===============================
折角任務帰りに双児宮へ立ち寄ったというのに、サガが窓際に飾られたミニツリーを見て溜息なぞ付いているものだから、アイオロスは気になって話しかけた。
「どうしたのだサガ。何か気になる事でも?」
そのミニツリーはサガが飾り付けをしたそうで、みるからに冥界仕様だ。
例の二流神がらみかとアイオロスは妬きかけたが、サガはまるきり違う事を考えていた。
「クリスマスは、神が人として産まれて来た事を祝う日だという」
「そうだな」
「女神もまた赤子として降臨した」
「うん」
目の前でサガが唇を噛みしめる。
「私のした行為は、東方の三博士・メルキオールがヨセフを殺し、産まれたばかりの幼子をも殺害せんと目論んだ上、庇って逃げたマリアに追討の命を出したようなものだと思ってな…」
サガは真剣だったが、アイオロスは飲んでいたギリシア珈琲を思いっきり吹き零した。
「す、凄い喩えだね…しかも俺がマリアさま役…?」
「どうしてマリアはメルキオールを殺さなかったのだ」
「それは絶対ありえないぞ…ていうかその喩えはどうかな」
布巾で珈琲を拭きとりつつ、アイオロスは苦笑する。
「マリアさまも神の導きで集った仲間を手にかけたくないだろうし、その事を除いたって、神の御子が産まれたその祝福を、血で汚したくないと思う」
「自分が死んでしまうのに」
「自分が死んでもだよ」
テーブルを拭き終わったアイオロスは、布巾を畳んで端へ置いた。
そして、サガへと顔を近づける。
「今宵は聖夜だ。オレにも祝福を授けてくれませんか、メルキオール様」
「マリアが博士と浮気して良いのか」
「…祝福は浮気の内に入りません。でも、やっぱ今の喩えは取り消す」
アイオロスは首を僅かにかしげ、目を細めた。
「『双子座のサガ』から『射手座の俺』に、愛の篭った祝福をくれ」
「…」
勝手な喩えに出された面々へ内心で謝りつつ、アイオロスは目を閉ざした。
サガは黙ったままじっと見つめていたが、両手を差し出してアイオロスの頭を掴み、その額へ乱暴な口づけを落とす。
泣きそうな顔をしている友人の顔を、アイオをスは目を瞑ったまま見ない振りをした。
===============================
ぱちぱち有難う御座います(>▽<)拍手返信は帰社後にさせて下さい!
元気の元になっております。
別の友達が贈ってくれたLupiciaのクリスマス紅茶で頂きました。幸せ…
以下クリスマスなシュラと黒サガ
===============================
「昔、アフロディーテに聞いたことがある」
黒髪のサガが、ソファーへ横たわったまま優雅な声でシュラへ話しかけた。
ここは麿羯宮。守護者はシュラであるにもかかわらず、彼を差し置いてソファーを占有する黒サガは、すっかりこの部屋を私物化していた。
「あれの故郷スウェーデンでは、かつてクリスマスにプレゼントを運んでくるのはサンタクロースでなく、雄山羊だったという」
シュラの方は向かいの粗末な木椅子に腰掛けている。
「ああ、トール神の戦車を引く山羊に由来したとか…詳しくは知りませんが、俺も聞いたことがあります」
指を組んでいるシュラを見上げて、黒サガが目を細めた。
「私も、スウェーデン方式を希望する」
黒サガにしては、随分と直接的な言い回しだった。
しかし、ただでさえ真面目で無骨なシュラにはあまり通じていなかった。
「サンタであろうが山羊であろうが、プレゼントを貰えるのは子供だけですよ」
「……」
シュラの返答に暫し黒サガは黙ると、そのあと長い溜息を零してソファーの上で寝返りをうつ。そうするとシュラの側からは背中しか見えなくなった。
(何か間違ったろうか)
シュラは慌てて黒サガとの会話を脳内でリプレイした。
「すみません、貴方がそんなにも動物からのプレゼントを楽しみにしているとは思わず」
「………プレゼントなど別に必要ない」
背中しか見えないにも関わらず、黒サガがもう一度盛大な溜息をついたのが判った。今度の溜息には呆れの感情が多分に含まれていたような気がする。
シュラはますます焦った。
「山羊が好きだったんですか?なんならロドリオ村から借りてきましょうか」
「……………シュラよ、お前の星座は何だ」
「えっ?」
「クリスマスに私の元を訪れるのは、お前であれば良いのにと言ったのだ。この馬鹿山羊め!」
「ええええええええ?」
そこまで言われて、ようやく発言の意図に思い至るも、時すでに遅し。
「もうよい。山羊の代わりにプレゼントを用意してもらおうか」
すっかり拗ねているらしき先輩黄金聖闘士を前にして、シュラはどうしてよいのか全く判らず途方にくれる事となった。
===============================
北欧の山羊関連のオーナメントや、藁で作られた山羊の人形の写真をいくつかネット上で拝見したのですが、とても可愛かったです。
===============================
「お前さあ…そいつをあの二流神のところへ持っていくつもりか」
盛大な呆れの色を隠さぬまま、カノンはリビングにいるサガに声をかけた。
ミニツリーの飾り付けをしていたサガが、びくりと固まる。
「な、何故判ったのだ」
「何故もなにも…ツリー先端の星が銀色な上、金の星のオーナメントがあるかと思えば六芒星だしな…」
珍しくサガが異教の行事アイテムを買って来たかと思えば、こともあろうに冥界へそれを持ち込む気でいると判り、カノンは大仰に溜息をつく。
「タナトスにケンカ売るのか?それ使って」
「そんな訳がなかろう!」
「しかし、復活・異教神・聖誕祭・常緑樹・元太陽神崇拝…クリスマスのキーワードのどれをとっても死の神が嫌がりそうなものしかねえだろ」
「うっ…そ、それは少しだけ、そう思ったけれども…」
「神仲間とはいえ、全然関係の無い神の誕生日アイテムなんざ、持ち込まれた方だって困るぞ」
「神同士、関係あるかもしれないだろう!」
「…お前、タナトスとハリストスが友達だと思うか」
「………思わん」
「そうだろ」
ションボリしたサガを尻目に、カノンはそのツリーを窓際へおいた。
「ま、ここ双児宮に置く分には問題ないんじゃねえの?」
「女神もハリストスと友達ではないと思うが…」
「まだ目指すところは近いさ」
カノンは笑って、『それに』と付け加える。
「聖夜に家族を放って冥府なんぞへ降りるなよ」
サガは目を丸くした。
「お前…ラダマンティスはどうするのだ」
「ここに呼びつける。前に話さなかったか?」
不思議そうに問うカノンの前で、サガの歯切れは悪い。
「ああ、聞いた…その…私が居ては邪魔だろう」
言ったとたんに、カノンの拳骨が振り下ろされた。
「サガ、お前もしかして、そのために無理矢理な予定を作ろうとしたな!」
「痛いぞ、カノン」
サガが涙目で頭を抑え、カノンは自分の予測が正しい事を知る。
「いちゃつくために呼ぶんじゃねえよ。オレにとってはお前と暮らす場所がホームだ。それを聖夜にあいつへ見せたかっただけで…全く」
カノンは先ほどとは異なる溜息を大きく零して、サガの髪をわしゃわしゃとかき回した。
===============================
今日もぱちぱち有難う御座います。日々の糧です(>▽<)
この後は素敵サイト様リンク作業予定!ね、寝ないぞ…!
拙宅からもリンクさせて頂いているMONDO 様のところで「デートメーカー」によるサガと各お相手のデートスケジュールを作成していらっしゃいましたが、その内容に爆笑が止まりません。個人的にタナサガデートパターンでの、サガがデートの一部始終を盗撮していて、そのせいでサヨナラされるオチがツボです。サガの事だから記念に撮っておきたかったんですよきっと。
一緒に見た映画のセレクトがスリラー映画なのも、血の好きなタナトスの嗜好に合わせたからに違いない。最初はスプラッタB級映画にされそうなところを、サガが反対して妥協の末のスリラー映画だったりするとなお良いです。
===============================
「久方ぶりのデートだというのに、何が不満なのだ」
珍しく己の言葉へ難色を見せたサガに、タナトスは首を傾げた。
地上で映画を見ると言い出したタナトスに喜んでついてきたサガだというのに、映画名を知った途端に態度が変わったのだ。映画館はもう目の前であるにも関わらず。
サガは本質的に神を神とも思わぬところがあるが、普段は決してタナトスの意思に逆らうような発言はしない(女神と地上の平和関連以外でという限定付きで)。
そのため、理由が全く判らず意向をただしてみたというわけだ。
「デ…デートだからだ!何故2時間も、ただ人が死んでいくだけのスプラッタ映画を見なければならないのだ!」
サガの言い分は尤もであったが、タナトスには通じない。
「人間の文化などどれも低俗だが、見てみると結構面白いものだぞ。死に方にもバリエーションがあって」
死の神タナトスにとって死は単なる現象だ。今まで数多の人間の命を消してきたものの、それは命の終焉にすぎず、それを娯楽に絡めたB級映画での派手な血飛沫や言動が新鮮であったらしい。
しかしサガの方も引かなかった。
目に付いた本屋へタナトスの手を引いて飛び込み、そこで探し出した一冊の絵本をタナトスに手渡す。それはうさぎが様々な自殺バリエーションを実行する『自殺うさぎの本』。
「今日はこれで我慢してくれ」
「………」
「映画の選択肢は、スリラーまでなら妥協する」
「………」
恐怖映画とスリラーは全くジャンルが違うのだが、サガにあまり区別はついていない。仕方なくタナトスは絵本を小脇に映画を変更することになった。
けれども、スリラーはスリラーで派手な暴力シーンが多く、意外と満足したタナトスなのだった。
===============================
折角なのでデートメーカーで双子神結果
原作を読むとヒュプノスが「短慮なタナトスとは訳が違うぞ」「死は全てを無にするが眠りは何者をも破壊しない」「乱暴な死というものは好まぬのだが…」「おまえは命というものを軽はずみに消しすぎる」などと言っていて、とってもドライで、何気なく見下し感溢れているのが泣けます。
タナトス側はヒュプノスに対して「おまえと私の二人がいればすべては事足りるのだ」と言ってくれるのに。
タナトスが最初「私」という一人称で話しているのに、ヒュプノスとの会話の途中から「オレ」に変わるところがたまらない。サガが唯一カノンの前で「オレ」と言ったのと同じ現象ですか。兄弟の前だと気が緩みますよね。
今日こそは月曜日!そして忘年会!また食いすぎる予感…
===============================
向かい合わせに二人で座るデスマスクとカノンの前には、それぞれスープ皿が置かれている。中にはよそいたての野菜スープが、温かそうに湯気をたてていた。
デスマスクが呟いた。
「思うにサガは、一生懸命やりすぎるんじゃねえの?」
「一生懸命なのは良いことだろう」
「無意識に渾身の小宇宙を篭めすぎて、食材が化学反応を起こすのではないかと思っているんだが…」
「人の兄の料理に文句つけるなら食うな」
そう言ってカノンはスプーンをスープ皿に突っ込んでいる。
普通にそれを口へ運んだカノンの男気に、デスマスクは感心した。
「毎日食ってるのか、サガの料理」
「毎日ではないな。オレが作ることもあるし、従者が用意する事もある。サガも忙しいし、こうして手作りで朝食を揃えてくれる日というのは、なかなか貴重なのだ」
「だから尚更サガが一生懸命やりすぎるわけだな」
「黙って食えよ」
そんなやりとりをしていると、サガが台所の方から焼きたてのパン(らしき焦げたもの)を小皿に積み上げて持ってきた。テーブルへそれを置くと、神妙な顔でカノンに尋ねている。
「味はどうだろうか」
「まあまあだ」
そっけなく答える双子の弟へ、それでもサガは嬉しそうに「お代わりもあるぞ」などと告げている。
デスマスクは自分も一口スープを飲んでみて、カノンの愛の深さを痺れた舌先で実感することになった。
===============================
そんなサガの手料理をわざわざたまに食いにくるデスマスクも、何だかんだでサガ好きです。いつもぱちぱちありがとうございます(^▽^)創作意欲の源です。