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蜘蛛の夢糸LC版…(双子神+LCふたご)
ヒュプノスは指に巻きついている虹色の糸を、細く水面へと垂らしている。
風が吹いているわけでもないのに、その池には時折さざなみが立ち、ゆらゆらと波紋を沸かせては凪ぐ。
それはヒュプノスの垂らす糸が水に引き込まれるのと同じタイミングだった。だが、魚の食いつきが不完全なのか、糸が完全に沈む事は無い。
瞳孔のない金の瞳で、ヒュプノスは池の奥を覗き込む。
アスプロスの死に顔が目に焼きついて離れない。
それは俺の眠りまで侵食し、おかげで暫く不眠症だ。
それでも戦士として身体を休めないわけにはいかないため、睡魔に身をゆだねると、きまってかつての兄が笑いかけてくる。
「デフテロス」
俺は騙されない。どんなに優しい声を出そうが、アスプロスはどうせ俺の事を道具としか見ていない。目を見てはいけない。
「俺と世界を支配しようではないか。二人で一緒に」
甘く低い声で囁いてくる。幻朧魔皇拳なんかより、こんな風に微笑まれるほうが、よほど俺を縛る事をきっとアスプロスは学んだのだ。
「…二人じゃ、ないだろう」
押し出した声はかすれていた。
「貴様の傀儡として横にあったとしても、それは貴様の模造品で俺ではない」
「そんなこと」
アスプロスがにこりと笑う。邪悪だけれども美しい笑み。他人を惹かずにはおかない魅惑的な煌きをもつ兄。だが俺は昔の、単純であっても輝かしい真っ直ぐな笑顔の方が好きだったのだ、アスプロス。
だがそのアスプロスは同情するような目つきで俺を見る。
「デフテロスよ、お前は一瞬でも思わなかったのか?完全なる俺の傀儡として、俺の手足となり、俺の望みのままに生きる事を…そう、俺を殺すよりも」
「………」
「俺にはお前が必要だった」
「黙れ!俺はお前のように弱くは無い!」
渾身の力でなぎ払う。簡単に兄の姿は消え、闇だけが残る。
一瞬、もっとアスプロスの顔をみていたかったと望んだ心を俺は押し殺した。
「ふむ、まだ餌に調整が必要なようだ」
ヒュプノスは糸を巻き上げながら呟く。いつのまに来ていたのかタナトスがその隣で呆れたように零す。
「この聖戦の支度で忙しいときに、釣りとは暢気だな」
「支度はお前がつつがなく進めているだろう?それに、これは遊びではない。一応仕事の一環だ」
「そうは見えなかったが」
「黄金の光をひとつ釣り上げようかと…だがまあいい、既にもうひとつは堕ちているのだし」
呟くヒュプノスへ、タナトスは勝手にしろとばかり背を向けて歩いていってしまった。その背へ視線を向けてタナトスはこそりと零す。
「光の代わりに、お前が釣れた」
夢の繰り糸をしまうと、ヒュプノスはタナトスを追いかけて歩き出した。
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デフテロスがアスプロスを殺したあと一ヶ月あたりのお話で。
兄に傀儡として愛され、必要とされるのもまた幸せのような気がするんですが(←私が)、それはデフテロスにとっての幸せじゃあなかったってことで残念です。
じゃあ傀儡としてではなく、デフテロス自身に手が差し伸べられたならどうなるかバージョンも夢神様に頑張らせてみたいココロ。
今日もぱちぱち有難う御座います(>ω<)
今日はとうとうチャンピオン発売日ですね(>ω<)出社前に買う!でもって昼休みにもんどりうつ!(予想)
夜にまたここで妄想大爆発させていると思いますが、生暖かく見逃してやって下さい。
ちなみに、サガの場合はアテナの盾の光によって邪悪を払われ、善なるサガが残ったわけですが、もしもアスプロスが100%悪と化してしまっていた場合、盾を向けられたら全て払われてしまい、後に残るものがないわけです。黄金聖衣に選ばれている彼が悪100%とか、そんなことはまず無いので仮定のお話なんですが。
そのせいで廃人になってしまったアスプロスを、デフテロスが大事に大事に面倒を見るような妄想が止まりません。サガもよく二次創作で廃人になってますが、あれのアスプロス版なのです(痛)
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アスプロスは壊れてしまった。
アテナの盾によって邪悪を消し去られた後の兄さんには、何も残らなかった。かつての聡明さと強い意志に満ちていた瞳は濁り、歪んだ野望はなくなったものの、まともな人間としての形も失われてしまった。
処分(殺害の事だ)だけは請うて許しを貰い、俺は一人では暮らせないであろう兄を連れて、カノン島の村のはずれへ引きこもった。
邪悪が失われたせいか、兄さんにはかつての光が垣間見えた。ときおり笑うと、そこだけ輝くようだった。
でも俺に笑いかけることはない。俺を弟と認識もしていない。そういった人間としての判断能力も今はないのだろう。
食事を手伝うのも俺の日課だ。アスプロスはひとりではモノを食うことも出来ない。
茹でて塩をまぶした芋のかけらを、指で摘んで口元へと持っていく。1つ、2つ…よく噛ませて食い終わるのを見計らっては唇へと押し込むのだが、食が細いのか飽きるのか3つめになると口を開こうとしない。いつもそうだ。同じものを最後まで食うのをとても嫌がる。
最初の頃は諦めて別の食物を用意もしたが、毎回となるとそうもいかないし、贅沢させるような余裕もない。
「アスプロス」
俺は少し強い口調でアスプロスを叱った。怒っているという事だけは通じるようで、アスプロスは子供のようにうつむく。そしてぼそぼそと意味の判らない言葉を紡いだあと、はっきりと呟いた。
「2番目まででいい。あとはいらない」
兄の、数日振りに口にされた、意味のとおる言葉だった。
俺は黙ってアスプロスを見る。俺はただ兄さんと、こうして静かに暮らせればそれで良かったのだ。どこで間違えたのだろう。最初からか?
行き場をなくした指先の芋を己の口へと放り込む。カノン島の痩せた地でとれた芋は、やっぱり痩せた味がしたけれども、聖域のメシよりはずっと美味いと俺は思った。
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今日もぱちぱちありがとうございます。返信は夜にさせて下さいね!
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次元技を使いすぎると、周囲の空間が不安定になることがある。
そんなとき、時折サガの前に現れる幻影があった。岩ばかりの不毛の大地に噴煙がまき上がるのが見え、火山地帯のように思われたが、どこかなのかは全く判らない。
さらに稀な確率で、その風景にただひとり男の映ることがある。
生活出来るような場所には思えないのに、彼はそこで暮らしているようだった。褐色の肌を持つその男は大層カノンに似ていた。とくにその目。何もかも見透かすような、諦めているような、そして誰の事も信じていない目。13年前のカノンのあの目を思い起こさせる。
だからだろうか、その男のことが気になったのは。
サガはその幻影空間を固定しようと試みた。
小宇宙を高めてその世界へ触れてみると、そこは案外とこちらの時空に近い形で構成されていた。アナザーディメンションで別次元を開放するときなど、物理条件の全く異なる世界に繋がる事もあるのだが、それに比べれば介入は容易い。それだけでなく、意外なことに男はサガとの何らかの縁を持っているようだった。自分と関係性を持つものが存在すると、道を繋ぐとき飛躍的に空間の安定値が高まる。
サガはエイトセンシズまで小宇宙を高めると、するりとその風景の中へ身を投じた。
デフテロスは突然降ってきた男に警戒の色を露わにする。即座に攻撃をしかけなかったのは、相手から敵意を感じなかった事もあるが、まずは状況を確認すべきだという冷静な判断が働いたからだ。
相手が自分と同じ次元技を使い、界を渡ってきたことは直ぐに気づいた。しかも凄まじく小宇宙のレベルが高い。
現れた男は界渡りでほつれた前髪をかきあげている。顔立ちは彼の兄アスプロスに恐ろしく似通っているように思われた。その事が警戒心だけでなく拒絶の気持ちまで高めた。
何者だと問おうとする前に、相手のほうが口を開いた。
「このような場所に、どうしてひとりで?」
デフテロスの眉間に縦じわが寄る。どうやら一方的に相手は自分を知っているらしい。
相手は立ち込める噴煙を手で払い、それでもおっつかないと判ると自分の周りに空気清浄機代わりの結界を展開した。簡単にこなしているが、それとて高度な技術なのだ。
「粉塵が凄いな。これでは洗濯が大変だろう」
「…用件を言え」
デフテロスは他人と話すのに慣れていない。黄金聖闘士となって以降は話す機会も増えたものの、それまでは兄の影として人との接触は制限されてきたからだ。そのこととは別に無駄な会話も嫌いだった。他人とやりとりする会話など最小限でよかった。むしろ拒絶したい。だからこそこの地を選び、人を避けているというのに。
自分の領域を侵犯してきた相手を、デフテロスは強く睨む。
相手の男は動じもせぬ様子でふわりと微笑んだ。
「わたしはサガという。用は君と話をすることだったのだが…ああ、君からジェミニの気配がする。どうりで界を繋げやすかったはずだ」
そういう男からも双子座の気配がする。サガと名乗る男は、異界での双子座の主だと主張した。
「勝手に現れて勝手な事を言うな。会話が用ならば目的は終えたろう。さっさと去れ」
にべもなくデフテロスは切り捨てた。サガはきらきらした気配までかつての兄に似ていて、逆に否応もなく兄の裏の顔をも思い起こさせた。それはデフテロスの傷を深く抉った。
しかし、初対面の相手に心の動揺を悟られるつもりなどなく、表情は変えずに拒否の言葉だけを伝える。
意外なことに、サガは素直に謝罪した。
「わたしはお前に似た目をしていた者を知っている。だから気になってしまったのだが、たしかに突然そのようなことを言われても困るだろうな。すまない」
下手に出られると、デフテロスも強くは言いにくい。
それでも気を許すつもりは全く無かった。
「フン、殊勝なことを言ったところで、貴様もどうせ裏を持っているのだろう」
サガは目をぱちりと瞬かせている。
言葉にしてしまってからデフテロスも気が付いた。自分は本当に他人と関わりたくないのだ。『あのこと』以来、どうしても人を心の底からは信用できない。あれだけ優しかった兄ですら心の中に悪魔を飼っていた。表面上どんなに取り澄ました者だとて、いつ何時豹変するか知れたものではない。そんなものは見たくない。
そんなデフテロスの心を見透かしたかのように、サガは目を伏せて静かに尋ねた
「名を聞いても?」
「この島のものは鬼と呼ぶ」
「鬼には見えないが…異界のジェミニよ、裏のない人間などいるのだろうか」
思わぬ切り替えしで言葉が詰まる。
サガは優しそうに見えて、言葉に遠慮はなかった。
「君は他人を信じたいのに出来ないという目をしている。誰かに裏切られた事があるのか」
「黙れ」
「単なる他人であれば、差し出がましいことを言うつもりはなかった。しかし君はジェミニだ。人を信じぬ者は人を信じる者に敵わない。聖衣の真髄を発揮することが出来ないのだ」
「黙れと言った!」
空気を極限まで圧縮して球となしサガに叩きつける。彼の張っていた結界がパリンと割れた。
無神経にもほどがある。一体何の権利があってそこまで踏み込もうとするのだ。
しかしサガは避けなかった。
額から一筋の血が流れ落ちるのを拭いもせず、周囲へと目をやっている。そして納得したように呟いた。
「そうか、ここはこちらの世界での癒しの地か」
岩と不毛の大地ばかりのカノン島を、癒しの地とは普通の人間ならば思わぬだろう。灼熱の溶岩のなか、傷ついた聖闘士は身を癒すのだ。
「だが、ここでも心の傷は癒せまい」
サガは真っ直ぐにデフテロスを見た。その真っ直ぐさが昔のアスプロスを思わせて、知らずデフテロスは俯いてしまう。無様だと思う。初対面の男にここまで揺さぶられる自分が。
兄を思い起こさせる目の前の男がひどく憎かった。
「…また来るよ、鬼を名乗るジェミニ」
一方的に話しかけたあと、暫くしてサガは消えて行った。
自分が鬼なら、サガとやらは悪魔に違いないとデフテロスは思った。
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デフテロスのトラウマを色々考えるともだもだします。
人間不信とか、信じることへの恐怖感とかごにょごにょなテンプレで。
アスプロスが外道でも鬼畜でも全然問題ないのですが、出来れば小者ではあってほしくないなあという我侭管理人なのです。理由は彼が黄金聖闘士だから。黄金聖闘士には夢を持ってます。
例を挙げると蟹がうぎゃっぴー!なのはOKでも、冥界編での死の国へ戻るのはたくさんだあーと敵に背を向けて逃げるのはションボリというような違いといいますか(>ω<;)。あれはアニメと同じく演技ですよね!?
蟹は小悪党なところが格好いいという面もあり一概には言えないのですけれど、アスプロスは悪というのなら大悪党で居て欲しいなと思うのでした。
しかし、しっかりものの弟デフテロスとセットで考えると、ヘタレ兄でも非常に美味しいので複雑なマイハート。
今日も妄想を胸に抱きつつ仕事に行ってきます。
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「アンタとカノンだと、どっちが強いかね」
強い蒸留酒を舐めるようにして飲んでいる黒サガの前へ、デスマスクが水差しとライムと手作りのツマミを置いた。黒サガはグラスを傾ける手を止めて、視線を後輩へと向ける。
「わたしだ」
「へえ?」
考える間もなく即答されたのが意外で、デスマスクは面白そうに隣の椅子へ腰を下ろした。
「見る限り、小宇宙の質も量も遜色ないように思えるんだが」
「それでも、わたしだ」
黒サガは一旦黙り込み、少し考えてから言葉を選ぶように続きを口にする。
「そうでなければ、わたしがカノンを差し置いて聖衣を纏う資格がない」
「ああ、なるほど」
真面目だねえとデスマスクは呟く。あれほどの力を持つ弟を予備扱いするからには、サガは常にカノンよりも強く、そして最強であらねばならない。そのように自らへ課しているのだろう。おそらくそれが第一継承者である彼にとっての、カノンに対する礼儀なのだ。
そういう根幹の部分の真っ直ぐさは、二人のサガに共通していた。
「じゃあ、アンタとカノンが『戦ったら』どちらが勝つ?」
ニヤリと笑って尋ねたデスマスクの問いに、黒サガの紅い瞳が丸くなる。
今度の返答は少し時間がかかった。
「…負けるわけにはいかないな」
「ふうん、アンタにしては、謙虚じゃないか」
「己と相手の技量を見誤るほど、うぬぼれてはおらぬつもりだ」
憮然とした顔をみせて、黒サガはまたグラスを口元へと運ぶ。
「だが、最後にはわたしが勝つ」
「どうしてそう思うんだ?」
「根拠などない」
珍しくきっぱりと非論理的なことを言い放っている黒サガに、デスマスクは笑い出した。
「アンタのそういう負けず嫌いなとこ、割と好きだぜ」
デスマスクは己のグラスにも酒を注ぎ、目の高さに掲げて乾杯の仕草をとる。
「俺とアンタのどちらが強いか、飲み比べをしねえ?」
「勝負なら何でも乗ると思うな」
「じゃあこの勝負は俺の不戦勝ってことでいいか」
「…ずるいぞ。お前に勝つほど飲んだならば酔いで動けなくなるだろうし、お前に負けたならば、勝者のお前は戦利品を欲しがるだろう。わたしに何の得がある」
言いながら器用にライムを片手で口に絞り、片手でグラスの酒を呷っている。そんな黒サガをじっとデスマスクはみつめた。
「アンタは俺とは戦いたいとか思わなさそうだもんな」
「は?」
「何でもねえ」
デスマスクもまたグラスに口を付ける。酒が喉を抜けたあとに残る熱さを味わいつつ、彼はかつての主君の鈍感さに小さく苦笑した。
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デスマスクは自分が片思い(恋愛とか以外の色んな意味で)だと思ってるけど、黒サガ側からすると実はそうでもないといいなあ。反逆時代、五老峰老師のもとへ刺客として送り出される位には黒サガに信頼されてます。
ってそれ凄い信頼じゃないのかもしかして。あの童虎に対してデスマスク一人で対応ですよ!?無茶言うな。
あと、少なくともデスマスクに餌付けはされてます拙宅白黒サガ。
そして、今日もぱちぱち有難う御座います!嬉しいカンフル剤です。
双子は語りだすと止まらないので困ります。