昨日の妄想の前ふり
============================
カイーナ城にはいくつもの空き部屋がある。厳密に言えば空いているわけではなく、迎賓用にしたり、仮眠室としたり、さまざまな用途のために予備として確保してある部屋だ。
そのうちの一つをカノン用とすることに決めたのは、海将軍筆頭である彼の来訪が多かったこと、その折にラダマンティスの部屋のソファーをベッド代わりに占用されるのを防ぐためだ。
多かった…と過去形なのは、仮にも他界の筆頭将軍をソファーで寝かせるわけにはいかないと言われたカノンが、「では私人としてくれば良いのだな」「ソファーが駄目なら同じベッドでも構わんぞ」などと言いだしたからであった。それ以来カノンはすっかり用事もなく押しかけるようになり、今までの公務がほとんど建前であったことを嫌でも理解したラダマンティスである。
仕事が終わって私室に帰ると、己のベッドにカノンが既に寝ていたなどという経験を数回もすれば、カノン用の寝室を用意しようという発想が浮かぶのは必然といえる。
そんなわけで、カノンの眠る場所さえ確保できれば、用意するのは物置部屋でも良かったのだが(実際アラクネあたりはそのように準備しようとした)、腐っても相手は黄金聖闘士兼海将軍筆頭だ。外交上問題が無い程度のランクの、窓が大きく調度品の質も良い角部屋を彼用にしつらえてやる。
そして、本日もさっそく押しかけてやってきたカノンへ、ラダマンティスはその事を伝えたのだった。
「カノン、お前のために部屋を用意した」
冷静に述べられたその台詞のなかには、だからもう俺の部屋へ勝手に入ってくれるなというメッセージが多分に篭められている。
驚愕を隠さずに口をあけているカノンを見たラダマンティスは、予想と異なる反応に首をかしげた。いつものように図々しく、当然のこととして受け入れるものだとばかり思っていたのだ。
(本音を隠さず、冷たく言いすぎたか?)
あまりに長い沈黙に、声をかけようとした途端。
「…いきなりプロポーズされるとは、流石のオレも驚いたぞ」
カノンの返事に今度はラダマンティスが固まった。
「………は?」
「そうと決まれば善は急げだ。身一つでくるつもりだが、1日準備の時間をくれないか」
「ちょっと待て」
「身一つというのは比喩で、実際には二人になると思うので、よろしくな」
「ちょっと待てと言っている」
制止を聞かず、あっという間に去っていったカノンを呆然と見送ったラダマンティスは、何が起こったのかまだ理解出来ないでいるのだった。
============================
パチパチいつもありがとうございます(>▽<)お返事は夜にさせて下さいね
出勤前のタイムスケジュールは、起きる→シャワータイム→パンを齧りつつブログタイム→送信ボタンを押してお出かけ→駅に着くと同時に電車がホームに入ってくる…という、タイトで優雅さの欠片も無い状況となっております。推敲する時間もとってないので、毎回誤字や入力ミス連発です\(^▽^)/
…OTZ
そんなわけで、昨日も結構恥ずかしい間違いをしておりました。Aさんご指摘ありがとうございます。早速直しましたえへへ…
サガはそういう凡ミスしなさそうですよね。書類が超多くて大変なときでも、流れるようにさらさらと処理。しかしうっかり最後の決済印や確認印を押すとき、13年間のクセで教皇印をパン!と押してしまい、押した後に気づいて「OTZ」ってなってれば良いですよ!
============================
「あっ…」
ようやく仕上げた書類にサインを入れ終えたサガは、羽ペンを持ったまま固まった。定刻どおりに仕事が終わった安堵感で、気が緩んでいたのかもしれない。仕事後に約束したカノンとの外出に、気が急いていたのかもしれない。
慣れた手つきで綴られたそこには、シオンの名が記されていた。
十三年間、偽教皇として聖域に君臨しているあいだ、サガはシオンの振りをし続けた。当然、教皇としての署名もシオンとしてである。今では完璧に筆跡を真似することが出来るくらい、それは己の名前よりも手に馴染んでいる。そのことがアダになったのだろう。無意識に手が動いてしまったのだ。
サガは溜息をついた。最初から書き直すしかない。今からでは、カノンとの約束の時間にも間に合わないだろう。過去の罪悪が自分を哂っている気がして、サガはもう一度溜息をつく。
新しい羊皮紙を取りに行こうと立ち上がりかけて、サガはぎょっとした。何時の間にかシオンが背後にたち、その書類を覗き込んでいたのだ。
「なるほど、よく出来ている。本人にも見分けがつかぬわ」
「…申し訳ありません」
何と言ってよいのかわからず、サガは頭をさげるしかない。タイミングの悪さに、少し泣きたくなった。だが、全て自分が悪いのだ。
シオンはその書類を手に取ると、「ふむ」と頷いている。それからちらりと時計に目をやった。
「帰って良いぞ。この後、予定があるのだろう?」
「し、しかし、その書類を直さねば…」
明日の朝までに必要な書類なのだった。どうしても今日中に仕上げておかねばならない。
けれどもシオンはにやりと笑った。
「内容は完璧だ。問題の無い書類ではないか」
「ですが…!」
「頭が固いの。この書類はおぬしが作り、私がサインをした。ということで良かろう」
「!!!」
ぽかんと見つめるサガへ、早く帰れとばかりにシオンは片手をしっしっと振っている。
「誕生日くらい、融通の利く上司でいさせろ」
「……ありがとうございます」
サガは深く頭を下げ、くるりと踵を返してカノンとのもとへ駆け出した。
============================
いつもパチパチ有難う御座います(>▽<)朝の活力源です!
============================
双児宮を訪れたタナトスの手には、綺麗な螺鈿の細工箱があった。
その日がサガおよびカノンの誕生日であることを思えば、プレゼントなのかもしれないが、死の神であるタナトスが誕生を祝うとも考えにくく、単なる来訪の手土産かもしれない。
(いや、こいつが人間相手にそのような気遣いをするか?)
カノンは胡散臭げに冥界の神を見た。それでも迷宮を消して通してやったのは、まがりなりにもサガの客であることと、神の前で迷路程度はなんの足止めにもならず、却って機嫌を損ねて破壊の限りを尽くされるであろうことが予測できたからだ。
リビングでは白サガが最上級の紅茶を淹れている。
タナトスは慣れた様子でリビングの客椅子へ腰をおろし、細工箱を開けた。
中から出てきたのは銀の五芒星のペンダントだ。
「お前のために用意した」
サガに目をやりながら言っているのを見ると、当然サガ用なのだろう。内容からして、やはり誕生日プレゼントであったのだろうか。双子であるカノンも同じく誕生日であるのだが、カノンは自分用のプレゼントがないことにむしろ安堵した。死の神からの贈り物など、激しく拒否したい。
しかしサガの感想は違ったようだ。
嬉しそうにその箱を覗き込む。
「わたしに…?何か文字が書いてあるようだが…」
「フッ、ハーデス様に倣ってみようと思ってな」
何気なく一緒に覗き込んだカノンの目に映ったのは『YOURS EVER』の文字。
「ふざけんなーーー!」
カノンの叫びもどこ吹く風で、タナトスはサガの淹れた紅茶を優雅に飲み始めている。
「安心せよ、お前の分もヒュプノスが用意するらしい。俺はどうでもいいが、セットで作りたいと言っていてな。後でそちらも届けさせよう」
「いらんわ!そういう意味で怒ったのではない!」
カノンとタナトスが揉めている間、何時の間にか出てきた黒サガが油性ペンで、ペンダントの文字の真ん中に『N』を付け足していたのだった。
============================
今日もぱちぱち有難う御座います(>x<)相変わらずコメント返信が遅れていて申し訳ありません。
うう、もう双子期間内は祝い続けてやる!(>△<)
============================
突然差し出されたパンを見てから、デフテロスはアスプロスの顔を見上げた。アスプロスが手にしているのは、揚げたてのパンにたっぷり蜜のかかった菓子パンだ。まだ、一修行者にすぎない彼らの感覚からしてみると、相当に贅沢なシロモノと言ってよい。
ましてデフテロスは「存在しない者」として扱われてきた。食べ物の確保すら厳しいときがあるというのに(アスプロスは決してそんな素振りはみせず、必ず弟の食事もどこからか手に入れてきた)、甘いものなど口に入る機会があるわけもない。
「これは?」
目を瞬かせながら尋ねると、町で有力者の家の力仕事を手伝った礼にもらったのだと言う。子供であっても聖闘士候補生ともなれば、大人以上の役にたつ。
「今日は誕生日だから、お前にと思って」
ギリシアに誕生日を祝う風習はないが、それ以前の部分で意味が判らず、デフテロスは首を傾げる。
「今日がお前の誕生日だと、何故お前が俺にパンを持ってくるのだ?」
決してデフテロスが鈍いわけではない。誕生日の記念に兄が美味しいものを食べるのならともかく、何故自分がという疑問符しか浮かばなかったのだ。
アスプロスは呆れたように、少しだけ怒ったようにデフテロスを座らせ、自分も隣へと腰を下ろす。
「お前の誕生日でもあるだろう。俺たちは双子なのだから。俺がお前の生まれてきた日に感謝するのはおかしいか?」
今度こそデフテロスは目を丸くした。
凶星を持つ自分が、その生まれを人々に疎まれることはあっても、その逆はなかった。これからも無いだろう。兄は一体何に感謝をするというのか。
とまどっている顔など気にもせず、アスプロスはデフテロスの仮面を外して鼻をつまんだ。息が苦しくて開けられた口へ、揚げパンが押し込まれる。むぐむぐ食べると、口の中に蜂蜜の甘みが広がった。
「…美味い」
食べ終わったデフテロスがそう呟くと、ようやくアスプロスは笑った。
「俺はお前が居てくれて嬉しい。だから今日という日を祝いたいのだ」
「…」
兄の笑顔が、いつも以上に眩しく見えた。
己にとってもアスプロスの存在はかけがえのないものなのだが、そう言おうとして、自分は何も用意していないことに気づく。
何も言わずにその場を離れたデフテロスが、夕方になって泥だらけで花と果物を持ち帰ったのを見て、アスプロスは再び微笑んだ。
そんな幼少時を思い出して、カノン島のデフテロスは空を見上げた。あのとき以来、甘いものが大好きになったのだった。蜂蜜のやわらかな甘さは兄を思い起こさせた。
しかし、その兄はもういない。
教皇に対して謀反を試みたために、誅殺されたのだ。
他ならぬ自分の手によって。
独りだけで過ごす初めての誕生日に、デフテロスは島中の白い花を集めて海へ散らした。
遠からずアスプロスは第二の命を得て蘇ってくる。
その時には、今度こそ自分から兄へ贈り物をしようと彼は考えた。
いまの自分が持つたった二つのもの、黄金聖衣と己の命でもって。
============================
N様コメント返信が遅れていて申し訳ありません(>x<)
ほかパチパチ下さった皆様に御礼申し上げます!スタミナ源です!
誕生日おめでとう双子たち(>▽<)皆様のお祝い作品にうはうはです。うう、今年は仕事でばたばたしていて、自分のところであまりお祝いが出来ていないのが悔しすぎる。夜にも何か書ければいいのに。LC双子ネタも書きたいなあ…
以下誕生日ネタでロスサガ
============================
闘技場を目指して十二宮を降りていたアイオロスは、双児宮から出てくる人影をみつけて、軽く手を振った。黒サガだったがそんな事は気にしないのが彼だ。サガ側はといえば、直ぐにアイオロスに気づき、軽く顔をしかめたものの、珍しく声をかけてきた。
「早いな、今から鍛錬か?」
「ああ、そうなんだ。君は?」
まだ陽も昇っておらず、東の空は明るくなり始めたものの、辺りは薄暗い。
アイオロスは頷きながらも、何気なく探りを入れる。黒髪のほうのサガは、基本的に自分で食事を作らないため、そのあたりの雑兵を捕まえては朝食の用意をさせることが良くあるのだ。
その度に黒サガファンになる雑兵が増えるので、牽制はしているのだが、なかなか追いつかない。
しかし、どうやら今朝は朝食確保のための外出ではないようだ。よく見ると黒サガはアイオロスと同じように、訓練用の身軽な麻服を着用している。
黒サガはあっさりと返事をした。
「わたしもだ。丁度よい、貴様が暇ならば、わたしの鍛錬に付き合え」
「え、いいのか?」
声をかけたほうのアイオロスが驚いた。いつもならば挨拶をしても無視をされることも多い。こちらのサガは明らかにアイオロスと関わりを持たぬようにしているのが見て取れるのだ。
勿論、そんな距離感はアイオロスの不満とするところである。
機を見ては、手を変え品を変え接するようにしているのだが、その成果が出てきたのだろうかと、じっとサガを見た。
「何だ、わたしの顔に何かついているか」
「いいや、それよりじゃあ直ぐ行こう!訓練場を確保しないとね」
早朝ではあるが、訓練生たちもそろそろ修行の始まる時刻だ。黄金聖闘士同士の訓練ともなると、周囲に被害を及ぼさぬよう広範囲の場所が必要となるが、訓練生たちを追い出して陣取るわけにもいかない。先に専用闘技場を確保する必要があった。
気が変わらぬうちにと、アイオロスは黒サガの手を返事も待たずに掴むと、鼻歌を歌う勢いで道を駆け出した。
アイオロスとサガの稽古は、当然ながら実戦さながらの激しさで、拳の打ち合う音が遠くまで響き渡る。ただし、拳速はマッハ程度だ。逸れた攻撃が地面をえぐる事はあっても、闘技場が倒壊するほどの威力はない。双方、力を抑えての撃ちあいだった。
抑えているとはいえ、気を抜くと一瞬で首が飛ぶレベルではあるので油断は出来ないのだが、アイオロスは内心で首を捻っていた。
(アレ?何か動きに無駄が多い…?小宇宙の燃やし方も効率が悪いし)
白銀聖闘士程度では見分けのつかぬような差異も、黄金聖闘士であり、教皇候補でもあるアイオロスの目には大きな粗となって映る。手を抜かれているのかと思ったが、攻撃の内容を見る限り、それもちがう。何よりサガはそんな失礼な事はしない。では調子が悪いのだろうかとも考えたが、無駄な動きでありながら速度だけはアイオロスに合わせていることを考えると、むしろ普段よりもエネルギーと仔細な判断力を要するはず。
どうもサガは、故意に無駄で力任せの攻撃を、いつものスピードとキレに持っていこうとしているようだ…とアイオロスは判断し、思わず疑問を口にした。
「何でそんなことをしているんだ?」
左拳で脇腹を突こうとしていたサガは、その拳をとめてアイオロスを見た。
「…直ぐにわかる」
「え?何がだ?」
「そうだな…始めたばかりだが、少し休憩を入れよう」
黄金聖闘士の体力と能力からすると、この程度の鍛錬ではウォーミングアップ程度にしかなっていないのだが、アイオロスは黒サガのいうとおり、自分も拳を一旦おさめる。
何か黒サガの説明が始まるのかと待っていたアイオロスは、休憩とみるや途端に黒サガの周りへ集まってきた雑兵や神官候補たちの姿を目にして、固まった。
黄金聖闘士の訓練を見学するために、闘技場に人があつまるのは良くある事だが、その見学者たちのほとんどが黒サガのところへ押しかけたのだ。…しかも手になにか持って。
「誕生日おめでとうございます!」
「これ、サンドイッチなんですけど訓練後に食べてください」
「ケーキを持ってきました。カノン様の分もあります」
「菓子パンの詰め合わせです。甘いものが口に合えば良いのですが」
アイオロスは額を抑えた。そういえば集まっているのは双児宮の周りで見たことのある顔ぶればかりだ。サガの誕生日ということであれば、ファンの雑兵たちが集うのも当たり前だ。
眺めている間にも、黒サガの手には贈られた品物が増えていく。雑兵たちはそれほど裕福ではないので、贈られるものは彼らの手に届く、ささやかなお菓子類や果物が多い。
持ちきれない品物もサガは器用に念動力で支え、それらを一度闘技場の中でも綺麗な石段の上へと置いた。
「…これらを食して聖闘士の身体を維持するのに、どれくらいカロリーを消費すればよいと思う」
皆が去った後にぼそりと黒サガが呟いたのを聞いて、アイオロスは苦笑する。
「あー、それでさっきから小宇宙を発散しまくっていたわけね」
返事の代わりに溜息が返されたのをみて、アイオロスはサガの顔を覗き込む。
「一晩俺に付き合ってくれたら、もっと発散させてあげるけど?」
「教皇候補も意外と下世話な冗談を言うのだな」
「冗談じゃないのに」
真剣な眼差しが黒サガの紅目と交錯した。
目をぱちりとさせた黒サガへ、アイオロスは「誕生日おめでとう、俺からの甘いキスを最初に食べて欲しいな」と必殺の言葉を突きつけた。
============================
拍手コメント返信も夜にさせてくださいね(><)ばたばたなまま今日も仕事に行ってきます!