双子でおでかけ
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「カノン、明日は女神のお供で日本へ行くのだが…明後日がオフなのだ。確かお前も明後日は空いているだろう?」
朝の食卓で、サガはカノンへ紅茶をいれてやりながら尋ねた。
「ああ」
バターのたっぷり塗られたトーストを齧りながら、カノンが簡潔に応える。
「良ければ一緒に、日本観光しないか?」
「日本観光といっても幅広いぞ。お前の趣味に合わせると辛気臭い場所になりそうだが、どこへ行くのだ」
「実はまだ決めていない」
「珍しいな」
食べる手を止め、カノンはサガを見た。
「カノンの希望も聞こうと思って…それに、目的のある観光であれば、日本出身の星矢たちに案内を頼む」
「それも珍しいな、お前があの小僧を誘わないとは。オレは日本には詳しくないぞ?」
カノンがそう言うと、サガは緩やかに微笑んだ。
「毎回、年下の青銅に頼るわけにもいかんしな…それに、今回は日本に着いてから行き先を決めるくらいでも良いと思っているのだ」
「一体どうしたのだ。お前はどこへ行くにしても、事前の下調べと計画は欠かさなかったろう」
カノンはすっかり食事を忘れて目を丸くしている。
几帳面な兄が突然このような事を言い出したのは、また何かストレスでも溜まって、気分転換目的のヤケ旅行なのだろうかと、内心心配もしていた。
「ちゃんと、ガイドブックは持っていくぞ?」
「それだけか?」
「十分だろう…お前がいるしな」
カノンの心配をよそに、サガはにこにこと楽しそうだ。
「オレは日本に詳しくないと言ったろう。オレが居ても迷うときは迷うと思うが」
「そのときは二人で迷って、二人で行先を見つければいい。わたしはお前と、そういう旅をしたい」
カノンは目を丸くして、それからぼそりと『なら海界へ休暇を2日ほど余分に申請しておく』と、赤くなった顔をごまかすように横を向きながら応えた。
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サガもカノンと一緒に休暇延長申請しました。
まあでもガイドブックと地図があれば、能力上、空間把握能力の優れた双子は何とでもなりそうですよね(笑)いざとなれば異次元移動ですぐ目的地へ行けるんですが、敢えて迷って小道で見つけた駄菓子屋さんとか、変なお土産屋さんとかで二人の思い出を作ればいいですよ!
二人で一緒に歩くことが大事なのです。
今日もぱちぱち有難うございます!出勤前のエネルギー源です(>▽<)
サガからロスへのお祝い
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「えーと…」
自らの守護宮である人馬宮に遅い帰宅を果たしたアイオロスは、入り口の柱をくぐったところで立ち塞がっているジェミニを見て、どう反応したものか戸惑った。
ジェミニといっても、サガやカノンではない。中身のない抜け殻の双子座聖衣が人の形をとっているのだ。見るのは初めてだけれども、これは噂に聞く双子座聖衣の遠隔操作とやらだろう。
「サガ、だよね?」
そう尋ねたのは、こういう突飛な事をするのが、カノンではなくサガであろうという、失礼ながら正確な予測を立てたからだった。
案の定ジェミニは頷き、小さなカードを渡してくる。目を落すと流暢なサガの字で「誕生日おめでとう」と書かれていた。
「……」
無言になったアイオロスの前で、帽子を脱ぐようにジェミニはヘッドパーツを取った。頭のない空洞の聖衣が、ヘッドパーツの中に手を入れている。
サガには申し訳ないけれども、まるでマジックショーの出張公演のようだとアイオロスは思った。異次元空間を操る双子座なら、タネや仕掛けなどなくとも、トランプやハトを出し放題だろう。ジェミニはヘッドパーツの中から、リボンで結ばれた小さな箱を取り出した。差し出してきたので、アイオロスはそれも受け取った。
(なかなかにシュールな光景だなあ)
無言のままのアイオロスの前で、ジェミニはまたヘッドパーツに手を入れた。今度は何が出てくるのだろうと待っていると、小さな花束が現れた。派手ではないが、食卓に飾るのにちょうど良いような、温かみのある白の花束だ。
アイオロスは先ほどから笑い出したいのを必死で堪えていた。
こんなことをしているサガの心情を考えると、笑うのが悪いので、一生懸命抑えているのだ。
おそらくサガは、自分に合わせる顔がないだとか、皆が祝い終わった最後にひっそりと影ながら祝福できればいいのだとか、そんな風に考えているに違いない。
(真面目なサガが、公私を混同して聖衣を俺のお祝いのために使ってくれたというのは、その事だけでもプレゼントに値するよね)
しかし、笑い出したいほどおかしく、そして嬉しいアイオロスと違い、今頃サガはアイオロスを殺した晩を振り返りながら自分を卑下しているに違いないのだ。
花束を受け取りつつ、アイオロスはジェミニへにこりと笑った。
「なあ、その何でも出てくる異次元から、俺の1番ほしいものを出してくれるか?」
アイオロスの言葉を聞いて、ジェミニの動きが戸惑うように止まる。
サガなら多分、いま突然どんなものを要求しても、能力と才能を駆使しまくり、その物品を用意しようとしてくれるだろう。
待ち構えている様子のジェミニへ向かって、アイオロスはきっぱりと告げた。
「サガを出してくれ」
受け取った花束とリボン付きの箱を抱え、アイオロスはニコニコとジェミニの前で待っている。叶えないのは許さないよという意志は、その態度で伝わっているだろう。
サガがどうやって現れるのか、アイオロスはワクワクしながら動きの止まったジェミニを見つめた。
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メール返信が滞っていてすみません(>x<;)明日には…!
そしてぱちぱち有難う御座います!出勤前のカンフル剤です!
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獅子宮では、珍しくサガとシュラとアイオリアの三人が顔をつき合わせていた。
「意外と難しいものだな」
サガがが呟き、残りの二人も同意するように頷く。
「星座にちなんだ祝いをすると決めたのはいいが、半人半馬というのは非現実生物だからなあ」
と溜息をついたのはアイオリアで、
「食べ物に絡めることを諦めれば、他はそれなりに対処法があるのではないだろうか」
と返したのはシュラだ。
シュラとアイオリアは、それぞれの誕生日に山羊づくし・獅子づくしで祝われており、同じようにアイオロスをケンタウロス尽くしで祝おうと考えたのだった。山羊はチーズや乳から肉、そして毛皮とお役立ち生活品がおおく、獅子とてシシ肉(猪だが)やライオン関連グッズ、マーライオン見物旅行とそれなりに誤魔化しようがあった。
しかし、ケンタウロスの肉などどう誤魔化してもありえないし、関連商品は意外と少ない。
「人と馬を切り離せばよいのではないか?」
ぼそりとサガが呟く。
「どういう意味だ、サガ」
「馬は馬として食わせて、人は人として食わせれば…」
尋ねたアイオリアへ説明を始めたサガの口を、問答無用でシュラが塞いだ。
「貴方…いま統合しているだろう」
「しているが、それがどうした」
「誰を食わせるおつもりです」
「お前たち以外にあるまい。馬の上に人を乗せれば半人半馬だ。丁度良い」
「しかもほとんど黒サガ状態だろう!中身はともかく、アイオロスの肉体年齢は14歳だ!却下する!」
「…年齢以外には突っ込まないのか。しかし、そうなると同じ理由でケンタウロスにちなむ酒類も却下だな」
「レミーマルタンなど、シンボルマークがケンタウロスでぴったりなのですが…」
ぼそぼそ言い合っていた先輩黄金聖闘士の横から、アイオリアが口を挟む。
「ところどころシュラとサガが何を言っているのか良く判らんのだが…馬に人を乗せると言うのは乗馬体験をさせるということか?それなら兄さんは喜ぶかもしれない。身体を動かすのが好きだし」
真面目に意見を述べたアイオリアの純真な視線を受け、シュラと統合サガ(黒サガ率95%)は無言でそっと目を逸らした。
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どう考えてもアイオロスハーレム状態。
またメールを少し溜めていて申し訳ありません(>△<)少しずつ順番にお返事しております!
星矢誕生日おめでとう!(>▽<)
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双児宮の朝は早い。朝食作成をカノンに任せ、サガはソファーで本日必要な書類の最終チェックを行っていた。台所からは食欲をそそるスープの匂いが漂ってくる。
ふとサガは来訪者の気配を察知して顔をあげた。
それと同時に、元気な星矢の声が響き渡る。
「おはよーございまーす!入っていいかな」
「星矢」
まとめていた書類をバサリとテーブルへ置き、サガは嬉しそうに立ち上がった。『星矢>書類』の図があきらかだ。
「今からアテナのところへ行くのか?随分と早いな」
「沙織さんに呼ばれたのはもっと後なんだけど、その前にみんなに挨拶していけたらなって思って、少し早めに来たんだよ」
ムウやアルデバランのところも、簡単だけど挨拶をしてきたんだと星矢は笑う。
「急いでいないのなら、朝食を取っていかないか?カノンが今用意をしているのだ」
「えっ、いいのか?」
「勿論だ。アテナの用意する祝い膳には遠く及ばないが」
「あれ、知ってたの?」
きょとんとする星矢に、サガは花のほころぶような笑顔を向けた。
「今日はお前の生まれた日…なれば、アテナがお前を呼ぶ理由は1つしかあるまい」
そう言うと星矢は照れたように頭をかいた。
「大々的な生誕祭とかは断ったんだけどさ、そうしたら、じゃあ仲間内でのささやかなお祝いをしましょうって、沙織さんが」
大富豪の後継者として育った沙織の『ささやか』が、貸切ガーデンパーティーレベルのものであることを、まだ二人は知らなかった。
「それより、サガがオレの誕生日を知ってることに驚いた」
「わたしは、自分が任命した聖闘士の誕生日はすべて覚えている」
「凄いなあ。あ、じゃあ別にオレが特別ってわけじゃないのか。残念」
ちら、と悪戯っぽくサガを見上げた星矢へ、サガは慌てて付け足した。
「いや、お前は特別だ」
「ほんと?」
「本当だ。その、何も用意はしておらぬが…」
サガはすっと腰を落とし、星矢に視線を合わせた。
「双子座のサガより、ペガサスの星矢へ祝福を送る」
「え、ちょっと、サガ」
どこか慌てた様子の星矢の額へ、サガのキスが届こうとした寸前、
ゴ、と大きな音がして、サガの頭にカノンの拳骨が落ちた。
周囲に気の回っていなかったサガは、珍しく避ける事も出来ず頭を抑えている。
「な、何をするのだカノン!」
サガが抗議の視線を向けると、カノンは冷たい視線でそっけなく言い放った。
「それはこちらの台詞だっての。よくみろ、そいつはリュムナデスだ」
「ええっ?」
思わずサガは声を上げた。星矢の方をみれば、そこには既に星矢の姿はなく、素の姿であるカーサが多引き気味に立っている。
「な、何故カーサガここに…?」
「オレが呼んだ。今日の出張はこいつと一緒なのでな」
サガは赤くなって押し黙った。いつもならば、これほどあっけなく騙されることなどないのだが、今日が星矢の誕生日であることと、海将軍が聖域にいるわけがないという先入観が重なり、不覚をとったようだ。
「し、しかし彼はペガサスの誕生会の事を知っていたぞ」
「あ、それはオレが話したからなんだ!」
横合いから聞こえた星矢の声に、今度こそサガは光速で振り向いた。
「せ、星矢?本物の?」
どういう状況なのか目を白黒させているサガに、星矢が近付いてくる。
「カーサとそこで一緒になってさ。カーサがオレに化けるっていうから隠れていたんだけど」
「わたしをからかうつもりだったのか」
「ごめん!でも嬉しくって」
星矢はすまなそうに両手を目の前で合わせ、サガに謝る。
「だって、カーサは相手の大事な人間にしか化けられないっていうから…それだけでも嬉しいのに、オレの誕生日をサガが覚えててくれたなんて」
謝りながらも本当に嬉しそうな星矢の様子に、サガは真っ赤になって視線を逸らしている。
「あー、オレたちは先に朝食食ってるからなー」
呆れた様子を隠さずカーサと共に食卓へ向かったカノンを尻目に、星矢は『さっきのお祝い、ちゃんと欲しいな』とサガにねだった。
星矢はいろんな人にお祝いされるといいと思います。道すがら雑兵とかにも声をかけられるに違いない!
このあとはアテナと青銅仲間が昼間にお祝いしてくれて、夜は星華ねえさんと一緒に過ごすという王道です。昼間のパーティーのお土産のお菓子に、星華ねえさんの作ったご馳走(といっても庶民レベル)を食べながら、一日の出来事を星華に話す星矢。そんな時間が1番幸せですよね。
どの御本も愛情と時間が篭っていて、やはり同人誌はいいなあ…双子はいいなあ…聖闘士星矢はいいなあ…という想いを新たにしております。
聖闘士星矢で二次創作をして下さるすべての皆様に大感謝なのです!
それはさておきLC双子妄想。
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いつものように二人で異次元通路を抜けたあと、違和感を感じたデフテロスは、自分の手を見て声を失った。
いや、『自分の』というのは正確ではない。自分の肌はこんなに白くも綺麗でもない。無言のまま前を見ると、そこには見慣れた己の顔が、驚いたようにこちらを見ている。
自分の顔をしたその相手は、視線が合うと遠慮がちに、しかしはっきりと断言した。
「デフテロス…だな?」
「そういうお前は、アスプロスか」
どれだけ姿かたちが変わろうとも、互いを間違う自分たちではない。しかし、これには流石に驚く。どうやら身体が入れ替わってしまったようなのだ。
「天魅星のマーベラスルームで俺たちを構成する粒子が混ざったときの、後遺症かもしれん」
思い出したのか、アスプロスが歯軋りをする。
聖戦時、アスプロスに倒されたデフテロスは聖衣にやどり、デフテロスの意志を受け入れたアスプロスはその聖衣を纏った。二人でひとつの双子座となり、ハーデスに挑んだわけだが、そこで天魅星メフィストフェレス・杳馬の妨害を受け、彼の技により粒子レベルまで分解された上、異次元の小部屋へ放り込まれたのだ。
異次元操作は双子座の十八番でもあるとはいえ、初見のその攻撃は避けようもなく、2人は言葉どおり攻撃を受けたあとに「混ざった」。
そのせいで、魂が入れ替わりやすくなっているのでは…とアスプロスは推測したのだ。
デフテロスもそれに同意した。最初は驚いたものの、この入れ替わりにおいて、外部からの操作や影響は感じなかった。となると、何者かの介入や罠などではなく、偶発的な事故だろう。
それならば元に戻るのは簡単だ。いや、簡単ではないかもしれないが、混ざった粒子を再構築してマーベラスルームから脱出したあの時よりは手間はないはず。いざとなれば蟹座に頼んで魂だけ抜いてもらい、自分の身体に入りなおせばいいのだ。
緊急性がないと判ると、この状態を観察する余裕も出てくる。
「なるほど、これがお前の身体か」
好奇心からしげしげとデフテロスの肉体を点検しはじめたアスプロスだが、ふと、弟が静かになってしまったことに気づいて顔を上げた。
「どうしたのだ?デフテロス」
見ると、自分の顔をしたデフテロスが、真っ青になって固まっている。
「俺が…兄さんの身体に…」
「ああ。しかし、それほど心配せずともよさそうだぞ?」
実際、命に別状もなく、不安になる必要もなさそうなのだが、安心させようと顔を覗き込んだアスプロスに対して、デフテロスのほうは強く手を握って震えている。
どこか必死な様子の弟を見て、アスプロスは首をかしげた。
「俺の身体に入ったのが不快か?」
その問いに対しては、光速で横に振られた首で否と判る。
「まあ、心配しても仕方があるまい。風呂にでも入って眠れば、きっと明日にでも元に戻るさ」
「兄さんはオレを試しているのか!」
突然掴みかかるように言われて、アスプロスは目をぱちりとさせた。
「な、何だ突然」
「確かに俺は自我を2年間鍛えたが、自制心の方は自信がない」
「は?」
「兄さんは平気なのか!俺が兄さんの身体を洗うのだぞ!?」
「現状でそれは仕方のないことではないか?俺もお前の身体を洗うのだし」
アスプロスが答えたとたん、真っ青だったデフテロスの顔が、今度は真っ赤になった。
「…どうしたらいいのだ俺は」
「どうもせぬだろう。早速今から温泉へゆこう」
アスプロスはデフテロスの手を無理矢理引いて歩き出した。
(デフテロスの言動は時々良く判らんな。それにしても自分の顔がうろたえているのを見るのは奇妙な気分だ)
暢気にそんな事を考えているアスプロスは、自分の身体に迫っている危機には、微塵も気づいてはいないのだった。
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でも何だかんだ言ってちゃんと自制できるのがデフテロス。
アスデフとデフアス両方で妄想していいですか。←