LC双子のごくごく普通の一日
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夕飯前のひとときを、アスプロスはのんびり本を読みながら過ごしていた。
食事当番は基本的にデフテロスである。平等な関係となった今も、昔からの習慣がそのまま残っているのだ。
デフテロスのほうが料理上手という理由もある。
身近な香草をふんだんに使った味付けは、いつでも兄の好みに合わせられていた。
漂ってくる夕餉の香りに小腹を空かせつつ、突如、台所方面で膨れ上がる小宇宙を感じて、アスプロスは本から目を上げた。
普通に考えて、夕食の準備で小宇宙を燃やす理由など無い(黒い虫がいた場合は別だ)。
台所へ意識を向けて探ると、なにやらデフテロスが小宇宙を燃やしたまま、目の前の鍋を凝視している様子である。デフテロスの小宇宙はその鍋へと注がれている。
「…何をやっているのだ?」
思わずアスプロスはひとりごちた。以前であれば、食事に細工でもするのかと、疑心暗鬼になっていたところだろう。いや、正直なところ、今だとて不安になることもある。
ただ、弟との死闘を乗り越えたアスプロスは、その不安が杞憂であることも知っているのだ。
アスプロスは立ち上がり、台所を覗いた。
「アスプロス、もう少しだけ待ってくれ」
夕飯を急かしに来たのだと勘違いしたデフテロスが、振り向きながら伝えてくる。
「そのかわり、味は期待して良いぞ」
「小宇宙を燃やすと味が変わるのか?」
弟の不思議な行動について純粋な疑問として尋ねると、デフテロスが目を丸くしてから笑った。
「さすがのアスプロスも料理方面は不得手か」
これが弟以外に言われたのであれば、プライドや対抗心から気を悪くしたであろう台詞なのだが、アスプロスは素直にうなずく。デフテロスは熾き火の上から鍋を下ろした。
「空間を圧して、料理に火を通りやすくするのだ。味も染込むし、調理時間も短縮できる」
「…なるほど」
現代で言う圧力釜の原理だ。
デフテロスが鍋の蓋をとると、大きな塊のままの鹿肉を使ったシチューの匂いが台所に広がり、アスプロスの食欲を刺激した。
「さあ、夕飯にしよう」
湯気を立てている鍋の取っ手を、デフテロスは平気で素手で掴んでテーブルへと運んでいく。
弟の後を食器片手に追いかけながら、『なんだ、そのような理由か』と、アスプロスは己の猜疑心を笑い飛ばした。
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今日もぱちぱち有難うございます(>ω<)日々の癒しです。
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