星矢関連二次創作サイト「アクマイザー」のMEMO&御礼用ブログ
そのとき、デスマスクは珈琲を挽いているところであった。
良い豆が手に入ったので、午後の一服を楽しもうとしていたのである。
そこへ突然現れた黒髪のサガを見たときの感想は『タイミングいいなあ』であった。
デスマスクの印象として、どちらかといえばサガは『タイミングの悪い』人間である。そのせいで二割ほど人生を損しているのではないかと思うほどだ。とはいえ、もともと持っている才能や英気や美貌が他人より抜きん出ているのだから、それでもマイナスにはならないだろう。ちなみに『タイミングの良い』人間の筆頭はアイオロスだ。
「どうしたんスか?」
とっておきの客用珈琲カップを取り出し、自分のカップの隣へ置く。
サガはもてなされるのが当然のように木製のチェアへ座ったが、デスマスクは密かに眉をひそめた。長年のつきあいだけあって、サガのわずかな小宇宙の乱れを見落とすことはない。珍しくこちらのサガが意気消沈しているようにみえる。
「アレが、フラれた」
「はあ?」
「それでわたしもフラれた」
「何言ってるのか全然判らないんですケド」
話を聞きながらも手は休めずに、挽きたての珈琲を布製のフィルターでドリップする。香りが部屋へと充満した。
「だから、浮気相手を探しているのに、誰からも断られる。わたしはそれほど価値のない人間か?」
「……」
通常であれば、これでもまだ説明不足すぎて何のことか意味不明である。だが、デスマスクはだてに長年共に過ごしてきたわけではなかった。丁寧に順番に質問していく。
「それで誰にフラれたって?」
「カノンとシュラとアフロディーテとアイオリア」
「うおおおおおい、そんなに声かけたのかよアンタ!何でまた!」
「タナトスを見返してやろうと思ったのだ」
「タナトスの浮気の仕返しにか?あの神の女好きはいつものこったろ!アンタは気にしてないと思っていたんだが」
「そのようなことは気にしておらん。ただ、アレを離縁をすると言い出して…」
デスマスクの目が点になる。正直よく数年も結婚生活がもったものだと思っていたので、タナトスからの離婚の言及は予測の範疇内である。予想外なのは黒サガの反応の方だ。
「嬉しいだろ?やっと男の嫁なんて立場から開放されるんだぜ?」
「それは嬉しいが、アレの…もうひとりのわたしの価値を否定されるのは許せん」
「それがなんで浮気に繋がるんだよ…って、見返すためというのはそれか!?」
デスマスクからするとトンだ恋愛音痴としか表現のしようがない行動である。しかも、それで浮気の誘いをかけまくったのに断られ続けて自爆を重ねているようなのだ。
「考えてみれば、わたしは誰にも必要とされたことがない。私自身にすらだ。世界を手にするだけの力を持っているのに、何がいけないのだ」
いくら馴染みのデスマスクの前とはいえ、このサガが他人の前で愚痴を零すなど、相当に打ちのめされている。本人も半分ほどしか自覚がないようだが。
デスマスクはそっとサガの前に珈琲を差し出した。
(さて、俺にも浮気の誘いが来たらどうしようかね)
おそらく、というかほぼ100%そのつもりで来ているのだろう。安売りなどサガに似合わないことこの上ない。
サガが大切であるがゆえに、または真面目であるがゆえに断った面子と異なり、デスマスクは浮気くらい問題ないかなとは思っている。サガを楽しませる自信もある。
ただ、そのあとが怖い。
サガを受け入れた自分は、多分タナトスとアイオロスを相手にすることになるだろう。
それも怖くない。
怖いのは、それによってデスマスクを相手にした事を、サガが後悔するかもしれない未来だ。
(しょうがない、全力ではぐらかすか)
自分までが断った時のサガの顔を見たい気もしたが、デスマスクはそこまで酷い男ではなかった。
冷めぬうちにと自分も珈琲カップを口につける。
焙煎の苦味が舌先に広がった。
良い豆が手に入ったので、午後の一服を楽しもうとしていたのである。
そこへ突然現れた黒髪のサガを見たときの感想は『タイミングいいなあ』であった。
デスマスクの印象として、どちらかといえばサガは『タイミングの悪い』人間である。そのせいで二割ほど人生を損しているのではないかと思うほどだ。とはいえ、もともと持っている才能や英気や美貌が他人より抜きん出ているのだから、それでもマイナスにはならないだろう。ちなみに『タイミングの良い』人間の筆頭はアイオロスだ。
「どうしたんスか?」
とっておきの客用珈琲カップを取り出し、自分のカップの隣へ置く。
サガはもてなされるのが当然のように木製のチェアへ座ったが、デスマスクは密かに眉をひそめた。長年のつきあいだけあって、サガのわずかな小宇宙の乱れを見落とすことはない。珍しくこちらのサガが意気消沈しているようにみえる。
「アレが、フラれた」
「はあ?」
「それでわたしもフラれた」
「何言ってるのか全然判らないんですケド」
話を聞きながらも手は休めずに、挽きたての珈琲を布製のフィルターでドリップする。香りが部屋へと充満した。
「だから、浮気相手を探しているのに、誰からも断られる。わたしはそれほど価値のない人間か?」
「……」
通常であれば、これでもまだ説明不足すぎて何のことか意味不明である。だが、デスマスクはだてに長年共に過ごしてきたわけではなかった。丁寧に順番に質問していく。
「それで誰にフラれたって?」
「カノンとシュラとアフロディーテとアイオリア」
「うおおおおおい、そんなに声かけたのかよアンタ!何でまた!」
「タナトスを見返してやろうと思ったのだ」
「タナトスの浮気の仕返しにか?あの神の女好きはいつものこったろ!アンタは気にしてないと思っていたんだが」
「そのようなことは気にしておらん。ただ、アレを離縁をすると言い出して…」
デスマスクの目が点になる。正直よく数年も結婚生活がもったものだと思っていたので、タナトスからの離婚の言及は予測の範疇内である。予想外なのは黒サガの反応の方だ。
「嬉しいだろ?やっと男の嫁なんて立場から開放されるんだぜ?」
「それは嬉しいが、アレの…もうひとりのわたしの価値を否定されるのは許せん」
「それがなんで浮気に繋がるんだよ…って、見返すためというのはそれか!?」
デスマスクからするとトンだ恋愛音痴としか表現のしようがない行動である。しかも、それで浮気の誘いをかけまくったのに断られ続けて自爆を重ねているようなのだ。
「考えてみれば、わたしは誰にも必要とされたことがない。私自身にすらだ。世界を手にするだけの力を持っているのに、何がいけないのだ」
いくら馴染みのデスマスクの前とはいえ、このサガが他人の前で愚痴を零すなど、相当に打ちのめされている。本人も半分ほどしか自覚がないようだが。
デスマスクはそっとサガの前に珈琲を差し出した。
(さて、俺にも浮気の誘いが来たらどうしようかね)
おそらく、というかほぼ100%そのつもりで来ているのだろう。安売りなどサガに似合わないことこの上ない。
サガが大切であるがゆえに、または真面目であるがゆえに断った面子と異なり、デスマスクは浮気くらい問題ないかなとは思っている。サガを楽しませる自信もある。
ただ、そのあとが怖い。
サガを受け入れた自分は、多分タナトスとアイオロスを相手にすることになるだろう。
それも怖くない。
怖いのは、それによってデスマスクを相手にした事を、サガが後悔するかもしれない未来だ。
(しょうがない、全力ではぐらかすか)
自分までが断った時のサガの顔を見たい気もしたが、デスマスクはそこまで酷い男ではなかった。
冷めぬうちにと自分も珈琲カップを口につける。
焙煎の苦味が舌先に広がった。
エリシオンへ足を運んだシュラは、通り道の花園に、楽園らしからぬ黒色が広がっているのを見つけた。
「何をしているのですか」
シュラが話しかけると、その黒がごろりと動いて、広がった髪のしたから紅玉の瞳が覗く。
「不燃物の気持ちになっていたのだ」
「何を訳のわからないことを。あなたは燃えるでしょう」
シュラも相当に天然であったが、とりあえず黒サガがやさぐれていることは感じ取っていた。道から逸れて黒サガの寝転んでいる花園へと踏み込む。花を踏まぬようにあるくのはなかなか大変だなと思いながら。
「どうしたんです?」
「わたしはそれほど価値のない人間か?」
聞かれたシュラは大そう驚いた。この自信家のサガが、誰かに自分の価値を尋ねるなど考えられない。
「あなたの価値を他人が量ってよいのですか」
そういうとサガは首を捻り、言いなおした。
「わたしはそれほど必要のない人間か」
「あなたなら引く手数多でしょう」
「わたしもそう思っていたのだ。なのに奴らはわたしを要らぬという」
「やつらとは?」
サガはちらりと視線を動かした。視線の方角にあるのはサガとタナトスの住まいであり、弟の住むエリアでもある。
「お前ならばわたしの浮気につきあってくれるか」
サガがいきさつを説明したうえで尋ねてきたが、シュラは困ったような顔をするしかなかった。
「できません」
「……そうか」
サガは黙って立ち上がると、法衣にまとわりついた草や花びらを払った。
「おまえもわたしが不要なのだな」
「違います」
「違わないだろう」
「浮気だから嫌なんです、カノンもきっと」
「意味が判らぬ」
こちらのサガは本当に判っていないようであった。
「まあいい、他のものにも聞いてみよう」
「え、ちょっと、サガ!」
シュラが止める間もなく、黒髪のサガはどこかへと瞬間転移で消えていった。
「何をしているのですか」
シュラが話しかけると、その黒がごろりと動いて、広がった髪のしたから紅玉の瞳が覗く。
「不燃物の気持ちになっていたのだ」
「何を訳のわからないことを。あなたは燃えるでしょう」
シュラも相当に天然であったが、とりあえず黒サガがやさぐれていることは感じ取っていた。道から逸れて黒サガの寝転んでいる花園へと踏み込む。花を踏まぬようにあるくのはなかなか大変だなと思いながら。
「どうしたんです?」
「わたしはそれほど価値のない人間か?」
聞かれたシュラは大そう驚いた。この自信家のサガが、誰かに自分の価値を尋ねるなど考えられない。
「あなたの価値を他人が量ってよいのですか」
そういうとサガは首を捻り、言いなおした。
「わたしはそれほど必要のない人間か」
「あなたなら引く手数多でしょう」
「わたしもそう思っていたのだ。なのに奴らはわたしを要らぬという」
「やつらとは?」
サガはちらりと視線を動かした。視線の方角にあるのはサガとタナトスの住まいであり、弟の住むエリアでもある。
「お前ならばわたしの浮気につきあってくれるか」
サガがいきさつを説明したうえで尋ねてきたが、シュラは困ったような顔をするしかなかった。
「できません」
「……そうか」
サガは黙って立ち上がると、法衣にまとわりついた草や花びらを払った。
「おまえもわたしが不要なのだな」
「違います」
「違わないだろう」
「浮気だから嫌なんです、カノンもきっと」
「意味が判らぬ」
こちらのサガは本当に判っていないようであった。
「まあいい、他のものにも聞いてみよう」
「え、ちょっと、サガ!」
シュラが止める間もなく、黒髪のサガはどこかへと瞬間転移で消えていった。
突然押しかけてきた黒髪の兄に、カノンは驚いた顔をみせたが、すぐにソファーへ座るよう促した。
ちなみにカノンはエリシオンの離宮の1つをヒュプノスから貰っている。カノンにとってはサガの居る場所が自分の居場所であるとの思いがあり、タナトスは自分の対であるというヒュプノスと利害や思惑が一致したためだ。
そしてサガにとっても実家とは十二宮ではなく、カノンのもとである。
ある意味、これは初めて黒サガがカノンを頼った瞬間でもあった。
「何があったんだ?」
「離婚を切り出された」
端的に答えた黒サガはどかりとソファーへ腰を下ろす。どこか微妙に不機嫌そうだ。
「オレは嬉しいが、おまえら上手く行ってそうな感じだったのに、どうしたんだよ」
「上手く行っていたと思っていたのはアレだけで、タナトスの側は結婚など最初から迷惑なだけであったということだろう」
むすりと答える黒サガに、カノンは心の中で『あれ?』と思った。白いほうのサガならいざ知らず、こちらのサガであればタナトスとの離婚は諸手を上げて喜ぶであろうと予測していたのだ。
「なんだ、不満なのか」
「当たり前だ!このわたしの価値が分からんなど、やはりあの男は二流神よ」
「…ふうん。それで原因は?何をして怒らせたのだ」
「原因などない。結婚を解消するのに離婚という手段があることを、ようやく奴が認識しただけのこと」
「その言い分だと、おまえは前から気づいていたのだな」
カノンが問うと、黒髪のサガははっとしたような表情になり、それから気まずそうに視線を逸らした。
「アレが…もうひとりのわたしが楽しそうであったゆえ、口をだすこともないかと…わたしにとっても聖域で過ごしてあの男の配下となるより快適ではあるしな…」
あの男というのはサガの親友であり、次期教皇でもあるアイツのことだろうなあとカノンはふんだ。黒サガもサガだけあって、相当にねじくれている。己の好意がどこにあるのか、自覚出来ないタイプなのだ。善性や正の感情の大部分を受け持つのが白サガであるためかもしれない。
カノンはため息をつきながらもサガを諭す。
「ある意味これは好機ではないか?向こうから言い出したんだ。円満に別れられるだろ。お前だって何故男神の嫁なんかにならねばならんのだと、散々愚痴を言っていたじゃないか」
「そうなのだが、別れるのならば惜しまれ悔しがらせた上で別れたい。こちらが振られるような形態は論外だ」
「お前な……」
タナトスもタナトスだが、サガも大概である。
カノンはこめかみを押さえながら尋ねた。
「じゃあ、どうするつもりなのだお前は」
それに対して帰ってきた返事は、カノンにとって斜め上すぎるものであった。
黒サガはソファーの上でふんぞりかえったまま、こう言い切ったのだ。
「浮気をしようと思う」
「……」
何故そうなるのか、頭の回転の速いカノンにもまったく流れが見えない。
「……ちなみに、何で?」
「このわたしがモテると判れば、わたしの価値を理解して悔やむであろうからな!」
「……」
黒サガもサガだけあって、恋愛方面はからっきし駄目なのだなと、カノンはまた思った。
「そんなわけで、愚弟よ。丁度いいからおまえが相手をしろ」
「ごめんこうむる」
時をおかぬカノンの否定に、黒サガが本気でショックを受けた顔をしていたが、そんな顔をされるほうが心外だとカノンは思った。
ちなみにカノンはエリシオンの離宮の1つをヒュプノスから貰っている。カノンにとってはサガの居る場所が自分の居場所であるとの思いがあり、タナトスは自分の対であるというヒュプノスと利害や思惑が一致したためだ。
そしてサガにとっても実家とは十二宮ではなく、カノンのもとである。
ある意味、これは初めて黒サガがカノンを頼った瞬間でもあった。
「何があったんだ?」
「離婚を切り出された」
端的に答えた黒サガはどかりとソファーへ腰を下ろす。どこか微妙に不機嫌そうだ。
「オレは嬉しいが、おまえら上手く行ってそうな感じだったのに、どうしたんだよ」
「上手く行っていたと思っていたのはアレだけで、タナトスの側は結婚など最初から迷惑なだけであったということだろう」
むすりと答える黒サガに、カノンは心の中で『あれ?』と思った。白いほうのサガならいざ知らず、こちらのサガであればタナトスとの離婚は諸手を上げて喜ぶであろうと予測していたのだ。
「なんだ、不満なのか」
「当たり前だ!このわたしの価値が分からんなど、やはりあの男は二流神よ」
「…ふうん。それで原因は?何をして怒らせたのだ」
「原因などない。結婚を解消するのに離婚という手段があることを、ようやく奴が認識しただけのこと」
「その言い分だと、おまえは前から気づいていたのだな」
カノンが問うと、黒髪のサガははっとしたような表情になり、それから気まずそうに視線を逸らした。
「アレが…もうひとりのわたしが楽しそうであったゆえ、口をだすこともないかと…わたしにとっても聖域で過ごしてあの男の配下となるより快適ではあるしな…」
あの男というのはサガの親友であり、次期教皇でもあるアイツのことだろうなあとカノンはふんだ。黒サガもサガだけあって、相当にねじくれている。己の好意がどこにあるのか、自覚出来ないタイプなのだ。善性や正の感情の大部分を受け持つのが白サガであるためかもしれない。
カノンはため息をつきながらもサガを諭す。
「ある意味これは好機ではないか?向こうから言い出したんだ。円満に別れられるだろ。お前だって何故男神の嫁なんかにならねばならんのだと、散々愚痴を言っていたじゃないか」
「そうなのだが、別れるのならば惜しまれ悔しがらせた上で別れたい。こちらが振られるような形態は論外だ」
「お前な……」
タナトスもタナトスだが、サガも大概である。
カノンはこめかみを押さえながら尋ねた。
「じゃあ、どうするつもりなのだお前は」
それに対して帰ってきた返事は、カノンにとって斜め上すぎるものであった。
黒サガはソファーの上でふんぞりかえったまま、こう言い切ったのだ。
「浮気をしようと思う」
「……」
何故そうなるのか、頭の回転の速いカノンにもまったく流れが見えない。
「……ちなみに、何で?」
「このわたしがモテると判れば、わたしの価値を理解して悔やむであろうからな!」
「……」
黒サガもサガだけあって、恋愛方面はからっきし駄目なのだなと、カノンはまた思った。
「そんなわけで、愚弟よ。丁度いいからおまえが相手をしろ」
「ごめんこうむる」
時をおかぬカノンの否定に、黒サガが本気でショックを受けた顔をしていたが、そんな顔をされるほうが心外だとカノンは思った。
永劫を生きる神からしてみれば、数年単位の時間など一睡にもならない。
当然、4~5年程度は超新婚期間と言って差し支えない。
それゆえに、飽きっぽいタナトスでも結婚生活の体裁が失われることなく、今日までやってきている。
ただ、結婚に至るまでの経緯を思えば、彼が結婚生活の体裁をとっていることだけでも驚くべきことであると言えた。
サガとの結婚はいわば『事故』である。ニンフたちからの行き過ぎた求愛を退けるため、サガを盾にするつもりが、結婚の約束があるかのような状況に追い込まれてしまったのだ。
神は嘘をつくことができず、そのせいで心ならずもサガと結婚することになったというわけである。とんだ本末転倒であった。
「人間を塵芥扱いしていたお前が、よくその人間との生活を続けられたものだな」
ヒュプノスがチェス盤の駒を指先で運びながら呟いた。
その内容についても駒の置かれた先についても、タナトスは顔をしかめながら答える。
「仕方あるまい、形式上であるとはいえ、嫁をおろそかには出来ぬ」
「いつまでこのような茶番を続けるつもりだ」
「あの人間が死ぬまでは続くのではないか?まあ封印をされていた期間に比べれば、わずかな我慢ですむ」
タナトスの返答にヒュプノスはため息をついた。タナトスは本気でそう思っているようである。真面目だからというよりも、死の神らしい素直な単純さによるものなのだが。
死の神としてサガの寿命をさっさと刈り取ってしまおうだとか、そういった絡め手で結婚義務期間を短くする方法は考えていないらしい。
「離婚は考えていないのだな」
ヒュプノスが肩を竦めて零すと、タナトスが思わぬことを聞いたとでもいうように目を丸くした。
「離婚……?」
「神が嘘をつけぬという約定ならば、実際に結婚をしたことで果たしているだろう。あとはお前の自由ではないか?」
タナトスが驚愕の表情となる。
「そ、そのような裏技があろうとは」
「いや普通考えるだろう。そうせぬのはよほどサガが気に入ったからなのだとばかり思っていたが」
「このオレが塵芥を?馬鹿な」
「では別れろ」
ヒュプノスからするとタナトスは自分の対であり、タナトスが玩具を気に入って余所見をしている間はその楽しみを邪魔するつもりはないが、そうでなければ他人がタナトスとの時間を奪うことを許すつもりはない。
タナトスも自分を対と思っているはずであり、提案には即応するだろうとヒュプノスは踏んでいた。
しかし、タナトスは思わぬ曖昧な反応をみせた。
「う、うむ……そうしたほうが良いとは思うのだが、離婚となると塵芥の意志も確認せねば…」
意志の確認を取ろうとする時点で、塵芥扱いではなかろうとヒュプノスは心の中で突っ込む。
玩具だからと見逃していたが、執着を産むほどの玩具になってしまっているのだろうか。あの双子座は。
なんとなく不機嫌になったヒュプノスは、遠慮なくチェスの駒を動かし、チェックメイトを宣言した。
当然、4~5年程度は超新婚期間と言って差し支えない。
それゆえに、飽きっぽいタナトスでも結婚生活の体裁が失われることなく、今日までやってきている。
ただ、結婚に至るまでの経緯を思えば、彼が結婚生活の体裁をとっていることだけでも驚くべきことであると言えた。
サガとの結婚はいわば『事故』である。ニンフたちからの行き過ぎた求愛を退けるため、サガを盾にするつもりが、結婚の約束があるかのような状況に追い込まれてしまったのだ。
神は嘘をつくことができず、そのせいで心ならずもサガと結婚することになったというわけである。とんだ本末転倒であった。
「人間を塵芥扱いしていたお前が、よくその人間との生活を続けられたものだな」
ヒュプノスがチェス盤の駒を指先で運びながら呟いた。
その内容についても駒の置かれた先についても、タナトスは顔をしかめながら答える。
「仕方あるまい、形式上であるとはいえ、嫁をおろそかには出来ぬ」
「いつまでこのような茶番を続けるつもりだ」
「あの人間が死ぬまでは続くのではないか?まあ封印をされていた期間に比べれば、わずかな我慢ですむ」
タナトスの返答にヒュプノスはため息をついた。タナトスは本気でそう思っているようである。真面目だからというよりも、死の神らしい素直な単純さによるものなのだが。
死の神としてサガの寿命をさっさと刈り取ってしまおうだとか、そういった絡め手で結婚義務期間を短くする方法は考えていないらしい。
「離婚は考えていないのだな」
ヒュプノスが肩を竦めて零すと、タナトスが思わぬことを聞いたとでもいうように目を丸くした。
「離婚……?」
「神が嘘をつけぬという約定ならば、実際に結婚をしたことで果たしているだろう。あとはお前の自由ではないか?」
タナトスが驚愕の表情となる。
「そ、そのような裏技があろうとは」
「いや普通考えるだろう。そうせぬのはよほどサガが気に入ったからなのだとばかり思っていたが」
「このオレが塵芥を?馬鹿な」
「では別れろ」
ヒュプノスからするとタナトスは自分の対であり、タナトスが玩具を気に入って余所見をしている間はその楽しみを邪魔するつもりはないが、そうでなければ他人がタナトスとの時間を奪うことを許すつもりはない。
タナトスも自分を対と思っているはずであり、提案には即応するだろうとヒュプノスは踏んでいた。
しかし、タナトスは思わぬ曖昧な反応をみせた。
「う、うむ……そうしたほうが良いとは思うのだが、離婚となると塵芥の意志も確認せねば…」
意志の確認を取ろうとする時点で、塵芥扱いではなかろうとヒュプノスは心の中で突っ込む。
玩具だからと見逃していたが、執着を産むほどの玩具になってしまっているのだろうか。あの双子座は。
なんとなく不機嫌になったヒュプノスは、遠慮なくチェスの駒を動かし、チェックメイトを宣言した。
テーブルに座る位置で相手との立場や親密度がわかるという説がある。真向かいに座るのは対立のポジションで、隣に座るのは情のポジションとかそういう。
カフェに入ったアイオロスは、当たり前のように自分の正面へ座るサガを見てそんなことを思い出していた。カノンはどうするかと見ていると、サガの隣へ座った。ラダマンティスは必然的にアイオロスの隣に腰を下ろす。
(そういえば、四人で出かけた時って、テーブルに座るといつもこの配置だよな。俺とラダマンティスが仲良くなってしまうわけだよ)
振り返って考えるに、サガと二人で出かけたときとて、横並びで座ったことなどない。やっぱりサガは自分に気を許してくれていないのだろうか。
(まあ、考えていても仕方ないよね)
アイオロスは真正面のサガの顔をじっと見る。見つめられたサガは怪訝そうな表情をした。サガは仕事中でさえなければ意外と表情豊かだ。
「何かわたしの顔についているか?」
「いいや、相変わらず綺麗な顔だなと思って」
笑って答えると、からかわれたと思ったのか、サガの眉間に皺がよる。
サガの顔をじっくり見て、反応を確かめることの出来るこの位置を、自分は嫌いではないなとアイオロスは思った。
カフェに入ったアイオロスは、当たり前のように自分の正面へ座るサガを見てそんなことを思い出していた。カノンはどうするかと見ていると、サガの隣へ座った。ラダマンティスは必然的にアイオロスの隣に腰を下ろす。
(そういえば、四人で出かけた時って、テーブルに座るといつもこの配置だよな。俺とラダマンティスが仲良くなってしまうわけだよ)
振り返って考えるに、サガと二人で出かけたときとて、横並びで座ったことなどない。やっぱりサガは自分に気を許してくれていないのだろうか。
(まあ、考えていても仕方ないよね)
アイオロスは真正面のサガの顔をじっと見る。見つめられたサガは怪訝そうな表情をした。サガは仕事中でさえなければ意外と表情豊かだ。
「何かわたしの顔についているか?」
「いいや、相変わらず綺麗な顔だなと思って」
笑って答えると、からかわれたと思ったのか、サガの眉間に皺がよる。
サガの顔をじっくり見て、反応を確かめることの出来るこの位置を、自分は嫌いではないなとアイオロスは思った。