なんてことはない聖戦前のいちシーン
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「という訳で、我らは冥闘士のフリをして聖域へ乗り込むゆえ心せよ」
18歳の姿で一同をまとめるシオンは、無駄に元気だ。
遠慮がちにカミュが手を上げる。
「しかし、聖域には残りの黄金聖闘士が揃っております。我らの行く手を阻むかと…」
「フ…カミュよ。我らは何人いる?」
「シオン様、サガ、シュラ、デスマスク、アフロディーテ、私の6人です」
「聖域側の黄金聖闘士は?」
「ムウ、アルデバラン、シャカ、アイオリア、老師、ミロの6人です」
「じじいの童虎は我らに相対するほどの力はあるまい。手こずるかもしれんが、戦力から外しても構わんだろう。我が弟子のムウは儂が対処するとして残り4名。一人に対して一人が千日戦争で足止めをすれば、残りの者が女神のところへ辿りつくのは楽勝じゃな」
サガが眉間に縦じわを作る。
「シオン様、どんぶり勘定で勝算を誤魔化すのは止めていただきたい」
「…なんじゃ、女神の元までゆける可能性はゼロに等しいなどと、本当の事を言ってやる気を削いでも始まらんだろう」
「聖域は難攻不落の地、それは我らが一番良く判っております。今更そのようなことで士気の落ちる者はおりません」
「相変わらず真面目だの、お前は」
サガに軽く睨まれるも、素知らぬ顔で流してシオンは静かに笑った。
「計算などしても仕方がない。我らは何があっても女神の元まで辿りつく、それだけだ」
シオンの言葉に感動している素直なカミュとシュラを横目に、デスマスクが突っ込む。
「そのお嬢さんの元へ行くために策が必要なんでしょうが。じーさんの事だから何か考えてあるんだよな?」
「シオン様と呼ばんか」
一言の下に殴られ、デスマスクの頭にはタンコブが増えている。
アフロディーテが呆れた顔をしつつも、その頭へヒーリングをしてやった。
シオンは何事もなかったかのようにその光景も無視して宣ずる。
「策ならば考えておるぞ。…サガがな」
一同は真剣な顔となりかけるも、付け足された語尾に遠い目となる。
指名されたサガは最も遠い目をしていたが、直ぐに真剣な面差しとなって黙り込んだ。
「どうじゃサガ、お主の思うところを述べてみよ」
シオンに促され、サガは重い口を開く。
「……計算なしの強行突破となろうかと」
「そうであろう?」
恐らくは冥界軍の監視もつき、対黄金聖闘士戦では何が起こるか判らない。互いの隠し奥義など、当たってみなければ知る由もないのだ。不確定要素の多いなか、綿密な計画を立ててしまうと逆にそれに縛られかねない。
デスマスクの傷を治したアフロディーテが、淡々とした口調で述べた。
「では、女神の下へと辿りつく事を第一の目的とし、脱落したものは冥界に戻り一人でも冥闘士を倒して露払いとする。それでいいのですね」
一同は頷く。
そして魂は光となり、聖域の墓場に眠る己の肉体を目指して飛び立っていったのだった。
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シオン達にしてみれば、童虎の脱皮とカノンの存在は計算外ですよね。
タナトス様(マイス)が届きました!わーい。まだ開封はしておりませんが、早速サガの箱の上に置きました。今日は七夕です。
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「のうサガ、星が綺麗であろう」
「…はあ」
夜分に突然シオンが双児宮を訪れ、暫し付き合えというのでどこへ行くのかと思えば、やってきたのはスターヒル。
月と満天の星明りのみがこの地を照らし、街灯りも聖域の最奥までは届かない。遠くにちらちらと松明らしき火が動いて見えるのは、夜勤番の者たちだろう。
ギリシアの日の入りは遅く、なかなか暗くならない事を思えば、もう随分と夜もふけた時刻の筈だった。
星空を見上げていたシオンが、手にしていた皮袋から酒瓶を取り出した。
「星見酒も良いものだとは思わんか」
「…風流ですね」
先ほどからサガが気の抜けたような返事しかしていないのは、自省に沈んでいるためだった。サガにしてみればスターヒルは13年間の悪夢の始まりの地であり、シオンを殺した己の罪を強く思い起こさせる場所であった。
「もっと喜ばんか。この地には童虎ですら足を踏み入れさせたことはないのだぞ」
教皇以外、立ち入ることの許されぬ聖なる場所なのだから当然だ。禁を破った過去を思い返し、ますますサガは落ち込んでいる。
そんなサガへ、シオンは用意してきたらしい杯を投げて寄越す。落とさぬように慌ててサガが受け取ると、シオンは早速その杯へと酒を注いだ。そのあとに自分の杯へも手酌で酒を満たす。
サガは杯を覗き込んだ。なみなみと注がれた琥珀色に、月が映ってゆらりと揺れていた。
「13年間、よく頑張って聖域を守り通したな」
サガははっと顔を上げた。シオンはもう酒に口をつけている。
「わ、私は…そのような言葉を頂くことは何も…」
杯を持つ手が震える。過去の自分の驕慢によって多くの仲間が苦しみ、死に追いやられたのだ。そのせいで、生きてハーデスとの聖戦を迎えることの叶わなかった聖闘士たちの無念を思えば、労りの言葉など申し訳なさすぎて受けることが出来ない。
「やれやれ、相変わらず真面目な男だの。まあ良い、お前も飲め」
シオンはその反応すら予測していたかのように、最初の杯を軽く飲み干してサガにも酒を促す。サガも仕方がなく杯をぐっと空けた。
「お主は神になろうとしたが、それすらも大いなる運命の流れにすぎなかった。それはもう一人のお主にとって充分な罰であろうよ。」
空いた杯に、すかさずまた新しい酒が注がれる。
「罰だけでなく、たまには儂に後進を褒める機会を与えさせよ。儂にとっては直接の弟子だけでなく、この聖域にいる聖闘士の全てが可愛い孫のようなものなのだ」
「…孫、ですか」
正規の聖闘士から雑兵にいたるまで、教皇は聖域の全ての者にとっての父であり、厳しくも等しく慈愛を与える存在であった。それゆえに誰からも畏敬の念で慕われるのだ。
「サガよ、お前は出来が良いほうだ。もう少し胸を張るが良い…なんじゃ、泣く事はなかろう」
ほたほたと涙を零して下を向いてしまった双子座を、苦笑しながらもシオンはそれすら酒の肴にした。
「お主とはゆっくり話をしてみたかった。時間も酒もたっぷりあるゆえ、今夜は覚悟せよ」
「………御意にございます」
泣きながらも丁寧に返すサガを見て、やはりこの男は真面目だとシオンは感心した。
数時間後。
「流石にお主を抱えて此処を降りるのは、厳しいのだが」
すっかり酔いつぶされて転がっているサガを、『どこまでも手のかかる男だ』と自分が飲ませたことは棚に上げて、どうしたものかと溜息をつくシオンがいたのだった。
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たまにはサガに優しいシオン。七夕なので星の下で酒盛りです。
うあ、考えてみましたら、朝書いたSSには今週のロストキャンバスのネタバレが含まれていましたので、以下に隠しました。
拍手御礼はのちほどさせてくださいね!
強○なのに何がわーいだ。しかも×じゃなくVSになりそうですよ。
白サガならリョウジョクされてもモーマンタイなのに、黒サガには汚れず格好いいままでいて欲しい気もして、この矛盾感がたまらん。黒サガにはヒュプノスの方が相性良い気もします。
こんな妄想で毎日楽しめる安上がりな自分万歳。
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サガは溜息を静かに零し、顔にかかる髪をかきあげた。
「私が相手では不足か、タナトス」
目の前ではタナトスが口元に笑みを浮かべている
「そうは申さぬ。隠されたもう一人のお前の反応も見たいというだけだ」
黒の意思を持つサガを出せとタナトスが言い出したとき、常ならばその命に素直に従うサガが、珍しく躊躇した。
だが、この死を司る神が、言い出したことを簡単に変えたりはしないことを、サガはよく知っている。
「アレが表に出るのを、嫌がっている。それに…このような、途中で…アレに、あまり無体なことをしないでやってくれないか」
「案ずるな。奴もまたサガなのだろう?可愛がってやるさ。お前にするようにな」
白い意思をもつサガは、もう逆らわず内面に沈んだ。サガの面に苦渋の色が見えたかと思うと、ざあっと髪が黒く染まる。
次にタナトスを見つめ返した瞳は赤く染まっていた。
タナトスは満足そうに黒サガを見つめた。
「フ、お前に私の相手をする栄誉を与えてやる」
対して、黒サガの無表情は逆に秘められた怒りを強く表していた。
「この下衆が…私を呼び出したことを後悔させてやろう。私はアレと違い貴様に遠慮などせん」
そんなわけで対戦中のチェスを再開させた二人だが、全世界と神を相手に策謀を巡らしてきた黒サガの巧みな戦略の前に、短慮なタナトスは簡単に撃沈し、渋面を作る羽目になったのだった。
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忍者ブログだからエロ不可とはいえ何じゃこのオチ。白サガはチェスなんかでも勝てるのにたまにタナトスに花を持たせてあげてるわけですよ。
「デスマスクが好きなもの…ですか?」
ふいに問われたシュラは首を傾げた。
「彼と仲の良いお前達ならば、知っているのではないかと思ってな」
尋ねたサガの顔は真剣だ。アフロディーテが隣で渋い顔をする。
「サガ、あの男との関係を『仲良し』と称されると、いささか抵抗があります」
「しかし実際、仲が良いではないか」
抗議をさらりと流し、サガは魚座の主にも同じ事を尋ねた。
「アフロディーテは何か知っていないだろうか。彼の今までの労をねぎらって、何か贈りたいのだ」
真面目に聞かれているのだと判り、シュラとアフロディーテは記憶を辿ってみる。
シュラがこめかみに指を当てながら、おぼろげな記憶を引き当てた。
「たしか…ピーがつく何とかが凄く好きだとか……」
「放送禁止用語の入った大人向けビデオか?」
サガが呟くと直ぐに二人からツッコミが入った。
「違うぞサガ!」「どこでそんな情報を得たんですか!生活音痴のくせに!」
カノンが昔、よくそういったアダルトビデオを家に隠していたとは言いにくくて黙ったサガだった。
アフロディーテがシュラの言葉から同じく記憶の断片を引っ張り出している。
「確か四文字くらいでした。日本のもので、何とかピーという…」
「ああ、確かそうだった。よく判らない話であったので聞き流していたが」
「老師もお好きだという話だったな?」
二人の話をまとめると『日本のもの』『ピーが語尾につく』『四文字』『老師も好き』という事らしい。
日本のものであるのならば、日本人に聞いてみようと星矢のもとを訪れたサガだった。
「ええ?ピーが最後につく日本のもの?」
星矢は首を捻った。
「カキピーくらいしか思い浮かばないけど」
13歳の少年に聞いたところで、出てくるのは菓子名位に決まっているのだが(そして人選にも問題があったが)、サガがそこまで気づくわけもない。
「カキピーというのは何だ?」
「柿の種の形をしたお菓子+ピーナッツ、略して柿ピー。その辺で売ってるよ」
「そうか、デスマスクは舌が肥えているからな。東洋の菓子にも造詣が深いのだろう」
そんなわけで、業務用ダンボールで届けられた大量の柿ピーに、デスマスクは首を捻る事になるのだった。
サガは気を利かせて童虎にも大量の柿ピーを送りつけたので、中国では童虎も首を捻っていたのは言うまでもない。
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のりピーですよ。
そして、仲良いくせに単なる腐れ縁だと主張したがる魚