それは遠慮から発する性質なのかもしれないし、己の力のみで大抵の事をこなせてしまう有能さからくる無作為かもしれない。誇りからくる矜持とも考えられる。
なんにせよ、時間をかけて彼の内面に踏み込ませてもらえるようになって、ようやく何事かを頼まれるようになる。
しかし無防備に背中を預けてはくれない。
それを寂しく思いながらも、シュラはそういうサガが好きだった。
その孤高の強さは善いもののように思えた。
女神の聖闘士は、基本的に個の強さを求められる。複数で一人を攻撃することが許されぬからだ。
集団で任務を行なうこともある青銅や白銀も、戦闘に突入すれば基本的に個対個だ。
黄金の位ともなると、単体で至高の強さを持たねばならない。
誰にも寄りかからず、そのかわり弱い者全てを護る。
サガは理想的な黄金聖闘士だった。
それなのに。
シュラは目の前でカノンの膝枕に眠る黒サガを見て溜息をついた。
カノンが『何か文句でもあるか』と言う顔で、シュラに視線を向けてくる。
「どうやって手なづけたんですか」
「人の兄を野獣のように言うな。サガは昔からオレのものだ。それに、それはこっちの台詞なのだが。お前が居るのにサガが起きない。サガは他人の前で眠らなかったのに」
カノンはカノンで不満があるようだ。
「13年間一緒でしたので」
今度はカノンが溜息をつく。
『それでも胸が痛まないのは何故だろう』と二人は思う。
サガの居場所が増えたことを知った二人は、この溜息にはどんな意味があるのだろうと考えた。
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サガに安らげる場所が増える事は嬉しい二人。
返信御礼での間違いに突っ込み入りました(>ω<)
「子犬に構うアイオロスに妬くロス」…妬くのはサガだろう私!
27歳ロスを巡って14歳ロスとサガが闘うのでしょうかという、自分に無い発想の素敵コメントを頂き、どう妄想を発展させたものか捏造パワーをフル回転させております。
それに比べて27歳ロスと14歳ロスの間で迷うサガとか普通すぎますよね…(汗)
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「罪人よ、射手座を蘇らせるにあたり、屠ったお前に選ばせてやろう」
冥府の王ハーデスが宣告する。
「彼の者の死した時点における肉体の齢から続けるか、それとも聖衣に留まり続けた魂の齢に合わせるか」
ふわりと冥王が手をかざすと、サガの右前には記憶にあるままの14歳の少年の姿をしたアイオロスが現れ、左前には嘆きの壁や聖衣を通じてアイオリアの前へ姿を見せた時の、年を経た27歳のアイオロスが現れた。
どちらのアイオロスも突然の呼び出しに驚いたような表情をしていたが、何かをサガへ伝えようとして叶わず喉を押さえる。
「死者に言葉は不要であろう」
それはある意味、厳格な生者と死者の区分けだった。
ハーデスはサガが選択を行うまで、アイオロスとサガに意思疎通の手段を与えるつもりはないらしい。
「ふふ、お前の好きな方を選んで良いぞ」
ゆるりと笑う冥界の王へ、サガは溢れる怒気を抑えもせずに聞き返した。
「選ばれなかった方は、どうなる」
聖戦における敗者であるにもかかわらず、ハーデスは未だ神としての威厳を損なってはいなかった。サガの殺気にまで至った小宇宙を軽く受け流し、傲慢ともとれる優雅さで応える。
「存在を与えられぬ者は死者ですらない。この場で消滅する」
「ふざけるな!」
「ふざけているのは女神であろう。聖戦に関わらぬ死者まで起こせなどと。蘇生を行なう恩恵に感謝されこそすれ、責められる覚えはない。さあ如何する。選択せぬという選択肢もあるが」
どちらのアイオロスも蘇生させぬ場合、黄金聖闘士の要が失われるだけであり、冥王としては一向に差し支えないという目論みなのが見て取れた。
「さあ、選べ」
ハーデスは再び宣告した。それは確かな断罪だった。
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今年も皆様にとって良い年となりますように(^-^)
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「東洋では干支といって年月を動物で表したりするんだ」
新年の挨拶がてら双児宮を訪れた星矢は、年賀状に描かれた白いネズミの意味を聞かれてそう説明した。
「今年は子年だからネズミ」
「そういえばデスマスクが、十二支は十二辰に関わり、ひいては十二宮に繋がると説明していた事があったような…」
サガが感心したように年賀状を受け取る。ギリシアには日本のような、宗教に関わらぬ新年の挨拶状交換はない。それでも異国の絵葉書は気に入ったようで、星矢へ新年の祝いと共に礼を言った。
星矢がにこにこしながらサガへ言う。
「ネズミ年だから、ネズミ式の挨拶が欲しいな」
「なんだそれは?」
「ちゅう」
「………」
あまりのベタさに遠い目になりつつも、サガは星矢の額へ口付けを落とした。
その話を後で聞いたアイオロスも当然の事ながらサガに要求した。
「俺ともネズミ式の挨拶をしてくれるよね?」
「お前まで子供のようなことを」
「いや、俺は大人向けの挨拶で頼むから」
「は?」
「マウスTOマウス」
「…マウスの発音が違うぞ」
サガが呆れながらもアイオロスの唇へ軽く口付けたのは、新年ならではの行幸といえよう。
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コメント御礼は帰社後にさせてください(>▽<)ノ
「ア…女神…こ…このアイオロスが一命にかえてもおまもりいたしますぞ」
いたしますぞって…原作のロス兄さんは、台詞回しも結構少年らしくないお方です。
もしかしてサガより天然系なんじゃないかと思うシーンもよくあります。
ロスサガが天然カップルだったりするのもいいな!
平気で闘技場とかでらぶらぶ振りを発揮して、雑兵たちをざわめかせるとかね!
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ロス「修行中に邪魔をしてしまったかな」
サガ「黄金聖闘士が突然二人も来ては彼らも驚くだろう」
ロス「実戦ではいつ敵と対峙するか判らないんだぞ。そんな集中力でどうする」
サガ「責めてやるな。彼らも英雄であるお前に会えて嬉しいのだろう」
ロス「それにしても動きが鈍っているようだが」
サガ「こちらが気になるようだな。確かに修行が足りぬかもしれん」
二人のいうとおり、雑兵一同は気になって修行どころではなかった。
(なんでずっと手を繋ぎ合ったままなんだあの二人は!!)
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教皇宮にも手を繋いで行ってシオンに吹っ飛ばされるもよし。
「教皇が偽者と知りながら、放置していたというのは本当なのか、シャカ」
アイオリアがじっとシャカを見た。その真摯な眼差しに揺るがぬ者はいないように思えたが、シャカは動じる事も無くその視線を浴びた。
そのことがすでに是との返答なのだろうと判断し、アイオリアは唸る。
『それでも女神の聖闘士か』
聖戦以前であれば、そう詰ったろう。だがハーデスとの戦いを経たいま、シャカの女神と地上に対する強い愛をアイオリアは目の当たりにしていた。
シャカは単なる傍観者ではない。必要とあらば、デスクイーン島でしたように自ら手を下す。
(だが、それならば尚更、なぜサガの凶行を認めていたのだ)
それが理解できない。
兄を貶め、女神殺害を目論み、聖域を私物化した男の行為は、本質が善であるというだけで相殺されるようなものではないとアイオリアは感じる。
シャカのしたことは、聖闘士として正しいとはとても言えないだろう。
(だが、聖闘士という枠を外したら?)
処女宮の主は、幼い頃から神仏との対話を可能としていたという。
(女神以外の神を知るシャカには、ギリシア聖域育ちで、女神だけを奉ずる自分には見えないものも俯瞰できたのだろうか)
そう思いを巡らすくらいにはアイオリアも学んでいて、怒りのままに拳を向けることをせず、まず言葉をぶつけたのだった。
「お前には、全ての流れが見えていたのか?女神が戻ってくる事も、サガが敗れる事も判っていたのか」
「いや、私は神ではない」
静かにシャカが答えた。そう答えたシャカの小宇宙は言葉に反して神々しく澄み、どこまでも透明な泉を思わせた。その泉にアイオリアの投げ込んだ小石が波紋をつくる。
「ただ、あの頃の私には迷いが無かった」
本当に小さく、ふ…とシャカは息を零した。
「過去の行動について、私は後悔も詫びもせぬ。ただ、人とは迷うもの。私はそれを知っていたというのに、判ってはいなかった」
独白のようなその言葉を、アイオリアはきちんと理解出来たわけではない。ただ、アイオリアはどうしてかサガを思い出した。
サガは逆に迷い続けたのかもしれない。
その迷う羊を牧童として連れ戻すでもなく、内なる善を信じて自ら道を正す未来を与えた。
それゆえの放置。
それがシャカという男の優しさの形なのだとアイオリアは気づいた。
「私は君の苦しみも放置し続けた。君はそのことを怒る権利がある」
シャカもまた真っ直ぐにアイオリアを見て、そして瞳を開いた。
薄く青い瞳孔が、内面の小宇宙を湛えてほのかに光を持つ。
その光に負けぬ輝きで、アイオリアは笑った。彼は獅子の星を持つ男だった。
「見損なうな、シャカ。俺は過去に囚われるつもりはない。ただ知りたかっただけだ」
「そうか」
そう言うとシャカは暫く首をかしげていて、それからアイオリアに頭を下げた。
虚をつかれたアイオリアが目を丸くする。
「詫びぬのではなかったのか?俺への謝罪なら今更必要ない」
言い切る獅子へ、シャカはどう告げたものか言葉を選んでいるようだった。
「これは、今の君を見損なった発言への詫び…といえば良いのか」
珍しく歯切れが悪い。
「視覚を閉ざすと、目で物を捉えるよりも、多くのことが見える。だが自身の肉眼で世界を見るということも、時には必要なのかもしれん」
「すまん、意味がよくわからんのだが」
「君が、思った以上に良い男に育っていることも気づかなかった」
「は?」
話のつながりが全く理解できなくて、褒められているような気はするのだが、何をどう褒められているのかも判らない。
だが、一瞬悩んだアイオリアは直ぐに笑い出した。
どれだけ英知に長け、神仏に近い男であろうと、シャカもまたアイオリアと変わらぬ年齢なのだ。
唐突な言動も深慮からくるものばかりではなく、実はかなり不器用だからという一面もあるからではないか、そう思い当たる。
アイオリアはシャカと同様に頭を下げる。
「すまん、俺もシャカのことを決め付けていた」
今度はシャカが目を丸くした。
「サガのことも、決め付けぬようにする。シャカのように深い愛で見守る事は出来ないかもしれん。だが、神のようだとか、神に近いとか、そんな外郭だけではなくて、人の迷いが何から来るのか、知りたいと思う」
アイオリアの瞳はゆるぎなかった。
「迷う羊を見つけた獅子は、迷わず食い殺すかと思うていたよ」
アイオリアの心を読んだかのようにシャカは呟くと、再び瞳を閉ざした。
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めりーくりすまーす!