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双児宮を訪れたタナトスの手には、綺麗な螺鈿の細工箱があった。
その日がサガおよびカノンの誕生日であることを思えば、プレゼントなのかもしれないが、死の神であるタナトスが誕生を祝うとも考えにくく、単なる来訪の手土産かもしれない。
(いや、こいつが人間相手にそのような気遣いをするか?)
カノンは胡散臭げに冥界の神を見た。それでも迷宮を消して通してやったのは、まがりなりにもサガの客であることと、神の前で迷路程度はなんの足止めにもならず、却って機嫌を損ねて破壊の限りを尽くされるであろうことが予測できたからだ。
リビングでは白サガが最上級の紅茶を淹れている。
タナトスは慣れた様子でリビングの客椅子へ腰をおろし、細工箱を開けた。
中から出てきたのは銀の五芒星のペンダントだ。
「お前のために用意した」
サガに目をやりながら言っているのを見ると、当然サガ用なのだろう。内容からして、やはり誕生日プレゼントであったのだろうか。双子であるカノンも同じく誕生日であるのだが、カノンは自分用のプレゼントがないことにむしろ安堵した。死の神からの贈り物など、激しく拒否したい。
しかしサガの感想は違ったようだ。
嬉しそうにその箱を覗き込む。
「わたしに…?何か文字が書いてあるようだが…」
「フッ、ハーデス様に倣ってみようと思ってな」
何気なく一緒に覗き込んだカノンの目に映ったのは『YOURS EVER』の文字。
「ふざけんなーーー!」
カノンの叫びもどこ吹く風で、タナトスはサガの淹れた紅茶を優雅に飲み始めている。
「安心せよ、お前の分もヒュプノスが用意するらしい。俺はどうでもいいが、セットで作りたいと言っていてな。後でそちらも届けさせよう」
「いらんわ!そういう意味で怒ったのではない!」
カノンとタナトスが揉めている間、何時の間にか出てきた黒サガが油性ペンで、ペンダントの文字の真ん中に『N』を付け足していたのだった。
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今日もぱちぱち有難う御座います(>x<)相変わらずコメント返信が遅れていて申し訳ありません。