカノンは、物を買うのにも細心の注意を払ってきたのだろう。
サガの上機嫌の理由が判った気がして、俺はわずかな嫉妬を追い払う。
こんな笑顔をされたら何も言えない。
思わず俺も微笑み返す。
でも、それはそれとして、少しぐらい俺がこの状況に便乗したっていいよな?
「次は俺とサガの二人分で、何か奢って欲しいなあ」
サガが呆れたような可笑しそうな顔で返事をする。
「まったくお前は…奢られる事が前提なのか」
「あ、それなら今回のお返しに俺が奢ろう。今度どこかへ遊びにいかないか」
さりげなくさりげなく、デートのお誘いを持ちかけてみる。
「そうだな…お前の奢りというのは怖い気もするが、久しぶりに二人で職務と関係なく出かけるのも楽しそうだ」
多分サガはデートなんてつもりは無いのだろうが、了承をとりつけた者勝ちだ。
一番の難問は、14歳と28歳でどこに出かけるのかという事だった。
まあ蘇生後の年齢差のおかげで、サガの俺へのガードが緩んでいるわけだけど。
逆を言えば年下扱いで、俺の望む関係からは距離が遠ざかったともいえる。
店員からジェラードの入った箱を受け取りながら、離れていた13年間がアイスのように溶けて流れてしまえばいいのにと思った。
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年の差カップルも萌え…でもサガはそんだけ年が離れると相手を保護対象とか弟扱いにシフトチェンジしてしまう気も…茨道!
管理人は平気で自分ひとり用に3個でも4個でもアイス買いますが(>▽<)
最近美味しかったのはサボテンソフトクリームです。
そして毎日ぱちぱちして下さる皆様に大感謝です!潤ってます!
帰省してきた弟がやっとドラクエを持ってきてくれました。
これで噂のククールが見れるよ!勇者はさっそくロスと名づけました。
うう、しかしプレイ出来るようになるのは世間様のバカンス期間が終わってからかな…
でも某サイト様のラダカノらぶらぶゲームは早速励んでます。
英雄ロスとラスボスサガは非常に萌えるわけですが、
意外と英雄サガ&ラスボスロスってのもいいなあ!
カノンがどう関わってくるか妄想すると、仕事で尽きた気力も復活しますよ!
でも何の関係もないデス・ロス・サガの三人小話
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蘇生後。
アイオロスは相変わらず真っ直ぐで堅物だ。
「サガ、今度こそ君を守ってみせる」
サガはサガで真面目かつ色気がないっつーか。
「気持ちは嬉しいが、むしろ教皇となる君が守られる立場ではないのか?」
こいつらはある意味似たもの同士だ。
色恋沙汰からは何光年も遠い場所にいやがるのに、アテられている気分になるのは俺のせいじゃないと思うわけよ。
「守るという字はケモノヘンを付けると狩るという字になるな」
つれづれなるままに心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく口に出してみると、二人から困ったような呆れたような目を向けられた。
「けものへんは犬という字を崩したものだな…それは私が女神の犬としてサガを狩るんじゃないかという揶揄か?」
「私の中の獣がアイオロスを狩ることへの牽制だろうか、デス」
こんな二人でもやっぱり13年前のアレがトラウマなのかもしれない。
連想内容が微妙に暗いぞ。
「お、さすが黄金年長組は東洋のコトバにも詳しいね。だが別に他意はねーよ。それに守りあうより狩りあう方が楽しそうじゃん」
「なんだか黒い方のサガみたいな台詞だね」
「えっ?アイオロスの中でもう1人の私はそんなイメージなのか?」
「しなやかで美しい野生の獣っぽい感じ?」
「私は逆に、アイオロスの方が気高い獣の印象がある」
…。
やっぱりアテられている気がするのは俺の思い込みじゃねえと思う。
ま、これも平和な証拠だと俺は生あくびを噛み殺す。
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弟と寝る夢を見た。
何故そんな夢を観たのかは判らないし、どうして自分がカノンの求めに応えていたのかも判らない。
ただ、無性に気持ちよくて充足したのは覚えている。
夢の中で私は、弟と自分を幽体離脱したような第三者として映画のように眺めていた。
黒サガとの分裂ともまた違った、夢ならではの現実味ある多角視だ。
普段の私であれば、血の繋がったカノンと寝る事に躊躇するに決まっている。
なのに、夢の中ではとても自分とは思えない行動でカノンと繋がった。
思い出して顔が赤くなる。
あれは無意識の私の願望なのだろうか。
いやいやそんな筈は絶対に無い。
絶対にないが、何だか不安になって図書館から夢分析の本を借りてきた。
「なに読んでるんだよ、サガ」
「なっ…なんでもない、ちょっと夢について調べ物があってな」
こんな時に限ってカノンが興味を寄せてくる。
普段は私の読む本になど見向きもしないくせに。
「夢調べんのにユングとかフロイトとかでなく、夢占い本…?」
カノンが呆れたような顔をしている。私だって恥ずかしいが、真面目に調べるのはもっと恥ずかしかったのだ。
「た、たまには良いだろう!」
「サガは占いを信じるタイプじゃないのに?」
「星占いも星見も似たようなものだ」
「まがりなりにも教皇経験者がそんな事言っていいのかよ。まあいいや、どんな夢を見たんだ?」
言えるわけがない。
「お前には…」
関係ない、と続けようとして口ごもる。そう言っては嘘になる。
このような些細なことであっても嘘は嫌だった。嘘はあの13年間でもう十分だ。
「オレが何だよ、途中で途切れると気になるだろ」
「うっ。その、お前の事を調べようと思って」
これなら嘘ではない…と思う。
カノンはふぅんと納得したようなそうでないような顔をしながら、私から本を取り上げた。
「オレもちょっと見てみようかな」
「お前が何を調べるというのだ」
「兄さんのことを」
ニヤリと意地悪く笑いながら私を見る。
ポーカーフェイスでいるつもりだったのに、意図せずして顔が赤くなった。
あんな夢のせいだ。
カノンは私に構わず頁をめくっていたが、見つけたらしい項目に目を通すとパタンと本を閉じた。
「何が書いてあった?」
「兄弟姉妹ってトコロを見てみたんだがな…」
肩をすくめてカノンは本を放り投げてくる。
「夢に出てくる兄は父や恋人の象徴だってさ。ホントかっての」
そんなことを言われるとますます意識してしまう。
後日、あの夢は黒サガの見せた嫌がらせだったと判明した。
しかし黒サガも私である事を鑑みると、やっぱり自分の願望である気がして、その度に私はその考えを水面下へと押し込めるのだ。
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暑いので今日はカキ氷を食いまくりました。今日は和風蜜でしたが、やっぱりイチゴシロップも欲しいなあ!
食いつつ脳内でカキ氷を食う星矢キャラをさっそく妄想しました。
星矢はカキ氷が凄く似合いそう。美味しそうに食べる星矢をほのぼのしながら見つめるサガとか、一緒にサクサク味わう14歳アイオロスとか和みます。
カキ氷でカップルの王道「スプーンで掬ったものを相手の口元へもっていってアーンと食わせる」もやりたいなあ(イタタタタ)
クーラー無いので卓上ミニ扇風機も買いました。現在稼動中。
風の力は絶大です(>▽<)
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「花に嵐のたとえもあるぞ」
双魚宮での酒の席で、ふとアフロディーテがサガへ微笑んだ。
「最初に貴方からこの詩を聞いたとき、私は『儚く弱い花であっても、その美しさの内に嵐を秘めていることがある』…そういう意味だと思いました」
そう言いながらサガの杯へ酒を注ぎ足す。サガが手にする小さな金杯は、酒とともに童虎が双魚宮へ持ってきたものだ。その童虎は酔ったシオンといつの間にか席をはずしている。
いま、サガとアフロディーテは二人だけで夜薔薇を肴に杯を重ねていた。
静かな空間に、ときおり甘やかな花の香が風に乗って流れてくる。
「イブセマスジの訳で教えたからね…花発多風雨といえば間違えないだろう?」
「花が咲くと風雨が散らしていくという意味ですね。人生とはそのようなものかもしれないが、私は散らされるだけの花は嫌でした」
きっぱりと言う美しい後輩を見て、サガは微笑みを返す。
「君は花であり嵐でもあるように見える」
「毒の間違いでしょう。それにサガ、言わせていただければ貴方こそ花に見えますが」
「どのようなところが?」
「蜜も色も香もあり…そうですね、ただ散るばかりではなく実を残すところが」
「買いかぶりだ」
受けた杯を、サガはくいと飲み干した。
そして今度はアフロディーテの杯へ酒を注ぐべく古酒の瓶を手にする。
「『どうぞなみなみ注がせておくれ』」
芝居がかった台詞で酒を勧められた双魚宮の主も、笑んで杯を空にする。
「『さよならだけが人生だ』」
アフロディーテは合わせたが、こう付け足す事も忘れなかった。
「でも、私は貴方という友と別れるつもりはサラサラありませんからね」
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ていうか車田先生!「風魔の小次郎」TV実写ドラマ化て…見ますよ(゜◇゜)!
そしていつもぱちぱちして下さる皆様に御礼申し上げます!