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「お、恐れながらそのお姿は一体」
しどろもどろになりながらも、サガは顔を上げることが出来ない。跪いた姿勢ゆえに、顔を上げるとちょうど視界が微妙な位置にあたるのだ。
『なに、気分転換だ』
美しい金髪をさらりとかきあげ、豊満な肢体を惜しげもなく見せ付けるポセイドンに羞恥心などないように見える。見た目の清楚さとは随分なギャップだ。サガは恐る恐る尋ねた。
「全裸になることがですか」
『違うわ!たまには見た目を変えて職場に華やかさを与えてやろうという、福利厚生的配慮よ』
答えを返されたものの、サガにはその配慮とやらが全く理解出来ない。神の考え方はよくわからぬものだと胸裏で零しつつ、それでも話を合わせる。
「女性の姿になることが出来るとは存じ上げませんでした」
『容れ物があったのでな』
そう言われてみると目の前の存在感は幻影などではなく、確かな現実の肉体のものだ。
という事は、この身体も誰かの身体を奪って使っているのだろうか。
「海神の依代はソロ家の直系男子と伺っておりますが…」
思わずサガの口調に非難めいた色が混ざってしまったのは仕方がない。
そんな感情を見通しているのかいないのか、ポセイドンは面白そうにサガを見下ろす。
『それは存命の人間に降りる時の話だ。この身体は数百年ほど昔のブルーグラード領主の娘のもので、海神の力の器として前シードラゴンが用意した遺骸。前水瓶座のつくりし溶けぬ氷柱に埋もれておったゆえ、肉体がそのままに保存されておったのだ』
どこからか攫ってきた女性ではないことに安堵しながらも、耳にする内容はなかなか衝撃的なものではあった。
「用意などと…まるで道具のようではありませんか」
『ただの道具とは思わぬ。これは前シードラゴンの姉の身体』
さらりと海神より告げられた内容に、サガは絶句した。
何があったのかは判らないし、海界の過去に対して聖域の人間が軽々しく口を挟んでよいものではないのかもしれない。それでも、前海龍という言葉が現海龍であるカノンを連想させる。前海龍は何を思い、肉親の遺骸を神へと差し出したのだろうか。
無言でサガは立ち上がり、クローゼットへと向かった。頻繁に訪れるサガのために、何枚かの法衣が着替え用としてそこに収められている。その中から落ち着いた色合いの一着を取り出して、サガはポセイドンの処へ戻る。
「配下の身内であろうと亡くなられていようと、若い女性の身体を勝手に他人が晒すものではありません」
口調は穏やかなものの、反論を許さない言い回しだった。
サガはそのまま手にした法衣を丁寧にポセイドンの頭から被せていく。どこか手つきが優しいのは、相手が神だからという理由ではなく、女性の身体であるからなのだろう。
サガの法衣サイズは当然ながら細身の女性に合わず、裾は引きずる長さであり、袖口は指の先まで隠してしまう。しかし、何もないよりマシだとサガは前留めの掛け金を止め、身なりを整えてやる。
神相手にも遠慮のないサガのこの行動には、ポセイドンも目を丸くしたが、言訳のようにもごもごと返す。
『…仕方あるまい。そもそも裸で保存されておったのだ』
当時はそれでもポセイドンの鱗衣を纏っていたが、神の鎧ををそのままには流石に出来ず、呼び戻した結果の全裸だった。だが、それを目の前のサガには言いにくい。
「未成年の海将軍たちの前へ、そのまま行かぬご配慮があったのは何よりです」
『海将軍たちは、器の外見など気にせぬぞ』
聖域の人間として多少は客観的に見ているサガからしても、カノンや海将軍たちがこの海神を見たときのことを思うと、とても気の毒になった。もしこれがアテナだったとして、臣下を驚かすなどという理由から男性の全裸姿で現れた日には…
それ以上は考えたくもなく、眉間に縦じわをつくりながらサガは目の前のポセイドンに意識を戻す。
「ポセイドン様」
『な、何だ』
「そのような理由でその身体をお使いになるのなら、せめてその女性に相応しく美しく装うのが礼儀です」
『う…しかし』
「職場に華やかさをとおっしゃったのは貴方ではありませんか」
『確かに申したがな』
「女官たちを呼んで身だしなみを、そうだ、テティスに見立てを頼みましょう。ドレスは何色が宜しいですか。海界ならば真珠や珊瑚の類は最高級のものを選べるとして、あと折角可愛らしいのですから、振る舞いもそれに見合ったものになさるべきです」
『か、可愛い!?』
サガの面倒見の良さは対象を限定しない。たとえ相手が他陣営の神であろうとだ。その恐ろしさをポセイドンは身をもって知ることとなる。
「可憐と言うべきでしたか?その姿はなかなか魅力的ですよ」
『………お主、天然の女たらしか』
「何かおっしゃいましたか」
『いや、何も』
「いま小宇宙でテティスを呼んでおりますので」
悪意はまったく介在していなかったが、混沌を喚ぶ者とクロノスの称したサガの介入により、当初の海神の目的からはどんどん離れた方向へ事態は流れてゆくのだった。
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勢いに任せて書いていたらおかしな方向に。
ぱちぱち有難う御座います!元気の源です!
返信は次回ブログにてさせて下さいね(^▽^)!
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海界へ遊びに下ったサガは、いつものように北大西洋の宮でカノンの仕事が終わるのを待っていた。
最近は海闘士たちも慣れたもので、黄金聖闘士であるサガ訪問に対し、多少の警戒心を払いつつも基本放置状態である。
海龍の従者が用意してくれた紅茶をのんびり頂きながら、サガは聖域に居るときよりも余程寛いでいた。
硬めのソファーへ身体を預けながら、ふと空間の揺らぎを感じてカップを傾ける手が止まる。原因を探るため意識を集中させたあと、サガは眉をひそめた。
(海神の小宇宙がこの部屋へ集まっている…)
だがそれは、いつものポセイドンの小宇宙とは比べるべくもない小さな波動だった。黄金聖闘士たるサガであればこそ、わずかな変化に気づくことが出来たのだ。精神感応で隣室の海闘士や従者たちの様子を調べたものの、気づいた者はなく、サガは首を傾げる。
(お忍びということか?)
考えている合間にも、その気配は確かなものとなって目の前に人の形を取り始めている。
(わたしは此処にいても良いのだろうか)
ポセイドンが内密にシードラゴンを訪れるということならば、この場は遠慮すべきなのかもしれないと考えかけ、支配界内の聖闘士の存在に気づかぬ海神でもあるまいと思い直す。
おそらく、サガの存在など把握した上で、この宮を降臨の場に選んだのだ。
サガは椅子から立ち上がると、出現地点の前で跪いた。相手は異界の神なれど、自分は客分の身であり、海龍の兄としては礼をとるべきであると判断したからだ。
部屋の中に光が溢れ、ゆっくりとポセイドンが顕現する。海の波動が穏やかに満ちてゆく。
以前にも海神の降臨に立ち会った経験のあるサガは、それほど慌てることもなく、顔を伏せたまま降臨の完了を待った。
建前としては、ポセイドンはアテナの封印によって壷へ閉じ込められていることになっている。
しかし、聖戦後に結ばれた講和条約のあと女神はその封を緩めた。ただでさえ本気の海神の前では効力の薄い封である。ポセイドンは比較的自由に壷を抜け出しては、こうして時折海界に示現しているのだった。公然の秘密というやつだ。
封印を隠れ蓑に影で自由に動くことのできる立場を手に入れた海神と、封印を女神の威光として示しつつ、海神の協力を取り付けたい聖域の思惑は一致している。
それを知っているサガは、此度の降臨がどのような理由であれ、口外するつもりはない。
空間の揺らぎが落ち着くと、雄大な神威のこもった意思が、直接サガの脳へと響いた。
『久しいな、双子座の聖闘士よ』
サガは一層こうべを垂れる。
「は、御身による我ら双子への温情、常日頃より感謝を忘れてはおりませぬ」
『堅苦しい挨拶はよい』
どこか機嫌のよさそうなポセイドンに、サガは内心で首を捻りつつ目的を尋ねた。
「弟は不在にございますが…」
『構わぬ。奴の留守を狙って来たのだ。ここで帰りを待ち、驚かそうと思ってな』
「はあ」
どうやら、思った以上に私的な降臨であったようだ。
聖域ではアテナの奔放さに聖闘士たちが振り回されることもあるが、どうやら海界においてもそのあたりは大差ないらしい。
「では弟が戻るまで、酒でも用意いたしま…~~~~~!!!」
顔をあげかけて、サガはビクリと固まり、声にならぬ叫び声をあげる。
目の前には全裸の美しい女性が、前を隠しもせずにサガを見下ろしていたのだった。
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秋の夜長の筈なのに、早晩から眠いですよ…(>◇<)
「上に仰ぐお方が女性というのは、どういう感じなのだろうな」
バイアンが呟いたのは、別に深い意味あってのことではない。先日、三界会議に海将軍筆頭補佐として付いていった席で、パンドラを護衛する冥界のラダマンティスや、女神と和やかに話す聖域の教皇を見る機会があり、何となくその場面を思い出したというだけだ。
「気苦労が多くなる気がするぞ」
と返したのはカーサで、
「女性がいるという意味では多少華やかになるかもしれないけど、うちにもテティスがいるからあまり変わらないと思うな。何で急に?」
と聞いたのはイオだ。
バイアンは「凄くどうでも良い事なのだが」と前置きしてから続ける。
「いや、女性が会議に参加するとな、休憩時間のお茶請けにスイーツが出るのだ」
「本当にどうでも良いことだ…」
横に居たアイザックがぼそりと呟く。イオは小さく首をかしげた。
「あれ?アテナは毎回出ているんじゃないんだ?」
「基本的に神は参加しておらんぞ。休眠中のハーデスと半封印中のポセイドン様を差し置いてアテナのみ出席しては、色々と偏ろう」
「前回も会議後の交流会には顔を出していたようだが、会議自体には参加していない。議事録を読んでいないのか?」
クリシュナとバイアンの指摘にスキュラの海将軍は素直に頷いている。話題はそこから会議のシステムや狙いなどの横へと流れてゆき、それはいつもの雑談の1つとして、とくに誰の記憶に残ることもないままに終わったのだった。
だから、まさかポセイドンがそれを聞いていて、なおかつ悪戯心を起こすなどという事は、海将軍たちも予想だにしなかったのであった。
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双子が出てくるところまで書けてないのはヒュプノス様のせいです。
セラフィナのような清楚タイプはサガの好みだと思うんだ…(妄想)
それにしても、イベント販売や通販などで手元に届いた同人誌の山による充実しすぎの日々万歳!\(^▽^)/これがリア充ってヤツですね!(違)
そしていつもパチパチ有難う御座います(>▽<)夢の活力源です!
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「お前さえいなければ、わたしは神になれたのに」
射殺すような紅い瞳でサガが俺を睨んでくる。もっとも射抜くのはサジタリアスである俺の方の専売特許なんだけどね。
サガが本気の感情を向けるのは、対等以上であると認めた者のみだ。そう思うと、彼の怒りも麗らかな春のそよ風としか感じない。むしろ俺への思いなら、もっともっと口にして欲しい。でも、そんな事を言ったら余計怒らせてしまうのは判り切っているので、なるべく穏やかに優しく返事をする。
「俺には関係なく、サガには無理だと思うよ」
「何だと」
褒めたつもりなんだけど、サガの目つきがいっそう険しくなってしまった。
何でかなあ。そういうサガも可愛いけどさ。
それにしても、一体どうしてサガはそんなに神様になりたいのだろう。
「なあサガ。サガが神様になったら、カノンはどうするの」
「……」
あ。サガの奴、明らかに一瞬詰まったぞ。考えてなかったに違いない。
だいたい、13年前にカノンが水牢から居なくなったから、サガもそんな事を本気で考えるようになったんじゃないかな。だから、カノンが生きているとわかった今、色々と状況も感情も変わっていると思うんだ。
サガは暫く黙った後、ふてくされたように言った。
「二人で神になる」
「もっと無理だろ」
「そんなことはない」
ああもう可愛いったらない。
三流神とかでいいなら、確かに能力上はもう神様レベルにあると思うよ。異次元を自由に開けるような存在を人間と呼ぶのも、ホントはどうかと思うし。心がヒトなら人間なんていうような定義なら、ハーデスやポセイドンだって人間の範疇になってしまうだろうし。
でも、サガは優しいから、地上の守護は出来ても管理は無理だって。アテナもだけど基本、守護だけで管理はしてないよね。人間を信じて自治を任せてくださる。だから他の神様に怒られてる。管理をするのが神様だと思うんだ。アテナは俺の中では神様じゃなくて仲間。だから命をかけられるんだけど。サガだってそうじゃないのか?
守るだけなら人間のままでもいいだろう。俺と一緒に地上を守ろうよ。
「サガは神様に向いていないって」
褒めているのに、やっぱりサガは怒る。どうしてか俺の言葉はサガに伝わらない。それとも実は伝わった上で怒っているのだろうか。
「そんなに怒ったら、せっかくの美人が台無しだぞ」
そう言ったら、返事の代わりに必殺技が炸裂した。
サガは怒りっぽいのが玉に瑕だと思う。
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そして怒らせる。でも周囲からはイチャついているようにしか見えません。
以下、前々々々々回ブログの小話の選択肢編。
カノンは「デレデレ」を選んだ!