新しいペンタブが思いのほか描きやすくてしやわせ…
早くデフちがアスぷに馬乗りになるところまでペン入れしたい。
それはさておき黒サガとカノン。
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そろそろ就寝しようかと、読んでいた本をカノンが閉じたところへ、サガが部屋へと入ってきた。おざなりのノックしかせず、是の返事をする前にもう扉を開けているところからして、確かめるまでも無く黒髪のサガのほうだ。
黒サガはそのまま寝台へと進み、所作だけは優雅に腰を下ろした。
「今日はここで寝かせてはくれぬか」
いつになく殊勝な言い回しで、しかし真っ直ぐにカノンを見つめてくる。
「構わんが、どうしたのだ急に」
「何かあったときは、一人で背負い込まず、自分を頼れとおまえが言っていたのを思い出してな…」
サガは自分の力をたのむあまり、いつも全てを抱えもうとする。ときには荷を分け合える弟がいることを思い出せと、夕飯の時に伝えたばかりだ。
「サガ…」
まさか、こちらのサガが自分の話を聞き入れてくれようとは思っておらず、カノンの語尾は僅かに緩む。何であれ、兄が自分をあてにしてくれたというのは嬉しい。
「聞いてよければ、一体何があったのだ」
仕事や人付き合いでこちらのサガがへこたれるとは思いにくい。叛逆時代の陰口を叩かれても、そよ風と受け流すのが彼だ。その兄が、夜半に弟の部屋を尋ねるほど窮する可能性は低い。
もしかしたら、カノンと仲良くしたいという目的のために、建前を蓑にして訪れてくれたのかもしれない…などという、淡い期待が生まれ、カノンの心はわずかだが浮き立つ。
闇のサガはそんなカノンの変化に気づいたのか、じっと見つめていた視線をふいと逸らした。
「…やはり帰る」
立ち上がったサガの腕を、カノンの手が慌てて追いかけ掴んだ。
「なんだよ、ここまで来ておいて」
「いや…やはり自分で片をつけるべきことなのかもしれん」
「だから、何があったのだ」
掴んだまま離そうとしないカノンの手を見て、サガはふ、と小さく息を零し、言葉すくなに応えを返した。
「黒い虫が出た」
しばしの無言のあと、カノンが怒鳴る。
「自分でなんとかしろ!!」
「どうにも素早くて、タンスの裏へ入ってしまったのだ。その後はどこへ消えたか…」
「小宇宙で察知しろよ!」
「超感覚で直接あれに触れろというのか!素手で触るようなものではないか」
「守護宮に侵入されたのはお前の落ち度だろう」
「それを言われると言い返せぬ。それゆえお前を頼ったのだ」
「掃除担当はお前だろ!いつもはどうしているんだよ!」
「もう一人のわたしは、『すまないな』などと言いながら丸めた雑誌で叩き、雑誌ごと捨てている」
「……」
時々、ロビーに置き捨ててあるカノンのグラビア誌が消えているのはそのせいか。
「今日だけだぞ」
そう言って乱暴に手を離すと、サガは満更嘘でもなさそうに『わたしは良い弟を持った』と笑った。
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カノンはそのあと殺虫剤の存在を教えてあげるよ!
今日もぱちぱち有難うございます!(>▽<)コメント御礼は次回にさせて下さいね!
無理やり18世紀ギリシア聖域に節分を持ち込む。
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「鬼を払う…だと?」
アスプロスの瞳がすうっと細められ、空色の瞳はコキュートスを思わせる蒼氷色へと変わった。常の者であれば、その視線だけで凍りつきそうなところなのだが、会話をしているレグルスはそれを流せる数少ない人間のひとりだ。
「テンマから聞いたんだ!セツブンというのは東洋の行事で、豆を撒いて鬼を追い払うんだって。ギリシアにも似たような風習があったよね。だから、十二宮でも撒いてみようと思って」
小さな麻袋を開き、中から炒り豆を取り出してみせると、アスプロスは首を振った。
「ほお…だが双児宮には必要ない」
「どうして」
「この双児宮で豆を撒きたければ、せめてお前も鬼と呼ばれてみろ」
「あらゆる意味で、言ってることが理解出来ないぞ」
二人が言い合っていると、騒ぎが聞こえたのか、奥の間からデフテロスが顔を出した。レグルスはデフテロスにも訴える。
「聞いてくれデフテロス。アスプロスが豆を撒かせてくれないんだ」
「撒けばよかろう」
即答をもらい、笑顔を向けたレグルスであったが、デフテロスの言葉はまだ続けられた。
「ただし、簡単に逃走する鬼ばかりだと思うな」
「ええっ?」
「異次元に飛ばされる覚悟があるのならば、撒くがいい」
双子の反応にハテナマークを浮かべていたレグルスであったが、「あ」と気づいて声を上げる。
「そっか、二人とも鬼兄弟だから?」
何の遠慮もなく感心したように言うレグルスへ、アスプロスが一瞬目を丸くしてから噴出し、いつもの穏やかさを取り戻した顔で肩をすくめる。
「俺はともかく、デフテロスが鬼だとは思っておらん。本物の鬼は、教皇宮に住んでいる奴や、かつてデフテロスを虐げた連中だろうよ」
「俺も兄さんが鬼だとは思っていない」
デフテロスが隣から口を挟む。
レグルスは二人の顔を交互にみてから、にこりと豆を皮袋に戻して口を閉じた。
「鬼はいないのか。なら豆は要らないな…鬼が来ても二人がいれば、それこそ逃げていきそうだし。あ、でも今日は豆を年齢分食べるといいんだって!」
レグルスが置いていった炒り豆は52粒で、双子は顔を見合わせ、それからほろ苦い笑みを浮かべた。
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復活後、いつもはカノン島に住んでる双子ですが、ちょっと双児宮に里帰りしました。豆は25粒+27粒です。
今日もぱちぱち有難うございます!元気の素です。
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スターヒルと呼ばれる山嶺へ登るためには、ほぼ垂直の岩肌の傾斜を乗り越えて行かねばならない。そのことが天然の防御壁となり、この聖地を守っている。
だが、わたしの前では何の障害にもならない。老いた教皇ですら登頂が可能なのに、黄金聖闘士のなかで最も力のあるわたしが登れぬはずはない。
空気は薄く、ぼんやりと霞のかかったような空が見える。どこかで見たような景色だが、そもそも聖域はどこも似たような、代わり映えのない風景なのだ。
人も景色も歴史も繰り返し、女神が降臨すれば聖戦がはじまる。その度に人が大量に死ぬ。にもかかわらず、先だって降臨した女神は赤子であった。こんなことで大丈夫なのか。教皇も老い、その後継者として選ばれたのは、わたしではなく射手座のアイオロス。彼は素晴らしい聖闘士だが、わたしとて負けているとは思わない。どうしてわたしではなく彼なのだ。
心のなかで『こんなことをすべきではない』と、強く諌める声がする。同時に『なぜ選ばれなかったのか知りたいだろう?』と唆す声もある。わたしのなかではいつでも相反する声が争っているが、いつでも正しいと思う声に従ってきた。それでも今回だけは、わたしも知りたい。聞く権利くらいあるはずだ。
「なぜ私が次期教皇ではではないのですか」
しかし事態は思わぬ方向へ向かった。教皇が、わたしのなかの闇を見抜いていたのだ。
そのことを指摘された途端、わたしは闇の意思を抑えきれなくなり、手刀で教皇の胸を貫いた。教皇は反撃する素振りすらなくその場に崩れ落ちる。
どうしたらいいのだ。わたしは呆然とした。こんなことをしたかったわけではない。いやこうなってしまった以上、それはただの言い訳か。取り返しのつかぬ凶害を行いながら、わたしは笑っていた。笑いながら教皇の法衣を剥ぎ取り、それを己のものであるかのように身に纏った。風が強く吹いている。
それ以来ジェミニの聖闘士は消え、わたしが教皇として聖域を治めることになった。
わたしのなかの闇は赤子の女神をも排除しようとしたが、アイオロスが現れて女神を庇い、共に逃げたため凶刃を逃れた。彼こそが本当の勇者であったことを、はからずもわたしは理解することになる。
結局彼は汚名を着せられたまま殺され、聖域は女神も真の教皇も不在のままに時が過ぎていく。聖域は何も変わらない。神聖なるアテナは神殿の奥で美しく成長しておられるという事になっているし、教皇の地位にはわたしがいる。
教皇となったわたしには、当然のことながら教皇としての勤めも課せられる。聖戦の迫る昨今において、星見はその中でも重要な職務のひとつだ。スターヒルと呼ばれる山嶺へ登るためには、切り立った岩肌を乗り越えて行かねばならないが、この聖域で最も力のあるわたしが登れぬはずがない。
空気は薄く、天上は近いはずであるのに、どこか靄のかかった星空が見える。何度も星を占ううちに、すっかり見慣れた景色となってしまった。夜空には凶星がまたたき、聖戦の近いことを知らせている。戦をひかえ聖域には殆どの聖闘士が集まってきた。黄金聖闘士もそうだ。聖域の召集に応じぬライブラやアリエス以外の十二星座も埋まりつつある。
ふと人の気配がして振り向いた。教皇以外立ち入りを許されぬこの地に、禁を犯して誰か登ってきたのだ。いや、その男をわたしは知っている。彼は先日突然やってきてカノンを名乗り、それだけれはなく双子座の地位を要求した。わたしは動揺したが、カノンはスニオン岬の水牢で死んだはずだから、わたしの弟であるはずがない。彼は跪きながらも慇懃無礼にわたしに問う。
「なぜオレが次期双子座ではないのですか」
そう、わたしは彼の要求を退けた。双子座聖衣はわたしのものだから譲るわけにはいかないし、もしも万が一彼がカノンだとしても、カノンは悪だ。お前の中には闇があると指摘をすると、彼はわたしの仮面に手をかけようと襲い掛かってきた。双子座だけでなく教皇の地位まで狙っていたのに違いない。
彼の行動を予測していたわたしは、躊躇せず彼に幻朧魔皇拳を放った。心のなかで『こんなことをすべきではない』と、強く諌める声がする。だが、実力ある相手を無闇に殺すことはない。願いが叶ったと思い込ませ、意思を奪って働かせればいい。聖戦において、有能な戦士はひとりでも多い方がいいのだ。
彼は魔拳のちからで教皇になったと思い込むだろう。全ての聖闘士を率いて、聖域を治める毎日を夢見るだろう。教皇となって執務をおこない、聖戦にそなえるだろう。
夢に冒された世界の中で、スターヒルへ登って見上げる星空は、彼にどんな未来を占わせるだろうか。
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書いてみたら、前進する反復とループは決定的に違いました。
ところでアスデフとデフアスに本格的に飢え始めました(>ω<)
とりあえず、LC双子と現代双子とND双子がそろった場合、多分ヒエラルキーの一番下にくるのがアベル君だと思います(現状)。兄上がどんなお方なのか楽しみで仕方がない今日この頃です。
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「冥界軍ってさ、毎回聖域の聖闘士にちょっかい出して裏切らせるのが作戦方針だったのか?」
カイーナの執務室のソファーへ我が物顔で寝そべっているカノンが、紅茶を入れてきたラダマンティスへ話しかけた。手にあるのは冥界側が記録したと思われる歴代聖域軍の資料だ。当代における各聖闘士の特徴や性格、ランク付けや周辺情報などが記されている。スパイ役として見込みのありそうなものには積極的に働きかけ、なかには三巨頭待遇で向かえ入れた者までいたようだ。
「勝手に人の部屋の極秘資料を読み漁るな」
「本当に極秘なら、オレが来るこの部屋に置いておかないだろ」
叱られてもカノンはどこ吹く顔だ。ラダマンティスも釘を刺した程度で、ティーサーバーとカップをカノンの前へ置き、向かいのソファーへ腰を下ろす。
カノンはラダマンティスに紅茶の蒸らし時間を確認すると、さっそく自分とラダマンティスのカップへ紅茶を注いだ。上質の茶葉の香りが漂うなか、カノンがどこか楽しそうに話す。
「なあ、前聖戦のガルーダは聖闘士からのスカウトだったんだよな」
「ああ…俺はそういう方針には反対なのだがな。利に釣られて自軍を裏切るような者は、同じように利でハーデス様を裏切るだろうし、そうでない者はなおさら最後には裏切る」
ラダマンティスはため息をついた。此度の聖戦でもパンドラは黄金聖闘士を走狗に仕立て上げようとした。いま振り返れば、それが最大の采配ミスであったのだ。カノンとて『戦で手段を選ばぬのは当然』と澄ましているが、彼の兄であるサガに冥衣を着せたことへの怒りは、未だに根深く残っているのをラダマンティスは知っている。
しかし、カノンの話は思わぬ方向へ向かった。
「オレはよくスカウトされなかったものだ。ま、双子座に弟がいるなど、聖域の人間にも知られていなかったが」
冥界の諜報力もまだまだだなと、カノンはにやりとラダマンティスを見た。
「そ…れは確かに、聖域での待遇に不満をもち、黄金聖闘士と同等以上の知識と力を持つものがあぶれているとなれば、声をかけていてもおかしくはない」
「だろ?当時のオレなら最低でも三巨頭待遇は要求したろうがな」
「…………」
「何だ、その物凄く微妙な顔は」
「いや微妙だろう…ガルーダのカノン…グリフォンのカノン…どちらも想像つかん」
「オレが同僚になっていたかもしれないのに、嬉しくないのか」
冗談ぽく笑っているカノンへ、ラダマンティスは真面目に頷いた。
「嬉しくない。…お前とは全力で戦いあいたいのだ」
カノンは目を丸くして、それから笑い出した。敵対したいと言われたにも関わらず、その笑みはくすぐったいような、柔らかな暖かさが含まれていた。
「別に同僚同士で戦いあってもいいだろう。聖域みたいに」
「一緒にするな!お前のそのフリーダムな考え方が理解できん!」
「なあなあ、オレにはアイアコスとミーノスのと、どっちの冥衣が似合うと思う?」
ラダマンティスはカップを手に取り、乱暴に紅茶を飲んだ。
一息ついたあと、冷静な口調で一矢報いる。
「同じ問いを先にサガにしてきたら、オレも答えてやる」
「………」
そんな命知らずな真似が出来るかと、カノンはまだ暖かい紅茶を一気に飲み干した。
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どっちの冥衣が似合うか実際に描いてみようと思って力尽きました。
なにげに翼竜の冥衣だけはラダのものだと確定していて他は想像もしていないカノンです。
ラダとカノンが同僚で敵側にいたら手ごわいだろうなあ…でも当時のカノンのことだから冥界でも自分が実権を握ろうとして裏で悪どいことしないかな。パンドラに重宝されるものの、やっぱりラダには「あいつはどこか信用できん」って警戒されるという。あれ、味方なのにやっぱり対立関係に…?
LC双子とカノン&サガ同居設定での前編
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教皇宮での仕事を終えて双児宮へ戻ってきたサガは、居住区エリアのリビングへ足を踏み入れたとたん、目を大きく見開いて立ち止まった。
リビングには大きめのソファーと、セットになった脚の低いテーブルが中央に置いてある。
そのソファーを、カノンとアスプロスが陣取っていたのだ。
それだけならば特に驚くには当たらないのだが、我が物顔で横たわる先代双子座アスプロスは、カノンの膝に頭を乗せていた。カノンはアスプロスの髪を撫で、時折ドライフルーツを摘んでは口元へ運んでやっている。アスプロスはパラパラと雑誌をめくっては流し読み、注意を引く記事があると指をとめてゆっくり目を通している。
表紙を見ると自然科学関連の雑誌のようだ。
「喉が渇いた」
雑誌に目を落としたままアスプロスが言うと、カノンが応じる。
「何が飲みたい?」
「珈琲を。酸味の強い奴がいい」
「ではキリマンジャロで」
淀みなく会話が交わされ、カノンはそっとアスプロスの頭を下ろし台所へ去っていく。
サガはまだ入り口に唖然と立ったままである。
「帰宅早々、何を呆けている」
ようやくアスプロスがサガへと声を掛けた。
「カノンが…」
「ああ、お前の弟を借りているぞ」
堂々と言われると、自分が何にそこまで驚いたのか判らなくなり、サガは口ごもった。
カノンが他人に膝を貸すなど、サガの中では天と地がひっくり返ってもありえないという印象だったのだが、それは単なる思い込みであったのかもしれない。
同居人と仲がいいのは良いことだし、親密すぎるように見えたのも…知らないところで二人が仲良くなっていたことに驚いただけだと、サガは自分を落ちつかせる。
そうしているうちに、珈琲の香りが漂ってきた。カノンの淹れた珈琲はとても美味しい。中挽きの珈琲豆をペーパードリップに入れて、むらなく均等に熱湯を注ぐ、その加減が上手いのだ。
すぐにカノンは珈琲カップを手にして戻ってきた。来客用にしまってあった、ウェッジウッドのセレスティアルゴールドだ。カノンはそのカップをアスプロスの前へ置き、再びソファーへと腰を下ろす。
サガは目を瞬いた。
(カノンが、アスプロスの珈琲しか…わたしの分を持ってこなかった)
別に自分は珈琲が飲みたいわけではない。ただ、いつもであれば、飲み物を用意するときには、モノのついでだと素っ気無く言いながらも、サガの分を一緒に用意してくれたのだ。
考えてみると、カノンはいつも仕事から帰ったサガには「おかえり」と声をかけてくれるし、夜食をどうするか聞いてくれる。
それなのに、今夜のカノンはサガよりもアスプロスを優先しているように見える。
その事に気づいたサガは、自分が思った以上にムっとしたことに驚いた。
サガの心情になどお構いなく、アスプロスは珈琲に口をつけ『まあまあだな』などと評している。アスプロスがカノンの肩に腕を回して引き寄せ、寄りかかるためのクッション代わりにているのを見て、サガの視線は無意識に非難がましいものになっていた。
サガの視線がカノンに向けられると、それまでサガを気にも留めていないように見えていたカノンの表情が、少しだけ動く。
「サガ…」
何かを言いたそうにしているのだが、その後の言葉が続かない。
微妙な空気が流れているところへ、今度はデフテロスが帰ってきた。
「………」
やはりサガと同じように入り口で立ち止まり、アスプロスを見ている。
アスプロスは、デフテロスに対しては親密そうに声をかけた。
「おかえり。お前にも飲み物を用意させようか?」
「……いらん」
しかし、珍しくデフテロスは兄の申し出を断った。いつも兄の言うことならば、何でも喜んで受け入れている彼にしては珍しい対応だった。どこか(これも非常に珍しいことに)声のトーンが冷たいようにも聞こえる。
サガが会話に割り込んだ。
「待たないか。『用意をさせる』とはどういうことだ。カノンにさせるつもりか」
「お前の弟のほうが、俺よりは美味い飲み物を用意出来るからな」
「そういう問題ではない!カノンは小間使いではないのだ、自分で淹れれば良かろう!」
サガとアスプロスが言い合っている間に、デフテロスはその横をすり抜けて台所へ向かった。そのまま台所で何かをしていると思ったら、ハーブティーの入ったカップを3つ銀盆へ乗せて戻ってくる。
デフテロスはそれを黙ったまま、サガとカノンと自分の前に置いた。
「飲むといい」
「…あ、ありがとう」
サガは礼を言い、とりあえずそのカップを手に取る。アスプロスがショックを受けたような顔をしていたが、お互い様だとサガは思った。ハーブティーはレモンバームとミントのブレンドで、気の立ちかけていたサガの心を緩やかに溶かしていく。
落ち着いてくると、カノンが何故アスプロスの言うことを聞いているのか疑念がわく。カノンは良くも悪くも簡単に他人の言うことを聞くような性格ではない。
横で、ぼそりとデフテロスが呟いた。
「兄さんは、身の回りの世話をするのが俺でなくても、いいのだな」
ただでさえ微妙な空気であったその部屋の温度が、一気に氷点下まで下がった。
火の気質を持ち、溶岩まで操るデフテロスが作り出す氷点下の空気は、滅多にないことだけに重く、俺様なアスプロスも多少慌てているのが判る。
「そのような事はない。今日はお前が出かけていたゆえ、些事はこの者にさせようと思って」
「カノンの淹れた珈琲のほうが美味そうだしな」
「い、いや、俺はお前のハーブティーの方が…デフテロス、いったい何を怒っているのだ」
「怒ってなどおらん」
そう言いながら、デフテロスはアスプロスと視線を合わせようとしない。立ったまま、自分の淹れてきたハーブティーを一気に飲み干している。アスプロスのほうは弟の機嫌をとるようにそれを見上げた。
「カノンに幻朧魔皇拳をかけたことが気に食わなかったのか?」
「なんだと!!!!?」
とんでもない台詞を聞いて、それにはサガの方が反応した。
「今なんと言った」
「煩いな、先ほど言ったろう。雑用をさせようと思ったのだが『ものを頼むときには頭を下げろ』などと撥ね付けられたのだ。面倒ゆえ意思を奪った」
「貴様、そんな下らぬことでわたしのカノンに…」
ガタンとサガが立ち上がる。ハーブティーで凪いだ気持ちなどいっぺんに吹き飛び、震えるほどの怒りがマグマのように煮えたぎる。その場で殴りつけなかったのは私闘禁止の掟が科せられているからで、しかし、そんな抑制などすぐに弾けとびそうな状態であった。
幻朧魔皇拳は、技をかけた者以外が解除しようとする場合、誰かが目の前で死なねばならない。サガは奥義の習得者であるものの、それでも強引にカノンの洗脳を解くのは危険であった。下手をするとカノンの精神に傷が付くことがあるからだ。
「今すぐカノンの洗脳を解け」
低く宣告するサガへ同調するように、デフテロスが冷たく言い放つ。
「俺は部屋へ戻らせてもらう」
「ま、まてデフテロス。カノンは自由にするから」
アスプロスがカノンの額に指をあて、幻朧魔皇拳を解除するも時は遅く、デフテロスはさっさと自室の方へと去っていってしまった。
その場には髪の色を黒くさせかけているサガと、まだ頭を振って意識を落ち着かせようとしているカノン、そしてデフテロスの去った方向をびっくりした様子で見送っているアスプロスが残されたのだった。
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今日は声が出なくて大変でした(>ω<;)しかして早く寝ようと思っていたのにうっかり夜更かしを…夜更かしをしたくせにやっぱり眠くてご返信は明日でもいいでしょうかとか駄目すぎる…すみません(汗)